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<東京の未来をデザイン~東京で自分らしく生きる人に聞く> 第2回ゲスト:樋口亜希さん

Youtubeの対談(2020年9月中旬収録)をnoteでもお届け。第2回目のゲストは樋口亜希さん!

樋口亜希さん…幼少期から大学時代まで日本、アメリカ、中国で過ごす。北京大学を卒業後、リクルートへ。現在バイリンガルの学生が子供のお迎えと語学レッスンをする「お迎えシスター」を手がける株式会社Selan代表取締役。

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創業5年。コロナがきっかけで全国の子供たちとつながれた

―まず、現在樋口さんが力を入れていることをおうかがいしたいです。

「お迎えシスター」というサービスを創業して今5年経っています。当時から一貫して5歳から15歳の子供を対象としたバイリンガル教育、子供の初等教育、幼児教育に力を入れてきて、寝ても覚めても考えているような生活を過ごしてきました。
これまでは東京中心に対面のレッスンしかしていなかったのですが、コロナ禍になってからはオンラインのレッスンを開始して、一気に全国へと生徒さんの範囲が広がりました。今まで私たちが届けられなかった子供たちにも「身近に、手軽にロールモデルのお兄さん、お姉さんに出会いながら『世界を学ぶ』、『英語を学ぶ』」というサービスを届けることができるようになったのは、私としてもチームとしても非常に嬉しいことで、オンラインの可能性を強く感じています。

―物理的にお迎えをすることができなくなった分、その場所の制約がなくなり、全国とつながることができたということですね。

最初は、「これは私たちが本当にやりたいことなのか?」という議論があったんです。「お迎えシスター」という名前の通り、働くお母さんやお父さんのヘルプ、アシストをするということと、子供の教育、マインドセットをもっと世界に向けるという、この両方の軸があってこそ私たちの価値と置いていたので、オンラインになった時に果たして保護者の生活面や気持ちは変えられるのか、楽になれるのかというところで葛藤していました。しかし蓋を開けてみたら、在宅で勤務されている方もたくさんいらっしゃったんです。

―そうですよね。

お子さんの時間を私達に預けていただくという面もあるので、そういった意味で保護者の方からも「自分がミーティングをしている時に、別の部屋でやってもらえてすごく助かる」というお声をいただいたりして、やりたいことを引き続きできているんだな、という気持ちでサービスを運営しています。

「お迎えシスター」は自らの原体験から始めたサービス


―コロナで新しい可能性が開けた、ということなのですね。今お話をうかがって垣間見られた気はするのですが、樋口さんが自分らしく生きるために心がけていることや、座右の銘などがあれば教えていただきたいです。

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創業当初からいつも大事にしているのが、"Start where you are. Use what you have. Do what you can. "という言葉です。「今あなたがいる場所から、持っているものを使って、できることを始めましょう」というこの言葉が「お迎えシスター」の根源でもあります。もともと私自身の原体験から作ったサービスで、私の母は当時テレビ局に勤めていて、夜中に帰ってきて朝も出かけ、私が起きたら出かけているような生活が小さい頃からありました。その時に両親が、私と6歳下に妹がいるので、この2人をお迎えに行くのも難しくなり、そこから家の近くの大学に「うちの娘2人を迎えに行ってくれる人募集」という貼り紙を貼りました。そこで両親が見つけてきたバイリンガルのお姉さんたちのお迎えも私が6歳の時に始まって18歳になるまで、妹が12歳、小学校を卒業するまで12年間続いたんです。それが自分のアイデンティティになっているのですが、私の両親は別にこういった国際的なマインドセットを特に意識していたわけではないと思います。しかし私や妹のように放課後の時間を使って、家にいながらにして留学のような体験ができるのは日本ではなかなかないので、これが日本中の子供たちが体験できるようになったらいいなという、自分の今できることから始めたのが「お迎えシスター」なので、これは今も大事にしているフィロソフィーですね。

―素敵ですね。まさに今コロナのことばかりですが、やはりこの先どうなってしまうのかという不安が大きく、動けなくなっている人もいる中で「今あるものから始めてまずは一歩踏み出してみる」ことはすごく大事だなと思います。
ご自身が出会われた方たちが「お迎えシスター」をやってくださったということなのですね。

私の場合は12年で30人ぐらいの方とお会いしたのですが、留学生の方だったり、日本人のバイリンガルの方だったりしました。先生たち、というか見てくれた方たちも仕事としてやっているというよりは、ボランティアに近いような感じでした。お互い本当の姉妹のような感覚だったので、勉強も一緒にしていましたが、楽しい時間を過ごしたという思い出しかないですね。

―当時の色々な方たちと接する経験は社会人になった今、役立っているようなところはありますか?

自分の持っている前提が全く違ったり、歴史の学び方が違うので、いい意味で物事を真正面から受け取らずに、疑うということを小さい頃から身につけられたのは良かったなと思っています。政治もそうだと思うのですが、そのまま受け止めずに、ここがおかしいんじゃないかと思ったらアクションを取る、というのは、やはり自分の一つの核になっているところだと思っています。

―どうしても小中高時代は家庭と学校、あるいは塾だけのようになりがちです。そうなってしまうと、どうしても世界が狭くなってしまって、そこでもし行き詰まってしまった時に逃げ場がないような状況になってしまうと思っています。かといってすぐに留学をすることはなかなか難しかったりしますが、世界は広いのだということを身近な人から学べることはすごく貴重ですね。

行き詰まる原因は「これが自分の全てだ」と思ってしまうことだと思うので、違う道を示してくれたり、ちょっと自分の先をいく先輩とつながれる、心でつながれるということはその子の人生を「突破する力」になるなとすごく思いますね。

大事なのは子供と一緒にいる時の愛情。もっと気を抜いていい


―一方で「子育ての社会化」と言われるようにもっと社会が子育てをする、お母さんだけや家庭だけに任せるのではなくて社会が関われるようにしなくてはいけないと思うのですが、樋口さんのお母様がシッターさんや学生さんなどに任せられたのは、自分だけじゃできないから外にあるリソースを活用するという「頼れる勇気」があったのかなと思います。

日本のお母さんはすごく責任感が強いというか、全部自分でこなすというところがまず前提に始まっていると思っています。今振り返ると私の母は結構すごくて、どれだけ母が手抜きだったかという話なのですが、例えば私が家に帰ると、丸ごと1本のニンジンや切られていないセロリがぽーんとテーブルに置いてあるんです。そのニンジンやセロリをおやつ代わりにかじりながらテレビを見て放課後を過ごしていました。

―すごい!

お弁当もキャラ弁とかすごいですよね。友達のお弁当もすごくかわいくて、日本のお弁当は海外だとアートと言われるくらいです。私の家では下の段はそば、上の段はそばつゆ、みたいな時もありました。

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―それは鍛えられますね。

でも子供としては慣れるというか、別に悲しい思いをしたこともないです。どちらかというと大事なのは子供と一緒にいるときの会話の質や、愛情がこもった姿勢や行動だと思うので、その辺りは本当に気を抜いていいんじゃないかと思うんです。

―私自身すごく家事が苦手で、お弁当も素敵なのは作れないし、正直冷凍食品ばかりです。また、夜に食事を作るのは大変だなと思う時は外でご飯を食べたりもするので、今のニンジン、セロリ、そしてそばとめんつゆで育った樋口さんがこんなに素敵になっているということに勇気をもらいました。

ありがとうございます、私も子供に母と同じようにすると思います。

―日本のお母さん達は「こうしなければならない」という母親像に縛られてしまっている部分を追い詰めてしまったり、苦しくなってくる部分もあるなと感じました。

【対談の前編(ダイジェスト10分)】


ファミリーや子供に優しい東京にももっとできることがある


―これまでアメリカや中国で過ごされていた樋口さんにとって、「東京」はどんな場所ですか?

私は東京で生まれて中国やアメリカで過ごしていましたが、大半は東京で過ごしているので、育ててもらったというかアイデンティティーに組み込まれている街だと思っています。

―コロナを経てテレワークが進み、先ほども全国と繋がれるようになったとおっしゃっていましたが、東京にいなくても地方でも仕事ができるから移住する人も出てきています。そんな中で東京がもっとこんな街になったらいいんじゃないか、とお仕事されていて感じることや、世界と比べてみて何か思うことがあればお聞かせ願いたいです。

東京は他の国際都市、ニューヨークやロンドンと匹敵するぐらいの大都市ですが、その中ではファミリーや子供にはフレンドリーな施策が結構あるなと思っています。例えばニューヨークではあまり子供を見かけない気がしていて、子供向きではない都市だと感じます。その一方で、東京にももっとできることがあるのではとも思っています。
私も教育に携わっているので、教育面の子供への施策というところは、もっとインフラだけではなくプラスアルファの質を高めていく点で、まずは「お迎えシスター」が日本のロールモデルになれるといいなと思っています。
そして文科省などでも取り組まれていることでもありますが、クラスサイズをもっと小さくして、クラスの中でもできる子がいたらどんどん違うプリントをやらせたり、もし追いつけない子がいたらクラスの副担任としてその子をサポートするためのアシスタントティーチャーを置くんです。インターナショナルスクールはもっとサイズを小さくして、そういう体制でクラスを持っていたりしますが、これを東京から始めて日本全国でできるようにすると、人材の育成という意味でも今までできなかったことや、取り組めなかったことに切り込んでいけるんじゃないかなと思います。まずはクラスサイズを小さくする、そこからパーソナライズというか、子供たち一人ひとりに目を向ける教育が始まるのではないかなと思っています。

子供たちと家庭内で政治についてディスカッションして欲しい


―物質面、ハード面ではかなり豊かなので、質の部分という点に目を向けていかなければならないのだと思います。ICTを使って個別の対応もできるようになってくるので、そこも進めなければと感じます。
政治についておうかがいしたいのですが、私が数年前に樋口さんとお会いした時に、海外ではわりと政治について気軽にディスカッションしたり話題に出てくるというお話がありました。樋口さんはグローバルな会合に出席されたりもしているので、外から見て今の日本の政治に思うことや、ビジネスパーソンと政治はどう関わっていけばいいのか感じるところがあればお聞かせください。

これは私が小さい頃から強く感じていた課題というかトピックです。というのも、実は私の家は政治についてのディスカッションを頻繁にする家庭でした。

―そうなんですね。

両親にとっては毎日のことで、実家に同居している今も毎晩の夕食時はだいたい政治のことを話しています。各家庭で政治についてどのぐらい話されていたかというのはものの考え方に大きく影響してくると思うので、私達の代からもっと子供たちと政治について、もしくは政治じゃなくてもひとつの政策についてどう思うか、のようなディスカッションを家庭内でどんどんしたらいいのではないかなと思っています。

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―若い人に対しては学校で教育をするというのは頭にありましたが、家庭で話をしてみようというのは目からウロコでした。お母さんとお父さんがディスカッションするという風景もなかなか珍しいというか、現在日本の家庭でどれだけ行われているんでしょうか。例えばひとつの政策を取り上げて、それについてこう思う、ああ思うというのをお互いやりとりするということですよね。

父には私が高校生で妹がまだ小学生の時から、もし自分が生まれる前だとして、資本主義社会か社会主義社会か選べるとしたらどちらを選ぶか、それはなぜかというのを問いかけられたりしてきました。そしてそれは自分がどういう身分や状況で生まれるかによるよね、というディスカッションをよくしていました。

―先ほど言っていたように、家庭内で問いかけて安全に話せるというのも、やはり大きいと思うので、そこから始めるというのは大事かもしれないですね。

否定されても一番傷つかないし、否定されても言い返せるのがご家庭でディスカッションする利点だと思います。

女性のマインドセットを変えていくことが未来の日本を変えていく


―素敵なヒントをありがとうございます。
私自身の関心が高いジェンダーギャップについてもうかがいたいのですが、男女平等先進国であるフィンランドの閣僚は女性メンバーで構成されているのに対して、日本は高齢の男性が多いことが浮き彫りになりました。世界でも女性トップが相次いで誕生している中で「日本はどうしたらいいんだ」と嘆いている投稿をいくつか目にしたのですが、これは一人ひとりが何かアクションをしていかないと、また同じことが繰り返されて閉塞感や残念な気持ちだけが残ってしまうなと感じています。樋口さんが海外の会議に出られた時など女性のスピーカーがいらっしゃると思うのですが、この件に関して思うことや、何からやっていけば良いかおうかがいしたいです。

日本は圧倒的に男性が多いですし、あとは先ほどお話しした、お母さん自身のマインドセットもあるのではないでしょうか。やはり「自分が家庭を持ったら、子供といないと子供に申し訳ない」とか「自分が活躍するよりも、家庭に目を向けた方が全てうまくいくのではないか」というところが女性のマインドセットという意味でジェンダーギャップもすごく大きいのではないかと思います。そこは長期的目線が必要で、女の子がまだ小学生や幼稚園の頃はほとんど意識せずに過ごしているので、その分かれ道ができる前に、そういったマインドセットを変えていくことが良いのではないかと思います。
あとは学校教育ですが、民間だと届けられる相手が限られているので、政治の授業を教育指導要領で組み込めないか、少なくとも放課後の時間にそういった課外活動を組み込めないかな、と思っています。政治を語ることや政治の政策について自分も一緒に考えるということが「おままごとの政治バージョン」のように遊びの中に取り入れられるくらい、もっともっと子供時代から身近にできるといいなとすごく思います。

―マインドセットはその女性の自己肯定感にも関わってくるので、意識が芽生える前に変えていくというのは大事ですね。

樋口さんから逆質問。持続可能な女性議員のあり方を体現したい


私からも質問させていただきたいのですが、森澤さんはどうしてご結婚、ご出産をされてから政治の世界に入られたのですか?

―私の場合は小さい子の子育てをしている中で、再就職が難しかったり保育園がなかなか見つからないことにぶつかって、政治の世界にまだまだ女性が少なくて政策決定や意思決定の場にいないから、こういうことを生みだしていると思ったんです。文句だけ言っていても変わらないんだったら自分がまず入ってみてやっていくしかないと思って、飛び込んだという感じです。

キャリアとプライベートの両立が女性の永遠の悩みだと思うのですが、そういう葛藤はどうやって乗り越えていますか?

―私の場合パートナーである夫が協力的だったり、私の母親も応援してくれている点で環境的に恵まれているのはあるかなと思います。あとは私自身がそこまで家事が得意な方ではないので、仕事をしていた方が楽しいのが分かっていたこともあります。
でも政治の世界に入ってみて、男性が多いだけあって「24時間戦えますか」のような、男性的な働き方で動いているところはあるので、そうではない、持続可能な女性議員のあり方を体現したいんです。自分自身が無理をしないことで体現していって、あとに続く女性たちが出てきてくれたらな、と思っています。
これで男性的な働き方に合わせて体力を消耗したり、家庭を犠牲にしてやっていると、誰も(女性が)続かないので、そこはすごく意識しています。

私もアントレプレナーとして企業カンファレンスに参加した際、自分が300人いるうちの女性の1人とか2人のようなことがあったりもしたので、後から続く人の為にもしなやかに、ライフイベントと共存していけるライフスタイルをその領域で見せていくというのが非常に重要なんだなという点にすごく共感しました。

―スタートアップ界隈も女性がまだまだ少ない領域でもあるので、ぜひお互いロールモデルになるべく持続可能な働き方や生き方をしたいですね。そして子育てをはじめとしたライフイベントと仕事を両立できる社会について女性だけが語るのではない世界にだんだんなっているとは思うのですが、まだまだ過渡期なのでそれぞれの場所で無理をしない女性の生き方が体現できたら嬉しいですね。

ありがとうございました!

【対談の後編(ダイジェスト6分)】

(編集:小野寺いつか)


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