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ピンクあたま


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昨日撮った一枚の写真、赤ワインのグラス越しに見えるピンクの髪の毛の美女は、私の幼馴染の友達。ワイングラスに何か写して撮るのがマイブームなのだけれど、これは偶然いい感じに撮れた。
ピンクの髪といえば、私も若かりし頃に一度、髪をピンクに染めたことがあった。染めたのではない、「染まった」が正解。
フランスに住んでいた頃、その当時にパリジェンヌの間で流行っていたボルドー色の髪の毛にしてみようと美容院へ行き、ボルドー色のメッシュを入れてもらった。
すると、現地の染料が私の長く伸ばした地毛の色に不思議な反応を起こしたのか、想像していたボルドー色とはかけ離れた、明るいトーンのピンク色になってしまった。
染め始める前に、もし似合わなかったら・・・と、少しためらっていたら、
「染めて気に入らなければ、また黒くしてあげますから」
と、美容師さんが言ってくれていた。鏡に映るピンク頭を見た瞬間、迷うことなく染めなおしてもらうことを決意。
こんなピンクの頭で明日学校に行ったら、「パリでいきなり弾けた日本人」のレッテルを貼られてしまうではないの。
ところがその日は、夜に日本のY社が関係していたピアノリサイタルを聴きに行く約束をしていたため、その場で染め直す時間は残されていなかった。そして、そのリサイタルにはピンク頭で聴きに行くこととなった・・・
演奏会前にトホホな髪色で日本人経営のうどん屋さんに行き、一緒にいた友達と「アニメの子みたいになっちゃったね」と冗談混じりに話しながらうどんを食べたけれど、落ち込みは増す一方。
こんな時にかぎって、Y社関係のリサイタルっていうことで会場には日本人の留学生がやたらたくさん来ている。とにかく誰にも見つかりたくない、の一心で、キョロキョロせずに一目散でホール内に入った。
その日の演目は、私と年齢がそれほど変わらないというのに、チャイコフスキーコンクールで優勝したばかりのピアニスト、デニス・マツエフのパリデビューだった。曲目は全部は覚えていないのだけれど、シューマンの「子供の情景」と、プロコフィエフのピアノソナタ第7番が印象に残っている。
それまでピンクの髪のせいですっかり上の空で着席していたのが、一気に正気に引き戻されるような怪力爆演のプロコフィエフだった。一方で、彼の容姿からは想像できない美しい音色と、繊細で詩的な歌心で演奏されたシューマンが、意外にもとても良かったことをはっきり覚えている。

そのマツエフは、一昨年の11月に指揮者のゲルギエフ率いるウィーンフィルと来日、パリでのリサイタル以来20年以上ぶりに聴いた。好き嫌いはともかく、連日満席のサントリーホール公演でソリストをつとめ、S席4万円近い高額チケットを購入した観客を満足させる、圧倒的な「何か」を備えたピアニストになっていた。
マツエフを再び聴いたこともそうだけれど、近ごろ頓に「人生2巡目」を感じることが多い。意外な結末は例外的で、ほとんどが収まるべき所におさまっているように見え、まるで答え合わせをしているかのようだけれど、、、人生、終わってみなければわからないよね。


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