社会的動機づけの心理学 ― 他者を裁く心と道徳的感情
社会的動機づけと正義の理論
統制可能性、怒り、同情
成果に関連する結果の評価は、費やされた努力の量に正の関係があり、能力のレベルには逆の関係がある。
能力が無く努力したものは最も高く評価され、能力があって努力しなかったものが最も低く評価されることが実験でわかった。
図注
Ability (能力あり)
No Ability (能力なし)
Motivation (努力あり)
No Motivation (努力なし)
スティグマ (差別や排除を引き起こす偏見) の特徴を持つ病に対する、責任性と怒り、避難、同情
盲目 … 責任性 0.9・怒り 1.7
癌 … 責任性 1.6・怒り 1.6
エイズ … 責任性 4.4・怒り 4.0
肥満 … 責任性5.3・怒り 3.3
感情の役割
人の個人的苦境に対して、その人に責任がある場合は怒りを、対比的に責任が無いとされる場合は同情を抱く。
怒りは攻撃、排除を行う。同情は向社会的な行為を起こす。
いずれも機能的・進化的な意味を持つ。
ここまでのまとめ
出来事の原因 (=自己管理せずに太った、乱交によりエイズになった) は行為 (=怒りの結果、排除するなど) の重大な決定因である
原因は原因の所在 (外的・内的)、統制可能性 (=意図的かどうか等)、安定性 (=運要素ありなし) に分類される
責任性の認知的評価は怒りや同情と連合している
感情は行為の直接的決定因であり、向社会及び反社会的反応を促進する
思考ー感情ー行動の因果的な順序
援助行動は感情が直接反映される一方、攻撃行動は感情と思考を反映した攻撃的な反応であることがデータによって示唆されている。
個人の生存という観点から見た場合に、援助行動は自己にとって重大な結果をもたらさないが、攻撃行動は仕返しされるコストを考慮するためにこのような結果になったと筆者は考えた。
道徳的感情
能力(統制不可能)関連感情
妬み … 人が他者の優位な点を望むときに生じる。人は統制可能な性質である懸命な努力に妬みを感じない。しかし、美しくあるいは知的であることは一般に統制不可能であるため、これらの性質を持った人々は妬みの対象となる
軽蔑 … 他者の無能さを暗示している。人が他者よりも強靭・知的であると感じる場合に生じる
恥 … 自己が統制不可能な欠点を持つという信念と、自分の特性の不完全さが他者の目にさらされたという信念に基づく
同情 … 他者の苦境が統制不可能な原因による場合に生じる
能力不足は統制不可能である(罪というよりは疾病)ため、それらに対して軽蔑や恥という感情を抱くことは「道徳に反している」と言える。
努力(統制可能)関連感情
称賛 … 懸命な努力のように、ポジティブに評価される統制可能な行動によって成功したとき、その結果に値するものと認知されること
怒り … ある人が「そうすべきであった」という信念に基づく価値判断
感謝 … 個人的に望ましい結果が他者の意図的行為によるものであるときに生じやすい
罪悪感 … 道徳規範や正義の原則に背くような行動に対して、自己に向けられる
憤り .. 自己利益や快楽に関係なく、道徳的関心によって有害な意図的行為に対して生じる
嫉妬 … 最愛の人からの愛情の享受者が自分から他者に取って代わられる恐れから生じる
後悔 … よりよい選択がされていれば、結果はよりポジティブであっただろうと認識されることから生じる。公開は罪悪感と違って、自分に対する危害からの結果として生じる
他者の不幸に対する喜び … ポジティブな結果に引き続いてネガティブな結果がもたらされた場合に生じる。先行して妬みや当然の報いであるという認知がある。
道徳的な感情の殆どは、他者に向けられ努力と結びついている。
個人的利得の観点から上記の結果を利用すると、成功の原因が努力や運によるものだと公言すれば謙虚さを推論させ、能力によるものだと言えば傲慢さを推論させる。
出典
アーヴィング・B・ワイナー, 速水敏彦; 唐沢かおり; 社会的動機づけの心理学 北大路書房 . 1~3章