【遅延損害金】の法定利率が引き下げられました
【2020年民法改正で何が変わったのか?】について解説しています。
今回は、「遅延損害金」について解説します。
「遅延損害金」の規定は、「金銭の支払い」が発生する様々な契約書に多くみられる重要な規定ですので、皆さんもよく目にされているものだと思います。
今回の改正で、この規定に関連する主な改正点は、1つです。
✅法定利率が引き下げられて変動制が導入されました
この記事では、「遅延損害金」について改正のポイントと契約書をチェックする際に、確認すべきポイントなども解説していきます。
1.そもそも、遅延損害金とは?
遅延損害金は、 「遅延利息」とも呼ばれますが、厳密にいうと、利息とは異なり、債務不履行や履行遅滞(たとえば、受注した業務を遂行しなかった、納入期限を守れなかった、借りたお金の返済が遅れたなど)に基づく、損害を賠償するために支払われる金銭(遅延損害金)のことをいいます。
ただ、性質上、利息と似ており、利息と同じように一定の期間を区切って、その期間中における金銭債務の額に対して、一定割合から算定されますので、遅延損害金のことを「遅延利息」と呼ぶ場合もあります。
なお、遅延損害金は債務不履行を起こせば[法律に基づき]発生するのに対して、利息は、利息に関する契約によって発生します。
この[法律に基づき]発生する遅延損害金についての規定が、今回の内容になります。
2.「法定利率」と「約定利率」
遅延損害金の利率には、「①法定利率」と「②約定利率」の2つの利率があります。
①法定利率とは、法律によって定められている利率をいいます。
②約定利率とは、当事者間の合意によって定められた利率をいいます。
✅当事者間で、②約定利率が定められている(合意がある)場合、①法定利率よりも優先して適用されます。〈改正民法第419条1項〉
✅当事者間で、特に利息に関する契約などを締結していない(②の合意がない)場合は、①法定利率に基づいて算出されることになります。
3.今回の改正内容
✅改正前の法定利率
👉民法上の法定利率……年5%〈旧民法404条〉
👉商法上の法定利率……年6%〈旧商法514条〉
法定利率は、一般の取引に適用される民法上の法定利率(年5%)と、 商行為で生じた債務に適用される商法上の法定利率(年6%)と2通りありました。
この利率は、明治期より長くにわたり見直されておらず、現在の市中金利と大きく乖離することを防ぐため、今回の改正がなされました。
✅改正後の法定利率
👉法定利率…一律年3%〈改正民法第404条2項〉
👉施行後、3年ごとに法定利率を1%単位で見直す〈改正民法第404条3項〉
👉商法上の法定利率を廃止
上記のとおり、法定利率は年3%とされ、3年ごとに見直されることになりました。(変動金利制)
なお、約定利率を定めなかったときは、利息が生じた最初の時点における法定利率が、その債権の利息になります。
また、商行為によって生じた債務についても、民法上の法定利率を適用することになりました。
4.契約書をチェックする際のポイント
今回解説してきたとおり、
約定利率(当事者間の合意によって定められた利率)がなければ、法定利率の3%が適用され、その後変動する可能性がありますので、
債権者側と債務者側で、たとえば下記のような規定を、相手方に対して提案することが考えられます。
✅債権者側
👉法定利率の3%よりも高い利率(旧商法の年6%や消費者契約法の年14.6%) を定める
✅債務者側
👉現在の法定利率を固定化するために、年3%と定める
実務上、業務委託契約書の遅延損害金の規定で「年14.6%」となっているものをよく目にします。債権者側の立場からすると特に問題ないですが、債務者側の立場からすると、法定利率よりも高い「約定利率」を合意することになりますので、
“民法上の法定利率の3%としてはいただけないでしょうか”
などと、民法を根拠に交渉することが可能ということになります。
当事務所は、法務担当のアウトソーシング先として契約書のリーガルチェックや契約書の作成を多く取り扱っています。お気軽にご相談ください。