折々の絵はがき(54)
◆美術干支年賀 《富士に龍図》◆
波がしぶきを立ててうねり砕ける荒れ狂った海の中から、一匹の龍が姿を現し、身をくねらせながら空をぐんぐん昇ってゆきます。雲を突き抜けた彼の視線の先には霊峰富士が屹立しています。巨大な龍に掛け軸はさぞかし窮屈なことでしょう、不思議なことに描かれた黒雲は富士山の方へとゆっくり流れだし、その雲と共に龍は画面をするりと抜け出ようとしています。
その昔、龍は「龍神」と呼ばれ、水を司る神とされました。寺院の天井などに描かれるのは堂宇を火災から守る意味があるのだとか。また、富士を越えて昇天する龍は出世の吉祥とされたことから、戦国武将たちはこぞって絵師に描かせたといいます。明治期に描かれた人気のモチーフの本作ですが、作者不詳ながら、ユーモアあふれるアイディアが秀逸でユニークです。
龍はまるで「待ってろ富士!」とばかりに、首をもたげ山の頂を見上げています。その姿からは「絶対にあそこへ行く」「そしてあの頂点を超えてやる」という強い意志と、その挑戦にわくわくしている様子が伺えます。さあ動き出せと龍に背中を押された気がしました。新しい年、この龍のようにたくさんのときめく日々がみなさまの元へ訪れますように。
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