木下長嘯子「はちたゝき」原文

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はちたゝき
木下長嘯子
藤井乙男(底本編集)

いつより有ともしらぬふるきなりひさごの器、持佛の具に似たり。おのずから茶湯の水さしによろし。またはなをいけ、くだものをもる。一物三用にたる。ふたのうらにはことやうなる人がたあり。空也の遺弟とかいふなる。よりてこのものを、はちたゝきとなづく。いつも冬になれば、さむき霜夜のあけがた、なにごとかあらん、たかくのゝしりて大路をすぐる。かれが聲いとたへがたくめざめて、不圖《フト》聞つけたるは、卯花のかげにかくるゝこゝちす。
  はちたゝきあかつきがたの一こゑは冬の夜さへもなくほとゝぎす
天哉

底本:「校注挙白集」藤井乙男著、文献書院
1930(昭和5)年

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