はるがくる

これが
このチューリップが
このチューリップという花が

チューリップという花だと誰が証明できよう

チューリップであるには違和感があって
かといってそれ以外の何にもなれない
ことを知ってか知らずか

チューリップはチューリップであろうと
努力しているのだけれど

無垢な子どもの声が
存在を疑うとき

チューリップはひどく恥じて
混乱して
自分を守れなくなった


引っこ抜かれて放置されて
ずたずたに踏まれて

痛い痛いという声も出ずに
チューリップはただ
痛い痛いと思ったのだけれど

本当にそう思っていることを誰が証明できよう

長い沈黙のあと
チューリップはその痛みも悲しみも
引っこ抜かれたことも幻だったのではないかと疑い始めて

あれほど無垢な子どもに
どうして私のことを引っこ抜けようと
そう考えているときだけチューリップはかろうじて
二酸化炭素を吸えました


けれども
またすぐに
自分は引っこ抜かれたことを何かの拍子に確信すると
途方もない渦の中に沈んでいくように感じて
ひとりぼっちに感じた
ことを誰が証明できるのだろう

チューリップは
小さな球根から生まれた
その時から運命を辿ってきたのなら

どこへ戻ろうと
どこへ時間を巻き戻そうと

チューリップはその運命から逃れられないのかもしれない
そんな小さな思いが
希望のともしびとなって
チューリップの心に宿ったとき
チューリップはチューリップであることが
大したことのないように思えた

ただ
雨水に流されて排水溝にうずくまった
チューリップは
無垢な子どもと
自分を踏んでいったひと、車、動物、虫すべての
幸せを密かに願った
ことを誰が証明できよう



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