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もしもアイツを殴っていたとしたら。

先日、大学の卒業式に出席する夢を見た。
これまでの人生に現れた人々に良く似た人影が沢山現れては消えていく、そんな不可思議な夢だった。

実際の大学の卒業式には出席していない。出席することを拒んだからだ。もう10年前の話になる。

自分は教育学部に籍を置いていた。だが、教育法や教育裁判についての勉学をしていたので、所謂"教職課程"の講義は受けなかった。そのせいで教育学部にいる学生とは殆ど講義では会わなくなり、年に1、2回開かれるオリエンテーションでしか顔を合わせる機会はなかった。当然友達もいなかった。

さらに2年生から教育裁判を中心に扱うゼミに参加したところ、参加者は自分ひとりだけ。それからの3年間は毎週2回教授が淹れてくれた日本茶を飲みながらふたりきりでの講義が開かれた。
これがトドメだった。夏休みのゼミ合宿など無い。結果的に大学生活は最初から最後まで地味なものとなった。

月日は過ぎいよいよ卒業式までひと月ほどという時期に学部内のゼミの代表がひとりずつ卒業論文について発表するイベントが開かれた。
学生はピンマイクを持ちながら15分ほど自ら書き上げた卒論についての発表をする。ひとりだけしかゼミなので、自分も発表することになった。発表会場は教育学部4年生全員と学内の教授たちで満席だった。
※ちなみに自分の卒論テーマは「いじめ」について。"いじめる側は知らぬ間に催眠状態のようになり、自らが相手を傷つけていることが分からなくなる"とか"日々の何気ない遊びの延長線上にもいじめは起き得るのだ"。といった内容。

なんとか発表を終え、質疑応答の時間となった。すると、今まで会ったこともない初老の教授が真っ先に手を挙げた。教授の顔には明らかに不満の感情が滲んでいた。そして、そこから彼は長い批判を繰り広げた。何を言われたか断片的にしか覚えていないけれど、「こんな不愉快な論文は初めてだ」とか「子供の心を舐めきった最低最悪な論文だ」とか「君の人格を私は軽蔑する」などと言われた気がする。
3年間かけて作り上げた卒論だった。発表会直前に開かれた学部内での個人発表ではまずまずの評価だったので、自信作だと思っていたのだが。

矢継ぎ早に投げかけられる教授の激しい言葉に当然怒りを覚えた。しかし卒業が目の前に迫っている以上、ここで殴り合いの喧嘩をするのはマズイ。いや、感情的になって教授に怒号を浴びせることさえマズイ。
その場は定まらない視線をしつつも冷静に返答することに終始した。正直それからの記憶はない。数日後、卒業するにあたり必要となる事務的な手続きを終えた瞬間、自分にとっての大学生活は終わった。
だから卒業式にも行かなかった。あの初老の教授がいる場所に行きたくなかった。絶対に殴ってしまうだろうから。いや、実際は単純に彼と会いたくなかった。
卒業証書は数日後、記念品とともに自宅へと郵送されてきた。

卒業してからちょうど10年後、突然現れた卒業式の夢をきっかけに大学時代のことを久しぶりに思い出した。
空白の時間にも似た4年間についてふと思い出す度、苦みと空虚感が心に広がるのだ。それはきっといつまでも変わらないだろう。

…「ごちゃごちゃうるさいぞ!シバくぞ!」
それくらいは言えば良かったかなあ?今ではそんなことを思ったりするのだけど。

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