探究のお作法 「まとめ・表現」編
今回は、いよいよ探究サイクルの最終段階「まとめ・表現」について、お話をしていきます。
探究学習はサイクルであり、課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現→振り返り→次の課題設定→・・・と続くといいました。ここまで、段階ごとにそのお作法について解説し、やっと最終段である「まとめ・表現」へと駒を進めてきました。
まとめ・表現におけるお作法その1として、「目的に応じた様々な表現方法があることを知る」を挙げておきましょう。探究結果の表現ですから、あるテーマに関して客観的な文献や資料を集め、それらを分析・考察した結果に基づき、自分の意見をまとめるということは共通です。その上で表現の仕方には、論文やプレゼンテーションなどいくつかの方法がありますので、その特徴とともに列挙してみましょう。
a)論文・・・ある一定の型に基づいて書く文章による表現。序論、本論、結論のように文章展開にも型がありますし、見出しの付け方、図表の入れ方、注の付け方、引用の仕方などにも型があります。決まり事(ルール)が多い上に、文章を論理的に書く必要がありますので、完璧にこなすには難易度が高い表現方法です。しかし、大学では必須のスキルなので、中高時代に一度は経験しておくとよいでしょう。取り組む学年によって、決まり事の厳密さを調節してあげると生徒たちも取り組みやすくなります。先生方も完璧を求めるのではなく、チェック、評価するポイントとレベルを統一的に調整しておかないと、指導が大変になります。
b)レポート・・・テーマが決められた論文のことですので、探究結果の表現方法としては適していませんが、最終的に論文を書くためのステップとして学習させることには意味があります。ある程度、論文と同様のルールを守って書きます。
c)プレゼンテーション(プレゼン)・・・一般には、情報等を人に伝えるための提示方法全般を指しますが、探究学習の場面でいうと、視聴覚に訴える表現方法と定義できると思います。具体的には、スライドや映像などを利用した口頭発表です。論文と比較して、論理性やルールよりも聞き手の五感に訴えるような表現力が重視されます。文章だけでなく、図表・チャート、写真、動画などを利用することができるため、わかりやすい表現をするスキルが求められます。また、話し方が重要となります。言葉遣いだけでなく、スピードや抑揚、間のとり方など話し方のスキルを学ぶことが必要です。さらには、アイコンタクトやジェスチャーなど立ち居振る舞いまでもが表現の一部になります。これらをすべて教えることは難しいですが、社会に出てから必要になるスキルですから、生徒たちには意識させ、経験から学ばせることが大切だと思います。
d)ポスター発表・・・プレゼンの簡易版として行われることが多い方法です。プレゼンは多くの場合プロジェクターとスクリーンを使うので、同時に実施できる人数が限られます。ポスター発表は、プレゼン資料をスライドや映像ではなく、ポスター化(模造紙等の大きな紙に印刷する)して発表します。つまり、ポスターを貼る壁や衝立(パーティション)さえあれば、発表場所が確保できるため、同時に多人数が発表できます。プレゼンと比較して、動き(動画やスライドのアニメーション)が使えないだけで、その他の表現スキルは同様に求められます。むしろ、聞き手の注意は聞き手に集中しやすいので、話し方や立ち居振る舞いが重要になります。ちなみに、古くから学校で行われている壁新聞はポスター発表の一種だと思います。
e)その他・・・その他様々な表現方法があります。ICTを活用して、WEBデザインを行ったり、動画を作成したりする方法もあります。また、ダンスや演劇など特別な表現方法もあります。ただし、表現の幅が広がれば広がるほど、生徒たちが詳細な表現にこだわるようになり、本来の探究の成果発表という目的を見失う可能性が高まりますので注意が必要です。
それぞれ表現方法として長所、短所がありますので、学習目標に応じて選択することが大事です。ただし、経験から学ぶことは多いので、色々な方法を系統的に体験できる機会を作ってあげることが大切です。
表現方法は様々ですが、大事なのは「自分の意見としてまとめる」ことです。これがお作法その2です。設定した課題やテーマにもよりますが、調べた事実だけでは確実な答えが出ない場合が多いです。つまり、わかった事実をもとに自分で解釈し自分で判断して結論を出すのです。探究は大学で行う研究とは異なります。研究論文は、学術的に新たにわかったことを発表します。つまり、その発表される内容そのものに意味があります。反論できない確実な根拠にもとづいて結論を出す必要があります。しかし探究は学習活動です。結論の内容がどうでもいいとは言いませんが、学術的な新規性や信頼性が厳密に求められているわけではありません。決められた期間内に結論を出さなければないので、その範囲での限界ある活動になります。大事なのは、自分で設定した課題に対して、自分で調べたことを根拠に、いかに自分の考えを統合、構造化して結論を出すかです。その意味では、結論としての内容そのものより、自分がどのように考えたかの方が大事なのです。
そして、もう一つ大事なことは、「振り返り、次の課題設定をすること」です。結論を導くのに足りなかったこと、探究活動を経て新たに疑問に思ったことなどを整理して、次の探究サイクルの課題設定をするのです。これがまとめ・表現のお作法その3です。探究学習においては、結論を導くことと同様に、いやそれ以上に次の課題を設定することが大事です。学びに終わりはありません。そのことを身をもって体験できるのが探究の良いところだと思います。そして、この新たな課題が大学に進学してからの、さらには社会人になってからの自分が解決したい課題につながれば、探究がキャリアに連結します。その意味で、高校生の探究学習はキャリア探究でもあると私は思います。