少女
朝、あたしの気分はよく分からない。
おろしたての真っ白なシャツの匂いを、一気に吸い込むような感じ。
それから、じんわりと悲しい鉛色がシャツを汚していくような、あの感じ。
気持ちのいい爽やかな朝、そんなものは幻だ。
不思議な癖で、昼間カーテンを閉める。
せっかく差してきた陽を遮ってしまうのもったいない気がするけれど、逆かもしれない。
オレンジ色のライトを点けて、好きな彼の絵をみてみる。
描いてあるのは、決して嫌なものではないのだ。
けれども、彼のキザなところが目につくので、かえって頼りなさを感じさせるのだ。
彼は、とても愛情の深いひとのような気がする。
ただ、ときどきわざと道徳から外れようとして、へんにどぎつくなっている作品が多いような気がする。
自分の愛し方が分からない人にありがちな、ワルぶった趣味。
わざとトゲトゲしちゃって、それがかえって彼を傷つけている。
けれども、彼の絵の底にはシンとした強さがあって、私は愛してる。
ああ、可哀想、可哀想。
あたしは彼を愛しているのに、彼はそんなことつゆも知らない。
白いシャツは、意地悪だ。
醜いところのない、美しくて可愛い色。
ああ、生意気、生意気。
あたしは自分のいけない考えに、つくづく泣きそうになる。
雨上がりの匂いのする鉛色のシャツ。
灰かぶりの娘さん。
わるいのは、あたしだ。
こんばんは。
月のあかりが、カーテンから差し込む。
月は知らんぷりした顔を向けている。
あたしたちは、いつも愛情が欠けているのだ。
パズルのピースひとつ足りないみたいに、少し欠けた月のように、自分の愛し方を知らないのです。
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