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#02 客観的に日本をみる経験

大学院のカリキュラム

大学やそれぞれの専門によって、大学院修了に必要な単位数や学位取得までの期間、カリキュラムの組み方は大きく異なる。私のプログラムの場合、必修科目をすべて履修した後、専攻以外の好きな科目を5つ選択できる。選択科目は興味のある分野や評判のいい教授の授業を周りにヒアリングしながら自由にカリキュラムを決めて良い。たとえ他学部でも、希望すれば2科目まで選択OKだと言う。私がコロンビア大学を目指すきっかけをくれたシーナ・アイエンガー博士の授業も受講できると聞いて思わず「ほんとに?」と聞き返したくらい。NHKの白熱教室で「選択の科学」という特別講義を見てすっかり魅了された人物だ。何を勉強しようか直前まで悩んだ末、私はソフトスキルを高める科目を中心にカリキュラムを組むことにした。

必修科目:Leadership、Strategic Communication Management、Research and Insight、Digital Media and Analytics、Persuasion、Business Writing、Public Speaking、Capstone
選択科目:Negotiation、Storytelling、Ethical Decision Making、Critical Conversation、Visual Communication

国際社会から見た日本

ビジネススクールの図書館は4人掛けのテーブルが縦横にずらーっと並んでいる。(コロナ前は)飲食OKなエリアはグループで集まってディスカッションしていて、常にがやがやとした雰囲気だ。

その日はいつものように、ビジネススクールの図書館で授業の予習に追われていた。私とは別の選択科目の授業に出ていたクラスメイトのカーリーから「今から日本のジェンダーについてディスカッションするからおいでよ!」とWhatsAppで呼び出された。

急いで教室に行くと、途中から飛び入り参加した私を大歓迎してくれた。日本のジェンダー事情をよく知るその教授が取り上げたのは、東京女子医大の医学部不正入試問題、痴漢と女性専用車両、体育会系や飲み二ケーションが好まれる日本独特の文化など、いくつかの象徴的な事例だった。そして日本企業ではなぜ違法行為、ハラスメント、有害なリーダーシップが生じやすいのか?日本のジェンダーに関する最新の研究と、望ましい組織文化をつくる方法について議論した。私もこれまでの社会人生活を通じて、特に会社員時代はどのように自分をねじ曲げて周囲に合わせて過ごしてきたか、正直な胸の内を話した。

私が潰れるまで働いていた頃、男性の先輩や同僚たちは潰れなくて「私の体力がなさすぎるのか?」と悩んでいた時期があった。「家事ができるのは良い彼女、良い妻」「面倒な仕事を進んで引き受けることが美徳」そういう価値観がいつの間にか自分の中に染み込んでしまって脱することができなかった。それどころか、尽くすことに生き甲斐すら感じているようなところがあった。

今後どうすれば良いのか?教授やクラスメイトにアドバイスを求めたところ、自分の中で殺していた感情や失っていた好機が山ほどあったことに目が覚める思いがした。リベラルなつもりで、自分自身のジェンダーバイアスにすら無自覚だったことに気付かされた出来事だった。

その日以降、カーリーはニューヨーク・タイムズ紙の日本のジェンダーギャップを問題視する記事を読んでは、私に送ってくるようになった。国際社会はちゃんと見てるよ、と言ってくれている気がして勇気づけられた。

よりよい社会を後世に残す

ある日、クラスメイトのジェームズに「なぜジェンダーの授業を選択しようと思ったの?」と質問した。問題意識を持つ男性がいることに、シンプルに感心したからだ。ジェームズはNYPDで刑事の仕事をしている。古い縦社会や人種差別が残る警察組織を嫌と言うほど見てきたジェームズからはこんな答えが返ってきた。

世の中のあらゆる問題はジェンダーが絡んでいると思わない?はるか昔に憲法を作ったのは男性だし、毎日話す会話の中にも「男ことば」「女ことば」が存在する。社会の権力構造とジェンダーは密接につながっている。よりよい社会を後世に残すために、僕は2人の息子をフェミニストに育てたいんだ。

なぜ自分はもっと早くジェンダーの問題に気付かなかったんだろう。世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ解消にはあと100年必要」と聞いて、自分が生きているうちに実現しないならそっとしておこうとした自分が急に情けなくなった。

2021年1月、史上初の女性副大統領誕生にアメリカは歓喜が沸いた。こうして歴史が動いた背景には、女性の地位向上に尽力した数多くの先人たちがいて、若い世代に勇気と希望を与え、信念を貫いて前に進めと促した人たちによって障壁を打ち破ることができたのだ。今を生きる我々の役割をしっかり理解したジェームズの「息子をフェミニストに育てたい」という使命感にとても共感した。

賢明な対処法

日本を離れていざ留学してみると、客観的に日本を見る経験が得られる。ジェンダーの問題への気づきはその一つに過ぎない。例えば、年功序列や終身雇用など日本の伝統的な雇用システムも、国際社会から見たら違和感を感じる不思議なカルチャーなのだろう。

こうした様々な課題に立ち向かおうとすれば、自分と異なる意見を持つ人と対立するかもしれない。理解が得られず悩むかもしれない。多様な考え方を尊重しつつ、有意義な方法で改革に尽力していくにはどうすれば良いか?あるクラスメイトがシンプルかつ賢明な対処法を教えてくれた。

Keep asking good questions.(ひたすら良い質問をし続けること)

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