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ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

ビジョナリー・カンパニーとは?

ビジョナリー・カンパニーは下記の条件を満たす企業である

  • 見識のある経営者や企業幹部の間で、広く尊敬されている

  • わたしたちが暮らす社会に、消えることのない足跡を残している

  • CEOが世代交代している。

  • 当初の主力商品・サービスのライフ・サイクルを超えて繁栄している。

この書籍では、ビジョナリー・カンパニーを金メダルの企業として、同時期に活躍していた銀メダルの企業と比較分析している

時を告げるのではなく、時計をつくる

CEOがカリスマとして企業を導くことや、素晴らしいアイデアを商品化することはいずれも"時を告げること"であり、成功した企業は仕組みと組織を作ることに重点を置いていた。

ジム コリンズ;ジェリー ポラス. ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則. 日経BP社. Kindle 版. 2章

偉大なカリスマの存在は、ビジョナリー・カンパニーとして成功することに逆相関している。また、素晴らしいビジネスアイデアから出発した企業は"銀メダル"の企業の方が比率が高い

ウォルマート

変化、実験、不断の改善を大切にし、「店舗のなかの店舗」と呼ばれるコンセプトを打ち出し、部門責任者にそれぞれの部門を自分の会社であるかのように運営する権限と裁量を与えた。

ウォルト・ディズニー

創造力のあるスタッフには自分以上の報酬を与え、すべてのアニメーターのためにアート講座をひらき、敷地内に小さな動物園をつくって、生きた動物を見ることで、動物を描く技術を磨くようにし、アニメ製作の新しいプロセス(ストーリーボードなど)を開発し、最先端のアニメ技術に投資し続けた。

基本理念

基本理念は、組織のすべての人々の指針となり、活力を与えるものであり、長い間、ほとんど変わらない。ビジョナリー・カンパニーの基本理念は、社員の心を動かす魅力があり、社員を共通の目標に向かわせる。基本理念のポイントは本物であることであって、独自性ではない

ジム コリンズ;ジェリー ポラス. ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則. 日経BP社. Kindle 版. 3章

基本理念がどれほど大切にされていても、どれほど意義のあるものであっても、同じところに止まり、変化しようとしなければ、世界から取り残される。世界の変化に立ち向かうには、信念以外の組織のすべてを変える覚悟で臨まなければならない

ジム コリンズ;ジェリー ポラス. ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則. 日経BP社. Kindle 版. 4章

基本理念と慣行を区別する

時間の経過と共に文化の規範や戦略は変わるが基本理念は変わらない。
変わりうる慣行は下記のようなものである。

プラクティス

自社の基本理念は何か?見解は従業員間で一致するか?

社運を賭けた大胆な目標

基本理念と進歩の意欲

進歩への意欲があるから基本理念を維持できる。
絶えず変化し、前進しなければ基本理念を維持するだけの企業は取り残される。
進歩への意欲があれば、「いまこそ新しいものに投資すべきだ」と、外部の世界から教えられるのを待たずに、内部から駆り立てられる。

BHAG (Big Hairy Audacious Goals)

社内の資源を全て注ぎ込み、民間機を開発したボーイングが典型例に当たるが、このような社運を賭けた大胆な目標と名づける。
ビジョナリー・カンパニーの十八組のうち十四組で、はこの強力な仕組みを使っているが、比較対象企業はそれほど使っていない。
ケネディ大統領は政権の高官を集めて会議を開き、「宇宙開発計画を強化しよう」といった中身のない声明を考えることもできたが、「六〇年代が終わるまでに、月に人間を着陸させ、安全に地球に帰還させる」という明確で説得力がある目標から集団の力を結集させた。

BHAGのリスク

自動車を大衆の手に届けるという大胆な目標を達成したとき、フォードは新たなBHAGを設定せず、自己満足に陥って、GMがフォードを追い抜くというやはり大胆な目標を掲げてそれを達成するのを、なすすべなく見守るようになった。この点から、BHAGが組織にとって有益なのは、それが達成されていない間だけであると言える。「目標を達成する前に、次のBHAGを考えておくべきではないだろうか」と本書では提案している。

プラクティス

明確でワクワクさせられるような目標を持っているか?

カルトのような文化

ビジョナリー・カンパニーは、だれにとってもいい職場であるとは言えない。この職場がすばらしい職場だと言えるのは、その企業の流儀を信奉している者、それにぴったり合っている者だけである。ビジョナリー・カンパニーになるために「やさしく」「居心地のいい」環境をつくる必要はない。ビジョナリー・カンパニーは勤務成績についても、イデオロギーの信奉という点でも、社員に対する要求が厳しい傾向がある。失敗し、みじめになり、居所がなくなり、いずれ辞めていくことになる。

P&G、IBM、ノードストローム、ウォルト・ディズニーなどの多くのビジョナリー・カンパニーではオリエンテーションや社歌、評価による選別、コンテストや賞、祝賀行事などによって教化、同質性の追求が行われていた。

大量のものを試して、うまくいったものを残す

第五章ではBHAGによる計画的な戦略に基づいた成功を紹介したが、ビジョナリー・カンパニーの社史を調べていったとき、各社でとくに成功した動きのうちいくつかが、綿密な戦略計画に基づくものではなく、実験、試行錯誤、臨機応変によるものであった。

ジョンソン&ジョンソン

主力製品の絆創膏を使った患者から皮膚が炎症を起こしたという抗議を受け、スキン・パウダーを同封するようにしたところ、パウダーへの注文が殺到して商品化した。R・W・ジョンソン・ジュニアは、「失敗は当社にとってもっとも大切な製品である」という有名な言葉を残している。

3M

3Mには進化を促す多くの仕組みがある (抜粋)

  • 15%ルール: 技術者に勤務時間の15%までを自分の選んだテームや創意工夫にあたるよう奨励る

  • 25%ルール: 各部門に対して、売上の25%を過去5年間に発売された新商品と新サービスで挙げるよう求める

  • 「デュアルラダー」の進路: 技術者や専門家が研究活動や専門家としての仕事を犠牲にすることなく、つまり管理職にならなくても昇進できるようにする

ウォルマート

ウォルマートの店舗の入口に「あいさつ係」が立っていることはよく知られているが、これも壮大な計画や戦略に基づくものではない。ルイジアナ州クローリーの店長が、万引きに困った末、実験してみた。それでも、この突飛な実験で効果があることがわかったので、やがて、この方法が全店で採用さ
れるようになり、ウォルマートに競争力をもたらす秘訣のひとつになった。

ビジョナリー・カンパニーでは、BHAG(社運を賭けた大胆な目標)に続く第二の種類の進歩として、進化による進歩をはるかに積極的に促している。
いくつもの新しいものを試し、うまくいったものを残し、うまくいかなかったものはすぐに捨て去っている。権限の分散を進めて、個人の創意工夫を促し、社員が新しいアイデアを実験できるようにして、変異を促進している。同時に、厳しい選択の基準を設けている。

生え抜きの経営陣

ビジョナリー・カンパニーには、変革をもたらし、新しい考え方を取り入れるために経営者を社外から招く必要はまったくない

ジム コリンズ;ジェリー ポラス. ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則. 日経BP社. Kindle 版. 8章

コルゲート vs P&G

コルゲートは、外部から招いたピアーズが基本理念を踏みにじり、特に小売店、顧客、従業員との関係を公正なものにするという基本的な価値を踏み躙って、小売店が反乱を起こして売上高が半分になった。これを機にP&Gに遅れを取り、以後は追いつけなくなった。
一方P&Gでは同時期に一族経営ではなくなったが、経営幹部を常に育成して、どのレベルでも引き継ぎにあたって断絶が起こらないようにし、基本理念を会社全体で維持することを重視していたため、経営者の世代交代が順調に進んだ。

ゼニス vs モトローラ

ゼニスでは創業者が引退し、品質に熱狂的な意欲がある社風が弱まった。
モトローラは創業者の息子のボブを平社員の倉庫係として高校生自体から雇用し、19年後にCEOとして迎えた。ボブは執行室を作り、CEOとしての業務をチームで遂行できるようにした

例外: CEOを外部から招いたビジョナリーカンパニー

ディズニーではウォルトの後継者として、ディスニーの価値観を理解し、熱狂し、称賛していたアイスナーを登用することで基本理念を維持した。

決して満足しない

安心感は、ビジョナリー・カンパニーにとっての目標ではない。それどころか、ビジョナリー・カンパニーは不安感をつくり出し、それによって外部の世界に強いられる前に変化し、改善するよう促す強力な仕組みを設けている。{中略} ビジョナリー・カンパニーにとって、安心感は目標ではないのだ。

ジム コリンズ;ジェリー ポラス. ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則 (p.346). 日経BP社. Kindle 版. 9章

自己満足に陥らないための仕組み

P&Gは、市場に十分な競合がいないため、社内で競争する仕組みを作ることを目指し、ブランドマネジメント構造を作り上げた。
モトローラは、売上高に閉める比率が高い成熟した製品から撤退して、その穴を新製品でしか埋めることができない方針にした。そして、テレビから撤退し、カーラジオから撤退した。
ウォルマートは「過去を乗り越えよう」という表を作って、売上高を去年の同じ月の同じ曜日の数値と比較し、基準をどこまでも引き上げるようにした。
数値を比較できた八組では、すべて、ビジョナリー・カンパニーは比較対象企業に比べて、売上高に対する研究開発費の比率が高かった。モトローラは、社員一人当たり年に四十時間の研修を目標にし、すべての部門に、従業員の一・五パーセントをいつも研修にあてるよう求めている。メルク、3M、P&G、モトローラ、GE、ディズニー、マリオット、IBMはいずれも、自社の「大学」や「教育センター」に巨額を投資して、徹底した研修と能力開発を進めている。

プラクティス

  • どのような「不安をもたらす仕組み」をつくって、基本理念を維持していくことができるか?

  • 将来のための投資を進めながら、同時に、たったいまの業績をよくするために、何をしているのか?

  • 不景気の間も、将来のための投資を続けていけるのか?どうやるか?

  • 安心感が目的ではないこと、ビジョナリー・カンパニーが働きやすい職場ではないことを社員は理解しているだろうか?

本書のまとめ

一貫性を追求しよう。会議を開いて理念について話し合うだけでは、ビジョナリー・カンパニーになれるわけではないことを忘れてはならない。ビジョナリー・カンパニーは基本理念を維持し、進歩を促すために、ひとつの制度、ひとつの戦略、ひとつの戦術、ひとつの仕組み、ひとつの文化規範、ひとつの象徴的な動き、CEOの一回の発言に頼ったりはしない。重要なのは、これらすべてを繰り返すことである。

ジム コリンズ;ジェリー ポラス. ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則. 日経BP社. Kindle 版. 10章
  • 時を告げる予言者になるな。時計をつくる設計者になれ。  

  • 「ANDの才能」※を重視しよう。  

  • 基本理念を維持し、進歩を促す。  

  • 一貫性を追求しよう

※ ANDの才能 … 短期的な売上か?長期的な成長か?などの二者択一にとらわれず、両方を徹底すること

ビジョナリーカンパニーは、基本理念と一貫して実践を行っている