言葉のない世界と繋がった時
やっと雨が上がって、心配なしに外を歩けるようになった。
こちらは一旦降り出すと、大粒の雨が、勢いよく地面を叩きつけ、たちまち道が洪水するので、油断も隙もないのだ。
今日は休日だったので、コンピューターの前に座るのはお休みして、一番近いビーチまで、歩いて行こうと決めた。片道約40分。
ビーチリゾートとしては有名なこの街だけど、一庶民が、休日を過ごすのに、楽しめるような場所がないのが、残念なところだ。
ビーチは、基本的に観光客のものであり、一般市民が入れるところは、ごく一部なので、そこを目指して、ひたすら歩く。
それは、ホテルの立ち並ぶゾーンへと続く一本道で、庶民の住むエリアとは異なり綺麗に舗装され、その真ん中には、美しいパームツリーが延々と植えられて、脇にはマングローブが生息している。
その道を歩くのは楽しいが、一つだけ、気になることがある。
それは、車の騒音だ。
何も遮るもののない1本道を、車がすごいスピードで走っていく。
せっかく美しい花も咲いているのだから、もう少し、ゆっくり楽しみながら運転したらいいのに。
音が気になるので、イヤホンで音楽を聴きながら、木々に集中して歩く。が、それでも、歩道ギリギリのところを走る車に、時折、よろけそうになる。
私はいいけれど。
頼みもしないのに、道路の真ん中に植えられて、言葉も発さず、ただずっと佇む木々。
彼らは雨の日も、風の日も、じっとそこに根を張って、葉を伸ばし、花を付け、実をならし、時には鳥たちの休憩所になり、光合成をして、酸素を放出しながら、ひたすら自分の役割を果たす。そんな空間で。
もし言葉を持ったなら、彼らは何と言うだろう?
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今日は、何が行われているのか、奇跡的に、道路が通行止めになっていた。
先日、若者のデモと警察が衝突して、発砲事件が起きたけど、まさか、この先でそんなことが起こってる訳じゃない・・よね?
っと、せっかくの機会なので、なるべく頭を空にして、歩を進めながら、挨拶する。
「こんにちは。今日は静かでいいね!」
いつもとはうって変わって、しんと静まりかえった空間に、そこにあるのは、自然と私だけ。
あぁ、なんと言う幸せ。
これを神様からのギフトと言わずして、なんと言おう。
いっそのこと、世の中から車が、消えてしまえばいいのに。
車の代わりに、全部馬になったら面白いだろうな。
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私の好きな空間は、言葉のない、自然の中なのだ。
風に木の葉が音をたてて揺れ、鳥が鳴き、川が流れ、青空の広がる場所。
そして、色鮮やかではあるけれど、静寂の広がる海の中。
そんな空間に身を置き、その一部になれることができたならば、人はもっと幸せになれるんじゃないかしら?
自分を見つめているのが、お天道様だけで、その懐で、思いっきり身も心もリラックスできたなら、人は、一生物としての命を吹き返し、生まれ変わって、新しい自分を生きれるんじゃないかと思うのだ。
半日歩き続けて、気が済んで、爽やかな疲労感を伴って帰宅した後は、ハンモックに横たわり、静かに目を閉じた。
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