ファスト&スロー(上)
認知心理学と社会心理学の新たな発展を踏まえて、脳の働きが今日どのように捉えられているかを紹介する。
読者が人間が犯すエラーの顕著なパターンに気づき、エラーを防げるようになることを期待する。
速い思考: システム1
直感的思考。知覚と記憶という自動的な知的活動が含まれ、スイッチオフにはできない。
システム1にはバイアスがある。
システム1が活動するとき
怒っている人の写真を見て、意識せずとも怒っていることを判断し、この人がこれから大声で怒鳴るだろうという予測をする。
遅い思考: システム2
熟慮熟考。
17 x 24 のような式を解く。計算は、頭の中だけのことではなく、身体もかかわってくる。筋肉は緊張し、血圧は上がり、瞳孔が拡がり、心拍数も上がる。注意力を要する。注意力は有限で、同時にシステム2を要する行いをするには限界がある。
システムの相互作用
システム1とシステム2の分担は、きわめて効率的にできている。すなわち、努力を最小化し成果を最適化するようになっている。
システム2が忙殺されているときは、セルフコントロールが低下し、利己的な選択をしやすく、挑発的な言葉遣いをしやすく、社会的な状況について表面的な判断をしやすい
システムの衝突
下記の文字が太いか細いか口に出して読み上げるときにはシステム2が活動するが、システム1による衝突が起こる。
この際「細い」「太い」という言葉を自分の記憶にプログラミング※してシステム2が活動するが、これは記憶に乗っているため、システム1が顔を出して無視できないのである
※心理学では実行制御と呼ぶ
システムと身体の相互作用
心理学者のロイ・バウマイスターのチームは一連の驚くべき実験を行い、認知的、感情的、身体的のいずれかを問わず、あらゆる自発的な努力は、少なくとも部分的にはメンタルエネルギーの共有プールを利用していることを決定的に証明した。
1つの実験では、被験者はチョコレートや甘いクッキーの誘惑に抵抗しながら、ラディッシュやセロリなど清く正しい野菜を食べさせられる。これで自我消耗した被験者は、この後で難しい認知的タスクを課されると、いつもより早く降参してしまう。
仮釈放判定人の仕事では、各休憩直後の許可率が最も高く、65%の申請 (通常は35%) が認められた。逆に、疲れて空腹になった判定人は、申請を却下するという安易な「初期設定」に回帰しがちだった。
フロー状態
努力や注意を払ったセルフコントロール無しにシステム2が活動し、解放されたリソースを目の前のタスクにのみ費やす、いわゆるのめりこんだ状態
セルフコントロールと実行制御能力の相関
マシュマロ・テストで誘惑に勝った子供は、認知的タスクで高水準の実行制御能力を示し、麻薬などに手を出す確率も低かった。知能テストでも大幅に高い点数を取った。
では、注意力のコントロールを高めて知能向上を図ることはできるか実験を行うと、四~六歳児に五~四〇分間、注意力とコントロールをとくに必要とするようなさまざまなコンピュータ・ゲームをやらせた結果、非言語知能テストの成績も上がることがわかった。
遺伝が影響するとともに、しつけも影響することを突き止めた
システム2の監視機能が弱い人
思いついた最初の考えを答えがちで、直感が正しいかどうか確かめる努力を惜しむ。衝動的で、せっかちで、目先の満足を貪欲に追い求める。
プライミング効果
最初に思い浮かんだことがまた別のことを呼び起こし、頭の中に次から次へと活動がつながっていく。
ある単語に接したときには、その関連語が想起されやすくなるという変化は、プライミング効果と呼ばれ、SO■Pを埋める場合、事前に「食べる」という言葉を見聞きしていれば SOUP, 「洗う」という言葉を見聞きしていればSOAPと回答する確率が高まる。
学校補助金の増額案に対する賛成票は、投票所が学校の場合、そうでない場合よりも有意に多かった。
この「食べる」「洗う」「投票所が学校」という観念が意識に上らなくても行動を変化させることは、イデオモーター効果と呼ばれる。
プライミング効果は双方向で、該当する行為のあとに認知的タスクの問題を出すと、通常より素早く回答できた。
すなわち、高齢というプライムを受けると、老人らしく行動する。逆に老人らしく行動すると、高齢という観念が強められる。
お金のプライム
お金のプライムを受けた被験者は、利己心と自立心が強まった。
実験者が鉛筆を落としたときに拾ってあげた本数が少なかったり、一人でいることを好む傾向が強かった。
罪悪のプライム
洗うという行為は、罪を犯した身体の部分と密接に結びついている。ある実験では、被験者が架空の人物に電話またはメールで「嘘」をつくよう誘導される。その後に何が欲しくなるかを調べたところ、電話で嘘をついた被験者は石けんよりうがい薬を、メールで嘘をついた被験者はうがい薬より石けんを選んだ
単純接触効果
無作為の刺激の反復とに対して人々が好意を抱くようになる
た。危険の多い世界で生き延びるためには、生命体は新たに出現した刺激には慎重に反応しなければならない。恐れを抱くことも必要だし、場合によっては逃げ出す必要もある。新奇なものに疑いを抱かない動物が生き延びる可能性は低い。だが刺激が実際に安全であれば、当初の慎重さが薄れることに慣れていく。単純接触効果が起きるのは、刺激に反復的に接していても何も悪いことが起きなかったためだ、とザイアンスは指摘する
出典
ダニエル カーネマン; 村井 章子. ファスト&スロー (上) 早川書房. Kindle 版.
本書を読んでいる途中で、再現性の高い研究について調べたくなったので、要約は一旦ここまでで止める。
心理学の再現性
本書で紹介されていたプライミング効果を調査してみると、結果が再現されないことが後続の研究で報告されている。
心理学における多くの実験が2010年代に再現性が無いと報告されており、これは「再現性の危機」と呼ばれている
「統計的に優位」という言葉は、その統計による示唆が実務的・臨床的に重要とは限らない。
誤検出のリスクを5%に抑えるという基準であり、比較するグループ間の差の大きさも考慮する必要がある。
例えば、高齢者プライミングは下記の研究で再現性が無いことが報告されている。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0029081
再現性があることが多く報告されている
虚偽記憶
フランカー課題
モータープライミング
直列位置効果
ストループ効果
帰属理論
愛着理論
感情の二要因理論
オペラント条件付け
ビッグファイブ
自己効力感
認知的不協和理論
自己知覚理論
再現性が無いことが多く報告されている
パワーポージング
スーパーヒーローのようなポーズを取ると力強く感じる
表情フィードバック仮説
笑うことで幸せになる
手を洗うことで罪悪感を洗い流すことができる
ダリル・ベムによる「逆行的影響」
意思決定における直感
文化的プライミング
集合的無意識
同調圧力とグループ思考
援助行動の状況要因