教員の志望者が少ない理由
教員志願者増加策における一考察~待遇改善偏重の課題~
近年、教員不足は深刻な状況にあり、その解消に向けた様々な取り組みが推進されています。中でも「働き方改革」を契機とした待遇改善、具体的には給与増額、部活動顧問の負担軽減、労働時間短縮等は、教員志願者増加の有効な手段として注目されています。しかしながら、待遇改善のみに偏重した対策が、本当に教員志願者増加に繋がるのか、慎重な検討が必要です。
確かに、他業種における人材不足が顕著であり、教員の職務が相対的にコストパフォーマンスの面で見劣りする現状において、待遇水準の引き上げは重要な要素と言えるでしょう。しかし、それだけで教員志望者の増加を期待するのは、いささか楽観的と言わざるを得ません。
現時点で教員を目指している大学生は、教員という職業の実情をある程度認識した上で進路を選択しているため、待遇改善は一定の誘因となり得ます。しかし、将来大学生となる現役の高校生、中学生、小学生の視点に立つと、状況は異なります。
彼らの多くは、「教員になりたい」という意欲を抱いていないのが現状です。
筆者が過去に高等学校教員として勤務していた際、生徒に対して将来教員になることを勧めたところ、以下のような反応が多数見られました。
生徒A:「先生、教員にはなりません。だって、先生方は皆大変そうに仕事をしているからです。それに、私達のような生徒の相手をするのでしょう?更には、保護者からの苦情にも対応しなければならない。そのような仕事は敬遠します。」
生徒B:「私が大勢いるクラスの担任を務めるなど、考えられません。」
これらの生徒の言葉は、待遇改善だけでは根本的な問題解決に至らないことを示唆しています。
採用広報の対象と効果について
効果的な広報活動は、採用活動において不可欠です。しかし、最も重要な広報媒体は、他ならぬ現場の教員自身です。
現場の教員が疲弊し、苦悶の表情で職務に従事している状況下では、児童・生徒は教員という職業に魅力を感じることはありません。
より重要なのは、教員がその能力を十分に発揮し、充実感を持って職務に取り組める環境を構築することです。
したがって、教員志願者増加のためには、以下の二点を両輪として推進していく必要があります。
待遇改善に加えて、教員が真に働きやすく、やりがいを感じられる職場環境を整備すること。
現場の教員が生き生きと職務に取り組む姿を社会に示すこと。
この二点が揃うことで初めて、児童生徒は教員という職業に憧憬を抱き、「将来、教員になりたい」という意欲を持つようになるのではないでしょうか。
これは、例えば飲食店の集客に例えることができます。料理の質が低いにもかかわらず、開店時間の変更や新たなメニューの追加といった表面的な対策を講じても、顧客の満足度向上には繋がりません。同様に、教員の待遇改善のみに注力しても、教員という職業自体の魅力向上に繋がらなければ、志願者増加という目的を達成することは難しいと言えるでしょう。まずは料理、即ち教員の働く環境を魅力的なものにすることが肝要です。