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【#18】たんぺん | 夢見る非モテじゃいられない
作戦を考えるのに、そう時間はかからなかった。
絶対にやると決めたことは2つ。
・店員や店舗へ、可能な限り迷惑をかけないこと
・彼女からの連絡がない場合は、二度とその店舗へ近づかないこと
一定の信頼関係が築けていると思っているが、所詮はオレの主観だ。
相手を不安にさせては、何の意味もない。
テレビをつけると、ニュースが夏の訪れを報じている。
外からは微かに蝉の鳴き声が聞こえており、そういえば寝る時の布団は随分薄くなっていた。
ここ最近は、いつも緊張していてゲームどころではない。
チャンスは一度きり、短期決戦で一気にヤグラを取りにいく。
…
その時が訪れたのは、メッセージを書いた二週間後の火曜日だった。
定時より少し遅く上がると、夕焼けの綺麗な空が広がっている。
今日は店内に客がまばらで、静かな様子だ。レジに彼女の姿が見える。
心の準備はしたつもりだが、唇は乾き、手は震える。
昇格試験の何倍も緊張していることに気づくのに、そう時間はかからない。このコンビニに通うのも、最後かもしれない。そう思うと名残惜しい気持ちが湧き上がってきて、手紙を握りつぶしたくなった。
商品を持ってレジにつくと、彼女はいつものように、笑顔で接してくれた。
暑くなりましたねと朗らかに会話するも、心臓は早鐘のように鳴っている。
手に汗が滲む。視界がぼやける。
付箋は、財布の小銭入れの中だ。インクの文字がやや滲んでいる。
「あの、もし良かったら読んでいただきたいです。」
彼女の差し出すレジ袋と交換するように、オレは震える手で付箋を差し出した。
彼女は受け取ると、サイズの小さくなったパンを見る時と同じような訝しむ様子で、それを繁々と眺めた。
困惑した様子は見せなかったが、内心はひどく驚いているだろう。
達成感より、申し訳ない気持ちが上回る。
オレは深々と頭を下げ、店を飛び出すように出て行った。
空を見ると、月が顔を覗かせている。
このコンビニに来るのも、今日が最後かもしれない…。二度と足を踏み入れまいと決心したコンビニを、オレは振り返ることはできなかった。本格的な夏に入っているのに、妙に涼しい帰り道だった。
…
翌日、スマホに一通のLINEが届いた。
見慣れない名前で、すぐに彼女からのメッセージであると気付いた。
きっと、相当勇気を出してくれたのだろう。鼓動が高鳴る。
それからオレは、彼女と交友関係を築き、半年後に交際することになる。
案の定、異動打診で遠方へ引っ越すことになり、交際して早々遠距離恋愛をすることになるのだが、4年以上の交際が続いた。
10も下の年齢であることに当時は驚いたものだが、取るに足らない、些末な事である。ほんの少しの、あの勇気に比べれば。
2024年の梅雨、久しぶりにそのコンビニを訪れた。
相変わらず広々としていて、良い雰囲気である。
朝食用のパンとスイーツを2人分購入し、店を出る。
大きく息を吸い込み、澄んだ空気を体内に入れる。
右手を見ると、あの時のコンビニ店員が横に並び、手を繋いで歩き始めた。
相変わらず目が大きいが、やや煩めな性格で垢抜けてきている。
こんな性格だっただろうか?
まあ、いいか。今日も相変わらずで、朝から賑やかに喋っている。
オレは、可愛いコンビニ店員と結婚した。
これは、平凡な社会人が、ほんの少しの勇気で幸せを手に入れた話である。
下記記事で書いた短編の抜粋です。
3分程度のお暇な折、読み物としてご覧ください)笑
本記事が、たんぺん最後の更新です。
有料記事への導入でしたためた文章でしたが、楽しく書けてよかったです。
また時間を見つけて、挑戦しようかなと思います。
引き続き、お暇な折にお付き合いくださいませ。
以上、ろーわんでした!