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東日本大震災を経験して。 Vol.5 〜ドメーヌ ミカヅキ〜

Vol.4の続き。

震災から10年目。
27歳。

街のハードウェア面は概成。
道路が整備され、街の区画も整備された。
これからはソフトウェア面の復興。
10年目の自分との約束。

「復元」ではなく「復興」。

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復興がベースではあるが、世界に通じるワインのプロでもなければいけない。

「ワイン」と言ってもとても広い。
栽培・醸造だけではなく経営・サービス・販売・環境・観光・政治のこと、様々な目線が必要。

ただなんでもかんでもブドウを植えれば良いというものではない。
ただワイナリーを作れば良いというものではない。

ワインはプロフェッショナル性がとても求められる。

そして初期段階の”設定”でほぼ勝負は決まる。

日本でのワイナリーは第三セクターも多く、小規模ワイナリーが多い。

三セクは街の維持が優先で、質は二の次。
小規模は一本一本のコストも高くなる。

赤字を回避するには世界に発信していけるワイナリーでなければ、いずれ先細りしてしまう。

嗜好品なので美味しい美味しくないは人によるが、ワインは「食品」。品質はセット。
そして「農産物」であり「文化」。整合性が取れていると尚良い。

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いずれにせよ、日本でのワイン用ブドウの栽培好適地はとても限定的。大半の地域はワイン用ブドウ栽培には向いていない。
様々な理由はあるが、一番の理由は降雨量が多いから。やはりシーズン中の台風は大敵。

降雨量が多いと、まず病気が蔓延しやすい。病気は水を介して蔓延っていく。
さらにブドウの樹が過剰な水分を吸収してしまい、ブドウの実は肥大化。肥大化すると「玉割れ」という皮が破けてしまい中身が晒される現象が起こりやすい。果実の皮が薄い、密着している品種は尚のこと。

また、過剰な水分によってブドウの凝縮度が落ちる。ワイン用ブドウは瑞々しく大きなブドウとは真逆で、小さくて凝縮感のある方が良い。

そして、水が多いと、より良い子孫(ブドウ)を樹が残そうとするより、自分(樹体)が成長することに栄養を使ってしまい、美味しいブドウが成らない。

さらに、酸と糖度が低いと、醸造が安定しない。つまり美味しいワインが造れない。
酸は醸造時に雑菌が入ってしまうのを防ぐのに必要で、糖度はアルコールに変わりアルコールはワインの保存に必要になる。

水が多いことによって、結果的にワインの品質が下がってしまう。

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さらにブドウには日照量が必要。
日照量が少ないと、糖度が上がらない。
植物は日照をご飯にして、エネルギー(糖分)として蓄えるから。

雨の日が続くと、それに伴って晴れの日が少なくなる。気温も上がらない。


ブドウ栽培好適地は、降雨量が適度に少なく、かつ日照量と積算温度が確保でき、空気の循環が良い拓けた水捌けのいい土地。

地域おこしだという名目のもと、なんでもかんでもどこにでも植えれば良いというものではない。
今や日本中ほぼどの県にもワイナリーはある。数だけは多くなった。
将来性が見込めるならまた別の話だが、気候変動の影響を考慮して植えているのか?どうやって売っていくかまで考えられているのか?持続性はあるのか?

いずれワイナリーとしてクオリティを高めていくのであれば、クオリティの高いブドウを使わないといけなくなってくる。

では、日本では基本的にどんな品種が向いているのかというと、
皮が厚く、バラ房で、病気になりにくく、暑くても酸を保つことが可能で、糖度が上がりやすく、かつ市場価値が高い品種。

全てをクリアするのは難しいし、他の品種をやりたければ各々好きにやれば良い。
個人的には趣味としては面白いし全然好き。多様性あってこそのワイン。
ただ、趣味とビジネスは別。
ビジネスとして見たときには「ロマンでありギャンブル」であってはいけない。

私の目的はずっと変わらずあくまで「地元に産業をつくること」
それには、ワイン。
それには、世界に通じる一流のワインを造ること。

地域内だけで経済を回すことは、人口が減少していく中で、大抵の地域では益々難しくなってくる。
外に頼らなくてもいい特別な地域内でのシステムが構築されているのであれば話は別だが、外貨を稼ぐ必要がある。

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気候変動で上手くブドウが作れなくなってくる地域も今後出てくるだろう。
そしてワイナリーの維持のために安定した高品質のブドウを必要とするワイナリーも多くなってくる。

農業は「やる気」があればどうにかなるというものではない。
環境への戦略的アプローチが立てられてないといけない。
その地域に昔から根付いている農業というのはやはり理由がある。

しかも誰もが知っているであろうワイン銘醸地、フランス・ボルドー地方では、2030年までにほぼ全てのワイナリーがオーガニック化される。
「世界のボルドー」でさえそうなるいうことは世界の潮流もそうなってくる。

また、有機農法を促進するフランスの公的機関「アジャンスビオ」によると、3年後には、世界中の30%以上が有機栽培のブドウ畑になる。
ところが、日本のワイン市場に目を向けると、日本市場でのオーガニックワインの占める割合は、推定値で4%とされる。※ワイン&スピリッツ専門誌「WANDS」2020年9月号「オーガニックワイン2020」p8〜9より

将来的には、一般的に「自然派ワイン」と称される市場は益々大きくなっていく。
それに伴い、エコセールやデメターなどの有機認証機関付きのワインも増えてくるだろう。

上記を踏まえ、世界で勝負するワインを造るには、「オーガニックワイン」であることが大前提となってくる。

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そこで台頭してくる品種のうちの一つがアルバリーニョであることは間違いない。

日本の気候との親和性がとても高い品種であり、「海のワイン」のブランドを纏う品種。
海産物とのペアリングにはもってこい。
しかも海は海でも「リアスバイシャス」という「リアス式海岸」の由来になったスペインのガリシア地方に由来する品種。

さらに、2021年、ボルドーで歴史的な改定がされる。
認定品種に「アルバリーニョ」が加わった。

あのボルドーで、アルバリーニョが使われることとなれば、強力な追い風になる。
スペインの品種だが、今後の環境変化を考慮するとガチガチのボルドーでさえ入れざるを得ないということ。

しかもアルバリーニョは「リアス式海岸」に帰依する。
アルバリーニョを使えば使うほど、リアス式海岸つまり「三陸」が伴う。

そしてかつ、今後日本ではアルバリーニョを使わざるを得なくなってくる。
上記項目を満たす品種だから。

それは自社栽培かもしれないし、買い付けかもしれないし。
単一品種で使ってもいいし、ブレンド品種としては必ず必要になってくる。
安定した高品質のブドウを、欲しくないワイナリーはいない。

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耕作放棄地が綺麗なブドウ畑として再生され、景観が整備され、世界中に関係人口ができ、
世界に通じるワイン産地に三陸がなっていくことは確信している。

アルバリーニョはスタイルも幅広く造れ、酸が高く保持力も高いので収穫可能期間も長めに取れる。
だから畑を大きく拡げていくことが可能で、混植する必要もない。
そもそも「アルバリーニョ×三陸」ということがテロワールの表現として十分で、とても理にかなっていて、整合性も完璧。

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さらに生産数はまだ多いほうがあらゆる戦術が使える。
特に日本では。
ただ、整合性のない低品質のワインを増やすこととは話が違う。
生産者は消費者を育てなければいけないし、プロにも響くワインでなければいけない。

日本で20ヘクタール以上持っているワイナリーは1割に満たない。
海外では普通のこと。

数が多いと信頼性も上がる。
取引先のレベルが上がる。
数で圧倒する戦法が使える。
SNS等メディアに出る機会も増える。


そもそも生産量が少ないと取引先としてはティスティングができないので、ギャンブルになってしまう。
ビジネスアイテムとして扱うには、テイスティングが必要。
店頭で売るにもお客さんにティスティングしてもらったほうが「返報性の原理」が使える。
すると、購入率も2倍になる。

ワイナリーを経営していくには、とにかく「逆算」が必要。

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「ドメーヌ ミカヅキ」もそう。

なぜ、「ドメーヌ ミカヅキ」というネーミングなのか。

それにはアルザスで学んだことが活きている。

ワインは季節感を纏う飲み物。
陸前高田では、海の色が強いので夏は安定して売れるが、では、冬はどうやって売っていこう。

ネーミングさえも、販売に繋げたい。

アルザスは白ワインの銘醸地だが、季節は”冬”を纏うワイン。
なぜなら、クリスマスの聖地だから。
ゆえに、夏も冬も売れる。

そこで、私は「月」を用いた。
日本人に親しみ深い「月」。
ワインに親しみ深い「月」。

月は秋の色が強いがそれもよし。そしてアレンジ次第ではいかようにもなる。
海と月とワイン。ロマンチック。
そして「ドメーヌ ミカヅキ」を創設。

また、自分が死んでからも続く産業であるためには自分の名前は冠さないほうがむしろ良い。
それに結局、ワインはテロワールが主役ということを伝えたい。

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また、経営で最もお金がかかるのは広告費。
月はSNS戦略や商品開発にも強い。

ゆえになぜ「三日月」ではなく「ミカヅキ」なのかは、何重にも意味が込められているから。理由を一言で返すのは難しい。

しかし最大の理由は、震災感を隠しつつ、でも陸前高田を表現したものにしたかった。
震災や陸前高田をオマージュするとしても「一本松ワイナリー」などは正直ダサいので、リアス式海岸ならではの陸前高田の湾曲した海を月に見立てた。
「砂浜」=「三日月形」
そしてまさに「満ち引き」

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それに、病気に強く、海のブランドを纏う「アルバリーニョ」であれば「月」ととても相性が良い。
最初から目指すわけではないが、やろうと思えばビオディナミ、オーガニックワインも可能。

さらに、陸前高田は「氷上花崗岩」という大変古い珍しい土壌。
古いがゆえに花崗岩は花崗岩でも海沿いは脆く大粒の砂質土壌。
花崗岩土壌は基本的にフルーティーなワインになる。
長熟よりかはフレッシュな造りの方が向いている。
つまり、むしろナチュールワインを造るには実は絶好な地域だったりする。

これからの10年は、とにかく畑を広げて、世界に通じるワイン造りをしていく。
今後アルバリーニョの必要性が高まっていくのは間違いない。
日本ワインのためにも、他のワイナリーや新規参入にも分けられるくらいブドウを作る。
だから”ドメーヌ”。
有り余る高品質のブドウを用意できるように。

そして地域をブランド化していく。産地化していく。

仕立てはVSPコルドン。
初心者でも扱いやすい仕立て。初期投資も低く回収も早い。
そして自分がいなくても稼働することを考えなければいけない。
産業化するためには必要。
将来的に機械化を進めようと思えばそれも可能。
また、コルドンのほうが葉っぱがギヨーよりも残っている期間が長いので、観光にとっても良いという面もある。

さらに、三陸沿岸は海洋性気候なので夏涼しく、秋が長く、冬はあたたかい。
雪深なイメージのある岩手だが、陸前高田は雪はほぼ降らない。晴天日は1月が年間で最も多い。
凍害の心配もないので樹に藁掛けの手間も必要ない。
冬は焦らず剪定ができ、苗木の生産も捗る。品種をひとつに絞ることで、苗木のロスがない。安定した苗木供給にも繋がる。
そのため、年中仕事がある。産業に成る。

ワイナリーはワイナリーでも、オーベルジュ(宿泊レストラン一体型)であれば、尚更。

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私は私で、全てのギミックに整合性を持って、こだわって造っていく。
栽培、醸造、管理、経営、環境、観光、政治。

まだまだ話せないことはたくさんあり、緻密な計画をあとは実行していくのみ。
書くにしても分厚い本にするレベルなのでキリがない。
ダイジェストで簡潔にお送りしてきたが、よりディープな話はもう直接聞いてください。

段々と、”フラグ”を回収していく。
自分で作った道を自分で歩むだけなので何も不安なことはない。
さらにテロワールが味方してくれている。
それに、知識は奪われない。

三陸だからこそやる意味がある。
環境は変化させようがないので真似もしようがない。

また、自分がやりたいことは、自分が生きている間に為せることではない。
自分は”継役”でしかない。

「まちづくり」とはそういうものだ、と。
「ブランド」とはそういうものだ、と。
一朝一夕では街はつくれない。

ただ、街は、時代に合わせてうまく更新させていくべき。
後世は後世で、タイミングとやり方がある。

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そしてまさに、シードルづくりもやる。
リンゴ産地である陸前高田で、高齢化により次々放棄されたリンゴ畑が出てきている。
単純に今やリンゴを守るために農業従事者を増やせば良いというものではなくて、
地域のために僕ができる一つのことが、シードルづくり。
130年と歴史が長いので面白い品種もあり、海沿いに面しているリンゴ産地も日本で無いに等しいので、栽培方法から面白いものができると思う。
さらに、海洋性気候で雪の影響は全く関係ないので、冬、焦らずシードルづくりと剪定ができることもメリット。

リンゴは基本的に東北の産物。
シードルにバリエーションがさらにもたらされることによって、東北の復興にも繋がる。

生食用としてのリンゴももちろん必要だし、新たな道も必要。

僕にとって「シードルは守りの農業、ワインは攻めの農業」。
「守り」と言いつつ、シードルの伸び代も感じる。

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さて、28歳。夢は壮大に。
続く10年を大きく描いて。

ありがたいことに、1年目からテレ東で辰巳琢郎さんやNHKなどこれほど様々なメディアに取り上げられているワイナリーもそうないだろう。
「ドメーヌ ミカヅキ」は常に進化しつつ、5年後、そして10年後、化けると確信している。

地域とともに。

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