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『愚直な行いと自己欺瞞の心理学的考察─片田珠美「自分のついた嘘を真実だと思い込む人」を通じた自省』

はじめに

看護師として地域医療に携わり、「愚直さ」を信条としてきた私が、片田珠美著「自分のついた嘘を真実だと思い込む人」を読み、単純書評を超えた自省と社会的考察を得たので、それを記そうと思います。

愚直な誠実さの価値

医療、特に看護における専門性は、時として地味で目立ちません。 私自身も、クライアントに対して、日々ただただ向き合いを続けています。 事実を重視して伝え、約束を守り、自分の限界を認める勇気を持ってです。

片田さんが描いた「自分のついた嘘を信じる人」の対極には、この種の基本があると確信しています。

現実の歪曲との遭遇

専門職としての経験の中で、片田さんが分析するような「自己欺瞞」の典型例に何度も遭遇してきました。

  • 明確な事実確認がなくても、「そんな説明は受けていない」と主張する人

  • 自らの介入の失敗を「システムの問題」に転嫁する専門職

  • 家族内の葛藤を完全に否認し、理想的な家族像を演じ続ける介護者

当初はこれらを「不合理」と考えましたが、片田さんは、これを意識的な欺瞞ではなく、自己防衛の思考という視点で解釈を与えてくださいました。

自己欺瞞の機能的側面

片田さんによれば、自己欺瞞には心理の恒常性を維持する機能があります。 特に自己評価を無意識のうちに書き換えてしまうことがあります。

医療現場での観察から、この自己欺瞞が特に大きくなるのは以下の状況と考えられます。

  1. 専門的な能力や力判断への疑義が生じたとき(医療者自身も含む)

  2. 重大な健康上の問題(特に生活習慣由来)が生じたとき

  3. 人間関係の葛藤が表面化したとき

「自分は特別だ」という根拠なき自信が、周囲の見通しを勝ち取り、結果としてのポジションの獲得につながる可能性があります。

とりあえずを守るための自己認識

片田さんが示唆するのは、誰もが自己欺瞞から完全に自由にはなれないという事実です。

私が医療者として経験から学んだのは、以下の3点です:

  1. 内省の習慣化:自らの考え、特に「確信」を持つことについて定期的に検証する

  2. フィードバックの尊重:他者からの異なる視点を防衛的に受け入れられない姿勢

  3. 事実と感情の区別:客観的事実と主観的解釈・感情を明確に区別する習慣

これらは、片田が提案する自己欺瞞への対策とも共通しています。

結論

「自分のついた嘘を真実だと思い込む人」を読み解くとき、他人の行動パターンへの洞察だけでなく、自らの認知傾向への警戒も芽生えます。

医療という最善さが命に直結する現場で働く者として、私は片田のさんから、自己欺瞞の普遍性を認めつつも、それなりに抗う「愚直さ」の価値を再確認しました。

華やかではないかもしれませんが、この愚かな真っ直ぐな姿勢が、最終的には自己と他者の両方を幻想から解き放ち、真の関係性と成長を可能にできると信じています。

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