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禁断の多頭飼育

 さてさて、ペアリング、産卵を経ると、次に採卵、或いは孵化初令幼虫回収。そうなると、当然、段取りとしては幼虫の初期餌材を用意しておく必要があります。これが、毎年悩ましいところでして、この時点の方針決定によって成虫羽化の結果のほぼ90%は決まる、というか、まあ、それは強ち大袈裟ではなく、何につけても初手は大事ということは十分あります。それは、後ではどうしても取り返しのつかないことというのがあるからです。
 例年、わたしのルーティンでは、200cc cupに詰めたオリジナル菌糸を製作しておき、そこに初令幼虫を投入し、食い切りと3令加齢を見計らって♂は1500cc、♀は800ccボトルに入れ替えて管理、という流れにしておりました。
 がしかし、200cc cupは良いんです。というか、これについてはいつもパーフェクト。これ以上はないというくらい幼虫の発育良し、菌糸の状態良し、なのです。ところが、その後に投入した大きめボトルからがよろしくないのですよね。菌糸の状態といい、幼虫の状態といい、いつも観察していて状態が芳しくないのです。
 一つ考えられるのが、夏季に培養した菌の活性が良くないのではないか、ということが疑われるんですよね。200cc cupの方は、時期的には大分先立って製作開始していますから、冬から春仕込みのものなので再発菌操作時の温度的に菌の活性が良く、培地の分解も程よく進んでいて、特に初令幼虫にはとても良い餌に仕上がっている。ところが、次のラージ・ボトルを夏場に仕込むと菌の活性が良くなく、どうも納得のいく仕上がりにはならず、あまり状態がよろしくないのです。幼虫からすると、この培地の環境変化によるストレスが影響しているように窺えるのですよね。
 ということは、この交換時期をずらせば良いのではないか、と安直に考えてしまうのですが、実は、わたしの仮説では、この時期が幼虫飼育では最も大事な時期だと考えているので、一番良質な餌材がこのときには絶対に必要なのです。そうするともう、孵化初令幼虫の最初から良い状態に仕上がったラージ・ボトルに投入、という考え方もアリと言えばアリ。

禁じ手

 そして、もう一つ、オオクワガタ・ブリード界では禁じ手とも言うべき手法が、多頭飼育。これは、最も大きくならないと言われている方法なので、入魂のブリーダーならば絶対にやらない手で、ベテラン・ブリーダー的には悪手認定飼育法です。
 がしかし、いや、待てよ、と。その多頭飼育って、どんな風なやり方のことだ? と。YouTubeで投げ遣りな多頭飼育手法で飼育した動画などから考察してみますと、産卵材をマットに埋め込んだまま放置であるとか、大きな容器に埋めたマットでまとめて飼育であるとか、産卵用菌床ブロックで産卵させた後、孵化後に加齢してもそのまま放置であったり、大凡が六に餌交換もせずに放置プレイなんですよね。それらすべてが投げ遣りな結果なのです。それは育たんでしょ、と。
 よく考えてみると、ワイルド・オオクワガタは多産なので、自然下では一本の腐朽材から幼虫が10頭以上出てくることは決して稀ではないんですよね。そして、そのような材に居た幼虫は大きくはならないかと言えば、決してそんなことはなくて、丸々と太った3令が出たりするのは普通なのです。なので、材中の生育容積がよほど過密であれば、それはまたまったく別の話ですが、ある程度の密集状態であっても、餌材が枯渇していなければ、普通に育つと考えられるのですよね。要するに、居住環境スペーシングの問題で小さくなるのではない。
 わたしが思いついたのは、幼虫が一定数まとまって同じ培地に居ることで、共生酵母の増殖であったり、菌の活性であったり、培地の腐朽進行具合であったりといった腐朽材の状態はむしろ良い方向性が見いだせるのではないか? と。

小さく育つ原因

 ……とは、何なんだ? と。大きくするために知っておくべきは、正にこういうことではないですか?
 それはですね、至極シンプルに、餌材の物理的枯渇、または、貧栄養材による栄養失調の結果であると言い切れます。つまり、それ以外に直接的に作用する要因はありますかいな? ということなんですね。ある種の遺伝的な問題であったり、ホルモンの異常であったり、何らかの生体に特異な異常が発生しない限り、わたしは無いと思うのです。度を越した過密さや飼育管理放置をしない限り、多頭飼育が直接の原因で小さく育つわけではない。
 なので、もしも、餌材の状態が最良なのであれば、多頭飼育は決してタブーではないとわたしには思えます。むしろ、試してみる価値アリ、かも知れないと。

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