The Fan Brothers
カナダのトロントにファン兄弟(The Fan Brothers)という絵本作家がいます。どっちが兄で弟なのかは不明ですが、エリックとテリーの二人……だと思っていたら、デヴィンという人もいて、三人兄弟であることが発覚しました(私が知らなかっただけですが)。兄と弟の区別をせずにはいられないわけではないのですが、日本語で書くときは知っておいたほうが便利。英語だと young か old の形容詞を付けないかぎり、兄なのか弟なのかわかりませんから、翻訳するときに苦労するんです……
さて、このファン兄弟は、それはそれは細やかですてきな絵本を作るのです。モーリス・センダックのような絵です。2020年のカナダ総督文学賞の絵本部門で最優秀賞には、彼らの『The Barnabus Project(ザ・バーナバス・プロジェクト)』が選ばれました。近々和訳が出るようです。
これまでにも、『The Night Gardener』(邦訳『夜のあいだに』)、『The Antlered Ship』(邦訳『つのぶねのぼうけん』)、『Ocean Meets Sky』(邦訳『海とそらがであうばしょ』)などが日本語に訳されています。
ファン兄弟の紡ぎ出す絵本の世界はとても美しいのです。挿絵というより絵画です。空想的な絵の中に、カナダ人にはおなじみの湖畔の景色や野生動物、トロントの街並みを彷彿とさせる風景が登場します。昔、カナダに住んだことのある人なら、懐かしく感じる絵もあるはずです。
私はファン兄弟の絵本はまだ持っていませんが、イラストは持っています。ファン兄弟は絵本以外にも多くのイラストを描いていて、その中に「鯨シリーズ」があるのです。パンデミック中、トロントの街がロックダウンしたとき、私はハーマン・メルヴィルの『白鯨』を読みました。ある日、この濃厚な長編小説を読み終えた記念にと、モーヴィ・ディックの絵を買おうと思い立ちました。そしてファン兄弟が描いた鯨にたどり着いたのです。私が買った一枚は、『白鯨』の最後のほうに出てくるシーンを絵にしたものです。あの小説を最後まで読んだ人でなければ描けない絵柄です。ファン兄弟も『白鯨』を読んだのだろうな、と思うとうれしくなり、つい買ってしまいました。
(C) The Fan Brothers
(文責:新田享子)