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いろんなレシピ本が世にあふれている今、ジョージア・オキーフのレシピ本が地味に売れ続けている

A Painter's Kitchen:
Recipes from the Kitchen of Georgia O'Keeffe

「画家のキッチン:ジョージア・オキーフのレシピ」
by Margaret Wood
September 2009 (Museum of New Mexico Press)

そうなのである。
ジョージア・オキーフのレシピ本が、じみーに、ポツポツと、売れ続けているのだ。
刊行が2009年だから、もうかれこれ14年目。

ロングテールかと言われると、うーん、どうなんだろう? それにしてはあいだがあきすぎてないか? という程度なのだ。

しつこいようだが、洋書は売れない。だから、売れているといっても和書とくらべたら全然だ。それでも、この本は忘れたころにぽつりと売れたりするのだ。

刊行後1,2年は動きがあるけど、そのあとはさっぱり、という本が多いなか、この本は、なかなか渋い動きをみせてくれている。

それも、特定のアート系書店で売れているのだ。

こういう本はほかにもある。

『Basquiat-isms』

ジャン=ミシェル・バスキアの印象的な言葉をあつめたこの本も、オシャレなアート系が充実した都内の本屋で地道に売れている。
ちなみにこれはシリーズになっていて、ほかにはファッションデザイナーで2019年に41歳の若さで亡くなったヴァージル・アブローの言葉をあつめた『Abloh-isms』や、バスキアとおなじストリートアートで一躍有名になったキース・へリングの『Haring-isms』などもある。

それから、マクミラン・コレクターズ・ライブラリーというシリーズは、銀座の書店で売れている。

たとえば『赤毛のアン』Anne of Green Gables。

このシリーズは、洋書にしては小型の本で、ペーパーバックではなくハードバックであり、なんと三方金というとてもきれいな本なのだ。三方金とは、本の天・地・小口という部分、いわゆる裁断面に金箔をほどこしたものである。

その豪華な装丁のわりには、2000円代前半という価格は、自分のごほうびにも、だれかへの贈り物としても、ちょうどいいお値段なのではないか。

それは、銀座でわざわざ本屋に入るような、品のよさそうな購買層にはとても向いている気がする。

店舗のある場所や客層によって、売れる本がちがうというのは、当たり前だけどおもしろい。洋書をおいてる本屋って少ないんだけど、でも知ってもらわないと、置くか置かないかの検討もしてもらえないからね。宣伝は大事。たとえなんの手ごたえがなくても。たったひとりに届けば。

さて、ジョージア・オキーフ。
日本ではわりと人気のアメリカ人女性画家。画布いっぱいに大きく描かれた花の絵や、バッファローみたいな動物の頭蓋骨を描いたもので有名だ。

私はあまりオキーフのことを知らなかったが、オキーフが師事していたアーサー・ウェズリー・ダウは、日本の浮世絵の影響を受けていたらしい。見たままを描く写実主義にものたりなさを感じていたオキーフは、ダウの主張する抽象画に作風を変えていく。あのシンプルで力強い絵画は、浮世絵の影響ときくと納得するし、日本人に人気なのもわかる気がする。

それに、オキーフの生きかたも多くの人の共感を呼んだのではないか。
オキーフは40代からニューメキシコ州をたびたび訪れるようになり、60をすぎて伴侶のスティーグリッツが亡くなると、ニューメキシコ州サンタフェ郊外の荒野に移住して、そこで亡くなるまでの約40年間を過ごす。

いまはジョージア・オキーフ美術館になっているその建物は、ネイティブアメリカンとスパニッシュコロニアル様式のまざったような、素朴で簡素な家だ。日干しレンガの、ぽってりと暖かみのある土の色をした壁に、おなじようなアースカラーのソファー、大きな窓からは自然豊かな庭が見わたせて、とても居心地がよさそう。

シンプルな、自然なものが好きだったんだな。

オキーフのレシピ本である本書は、「サラダ」「スープ」「野菜」「メインディッシュ」「パン・穀物・シリアル」「デザート」「飲み物」の章に分かれている。
オキーフは広大な庭でさまざまな野菜やハーブ、穀物、果物を育てており、レシピに載っている料理は、おもにその庭からの収穫物をつかったものなんだろう。れいによってアマゾンのLook inside (試し読み)でintroductionを読んでみると、著者マーガレット・ウッド(Margaret Wood)はオキーフが90歳のときに、20代半ばの若さで雇われ、オキーフの食事を作っていたそうだ。

Simple food is what she preferred, with fresh and pure ingredients.
「彼女は、新鮮でまじりけのない材料で作ったシンプルな食べ物がすきだった」

これは、日本人にも合いそうだ。

シンプルな料理、シンプルな生活。

ゴースト・ランチという、不気味なネーミングの、荒涼とした土地で、そこに根づいて、その地でとれるものを食し、美と向きあい、静かな生活を送る。

「静謐」という言葉がしっくりくる。

オキーフのような生活は、やっぱりちょっとあこがれるな。

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