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天災で納品物が滅失したとき…どちらが負担するのでしょうか?

企業の経営者の方はもちろん、原稿やWebコンテンツなどの成果物をクライアントに納品しているライターさんやフリーランスの方々にとっても、重要なお話になります。

今回は、「危険負担」について解説します。

業務委託契約書(請負契約)や売買契約書で、よく記載されている文言ですので、「見たことがある」という方も多いと思います。

2020年民法改正で、この「危険負担」についても重要な変更がありました。



危険負担とは

危険負担とは、双務契約(2つの債務が対価関係にある売買契約や請負契約などのことをいいます)において、 債務者(納品する側、商品を売る側)に責任なく履行できなくなった場合(たとえば天災地変などで商品が滅失・毀損した場合)に、どちらが負担するのか?

といった事項についての規定をいいます。


わかりやすく、売買契約でお伝えします。

売主と買主間で売買契約が成立後、買主が代金を支払う前に、大地震によってその商品が大破してしまいました。

このように「大地震」という双方の責任が問えない際に、どちらが負担するのか?この例でいうと、大破して納品することができなくなったのに、買主は売主に商品代金を支払う必要があるかどうか?という問題のことをいいます。


旧民法では

上記事例の場合、旧民法では、

原則(旧民法536条1項);
売主側が負担します。つまり、買主は商品代金を支払う必要はありません。

これを「債務者主義」といいます。

債務者(納品する側、商品を売る側)が負担するのが、「債務者主義」です。


ただ、これには例外が2つありました。

例外①(旧民法534条1項);

その目的物が「特定物」の場合に、債務者(納品する側、商品を売る側)に責任なく滅失又は損傷した場合は、債権者(納品される側、商品を買う側)が負担します。「債権者主義」です。

つまり、買主は商品代金を支払う必要がありました。

「特定物」というのは、“代替品がきかないもの”いわゆる一品もののことで、レアな中古商品などのイメージでよろしいと思います。その逆を「不特定物」といい、滅失しても代替品を納入することが可能なものをいいます。


例外②(旧民法536条2項);

債権者(納品される側、商品を買う側)の責任で履行できなくなった場合も、債権者(納品される側、商品を買う側)が負担することになっていました。

たとえば、前述の事例の商品滅失の理由が、地震でなく、買主の誤った指示や故意過失によるものであった場合、買主は商品代金を支払う必要がありました。


改正民法では

これらが、“買主にとって酷”という理由などで、改正民法では下記のようになりました。


原則(改正民法534条);債務者主義に統一

特定物であっても、不特定物であっても、債務者主義に統一されています。

ということは、前述の例の場合、買主は「支払う必要がない」ということになりますが、

これは、買主(債権者)の代金支払債務が、当然に消滅するというわけではありません。

というのも、

今回の改正で、自らに帰責性(責任)がない債務不履行があった際には解除権を行使できるようになりましたので、

買主(債権者)としては、解除権を行使しさえずれば代金支払い債務を消滅させることができるようになったためです。

もちろん、商品滅失の原因が買主側にあり、買主に帰責性があると認められる場合には、買主は代金を支払う必要があります(支払いを拒絶できません)。

また、商品の引き渡しが既に完了している場合には、危険負担は買主側に移行しますので、そのため当然に、商品が滅失しても代金を支払う必要があります(支払いを拒絶できません)。


契約書でチェックすべきこと

買主(債権者)側からすると;
今回の改正で、せっかくこちらに有利になりやすくなったのですから、契約書の「危険負担」の規定で、旧民法の「債権者主義」となっていないか注意する必要があります。

売主(債務者)側からすると;
旧民法の「債権者主義」を維持しておいた方がもちろん有利ではあるのですが、なかなか認められないことが多いことと、

何より、売主(債務者)側からすると、「商品を引渡したのに、代金を支払ってもらえない」となると不利益であり一番のリスクですので、

これを避けるため、

民法の原則的なルールを採用し、「商品の引渡しをもって危険が移転する」とすることは徹底しておき、さらに、引渡し時(危険負担の移転時)がいつになるのかをしっかり提案する必要があります。

そして、勘違いしてはならならいのが、契約書で合意し明文化できれば今回の様な改正後の民法について変更できるというわけではありません。

民法から大きくかけ離れてしまった規定については、たとえ契約書を交わしていたとしても、裁判所でどのように判断がなされるかわかりません。

こういった将来のあるかもしれないリスクも想定しながら、契約書のチェックは慎重にすすめる必要があるといえます。


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