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大学非常勤講師が個人事業主になることで、実所得が増えるしくみ


はじめに


拙記事「大学非常勤講師として人並みに生きる―個人事業主という選択―」では、大学非常勤講師が人並みの収入を得て生きていく方法の一つに、大学非常勤講師をしながら個人事業主になる道があることを述べた。

大学非常勤講師という立場で、わざわざ税務署に行って個人事業主登録をしてまでなる必要はないのではないか。そんな疑問が湧くかもしれない。

実際に、大学非常勤講師の立場で個人事業主を4年間やってみて、その「恩恵」を実感した。いくつかあるが、金銭面では、たとえ非常勤講師だけしているときと比較して年収が変わらなくても、実所得が増えることである。

それでは、どのようなしくみによって実所得が増えるのか。以下、具体的に述べたい。


個人事業主をしている大学非常勤講師の収入の内訳


大学非常勤講師が個人事業主になった場合、非常勤講師としての給与所得に加え、事業収入が発生することになる。

大学非常勤講師の場合、どのような事業収入が見込まれるのか。ここでは私のケースについて述べたい。

個人事業主時代に私が得ていた主たる事業所得の種別は、➀原稿料、➁コンサルタント料、③講師・講演料、④研究費(科研費・民間の研究機関等)であった。④については、すべて使い切ることが前提なので、収支はゼロ(またはマイナス)となる。儲けるための経費ではないため、確定申告についてはしてもしなくてもどちらでもいいそうだ(担当税理士談)。つまり、研究費は事業所得としてカウントしてもしなくても、問題ないということである(研究費を支給されている機関に、原則収支の報告をする必要があることは言うまでもない)。

したがって、大学非常勤講師で個人事業主をしている場合、

年収=給与所得(大学非常勤講師の給与+α)+事業所得(例.原稿料、コンサルタント料、講師・講演料)

ということになる。

なお、給与所得と事業所得の比率だが、これは人によって、あるいはその年度によっても異なる。仮に、ある年に給与所得と事業所得の割合が10:0だとしても、個人事業主になることは可能である。具体的には、事業はやっているがその年に収入がゼロであっても、個人事業主として青色申告ができることを意味する。大学非常勤講師の場合、例えば著書の執筆をして刊行した(刊行の準備中も可)が、まだ印税が入ってきていない状態などが考えられる。


実所得が増えるしくみ 

(1)事業所得は給与所得よりも低く見積もられる


個人事業主になることで、実所得が増えるしくみについて、順を追って解説していこう。

事業を行うには、経費と労力をかけ商品等を製造して販売し、その売り上げから収入を得るという一連の流れがある。ここで、大前提となることを確認しておきたい。事業を行うための支出が事業経費、事業によって得た収入が事業収入で、事業収入から事業経費を差し引いたものが事業所得となる。給与との決定的な違いは、得た売上等から経費を差し引くことができる点である。したがって、事業収入は売上よりも減る。つまり、申告する収入は低く見積もられるのである。

例えば、1冊のワークブックを作成するのに、30万円の原稿料がもらえる仕事を例に考えてみたい。

ワークブックを作成するために、パソコン、インク、プリンター、下調べをするための書籍代、文房具等が必要で、それらを経費で購入したとする。その合計が、仮に15万円だとすると、

原稿料(30万円)ー経費(15万円)=所得(15万円)

したがって、出版社等から支払われる原稿料は30万円だが、その人の所得は15万円となる。全く同じ作業を、出版社でのアルバイトとして時給で行う場合、給与として支払われることになる。仮に、そのために必要な道具としてパソコン等を購入しても、事業経費として差し引くことはできないのである。この低く見積もられた収入に対し、所得税がかけられるため、所得税を低く抑えることができるのである。

(2)事業経費が赤字の場合は、給与所得から補填するとみなす


給与所得もある個人事業主の場合、事業でかかった経費のほうが事業収入を上回ることがある。その場合、赤字部分を給与所得から補填すると考える。

例を挙げて説明しよう。事業のほうで、1冊の著書を執筆する仕事を得たとする。1冊の本を作成するのに、取材や調査に行く、資料を取り寄せる、調査のための書籍等を購入するなどで経費が50万円かかったとしよう。しかしながら印税はまだ入ってきていない状態の場合、

収入(0円)ー経費(50万円)=ー50万円

と50万円赤字になる。非常勤講師などの給与所得がある場合、その給与所得から、事業における赤字を差し引く。非常勤講師としての給与所得が200万円の場合、

給与所得(200万円)ー事業所得の赤字分(50万円)=150万円

となり、この場合の年収は150万円とみなすのである。


(3)事業所得・給与所得を合算した年収に対し、社会保険料・税金の額が決定


所得税等の税金や社会保険料は、その人の所得によって決まるのは周知のとおりである。給与所得の場合、大学・会社等で年末調整(場合によっては確定申告)を行ってもらうため、自分の収入に対し、どのくらいの社会保険料や税金を納めているかピントこないかもしれない。給与所得のみの場合、原則経費を計上することができないため、もらったお給料がそのまま課税対象となる。しかし、事業所得がある場合、経費として計上することができるため、売上等よりも収入は低くなる。事業所得と給与所得がある場合は、事業所得で赤字となる場合は、給与所得から差し引くため、給与所得の収入が低く見積もられるのである。

このように年収が低く見積もられるため、税・社会保険料を低くなるのである。ここでは、わかりやすく説明するため、➀大学非常勤講師だけをしている場合(年収200万円)、➁大学非常勤講師に加え、執筆業をしている場合(非常勤170万+執筆業30万=200万円)を例に見ていこう。

➀の場合、経費として差し引けないため、年収は200万円のままである。

➁の場合、経費が50万円かかった場合、30万-50万=20万円の赤字。給与所得の170万-20万=150万円となる。


したがって、➀は200万円、➁は150万円の年収に対し、社会保険料・税が定まる。年収200万円の場合と年収150万円の場合では、当然後者の方が社会保険料・税が低くなることから、実所得が多くなるのである。


まとめ


本記事では、給与所得である大学非常勤講師が、個人事業主になることで、実所得が増えるしくみについて述べた。給与所得があっても個人事業主になれること、事業収入で赤字になった場合で給与所得がある場合は、そこから補填されることなどは、私が改めて説明するまでもないごく一般的なことで、特例でも何でもないのである。

よく考えてみれば、大学非常勤講師の多くは、理系・文系問わず、テキストやワークブック等の執筆に関わりうる職業である。実際に、テキスト、ワークブック、著書等を執筆した経験がある方も多いのではないだろうか。そもそも、研究成果を著書にして出版することは、むしろ研究者としての使命であり、真の意味での本業と言える。日常的にやっている研究者としての生業が、個人事業主になっていないばかりに、ライフワーク(しかも、多くの場合無償)として処理されていることに、すでにお気づきになったのではないだろうか。

ワーキングプアを余儀なくされている大学非常勤講師にとって、社会保険料や所得税・住民税等が軽減されることは、非常に大きな「恩恵」と言える。私自身、個人事業主になって、住民税や国民健康保険料等が前年と比べて信じられないほど減額したことに、驚きを禁じ得なかった。このことについては、具体的な数字を提示しながら、どこかでお伝えできる機会があればと考えている。

今回は、金銭面での「恩恵」について述べたが、それ以上の「恩恵」として、研究成果を研究の世界だけに留まらせるだけでなく、世の中に還元することのやりがいや面白さを発見したことであった。これに関しては、専任教員である今もなお模索し続けていることで、研究者の可能性をぐっと広げていけるものだという感触がある。この点については、まだまだ実験途中ではあるが、少しずつ発信していきたいと思っている。






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