ヘッド・カプセルは三度死ぬ
大半のオオクワガタ・ブリーダーって、2令時期の幼虫の特徴なんてものに対しては気にも留めないと思います。それも無理はなくて、飼育中に最も見慣れない令時の幼虫期なのだろうと思われるからです。何故なら、その頃合いと菌糸瓶交換作業との時期が殆ど重ならないからで、ブリーダーが幼虫をゆっくり観察できるときと言えば、卵、或いは、初令幼虫を産卵材から割り出すときと、最初に投入した菌糸瓶から2本目への交換時になりましょうから、そのときにはもう既に幼虫は3令化してしまっていることでしょう。
現場で2令同定できればベテランさん
ところが、我々、採集者にとってはオオクワガタの2令幼虫はレアではなくてですね、まあ、2年化が自然下での常態と考えられるワイルド個体では初令でさえちっともレアではないのですが、京都市内でしたらば、ゴールデンウィーク頃、つまり毎年、今の時期くらいまでなら越冬初令、2令幼虫が普通に出てきます。逆に言うと、この時期にもしも初令だったならば、もう、それはその時点でオオクワガタ確定なのですが、問題は2令なんですね。このオオクワガタの2令幼虫の同定というのが、現場では採集者の判断を混乱させられるのですよ。
と言いますのも、そもそも、オオクワガタとコクワガタ、あと、アカアシクワガタは同じ白色腐朽材中に同居していることがよくあるのです。そして、これらは近縁種なので、幼虫の姿も大変良く似ているんですね。ですから、採集現場ではこれらの種類の同定が必須になってきます。
同定判別は、大体はヘッド・カプセルの見た目の特徴で判断するのですが、これがね、3令ならば問題ないんです。シンプルです。もう、大きさで判断できてしまうからです。「これはオオクワガタ以外、あり得ないよね」となります。オオクワガタ幼虫は国産種最大なので、圧倒的に頭幅が大きいですから。大凡、♂で最大約12mm、♀で約10mmという数値を目安に計測すれば問題ないです。例に挙げた近縁種二種でこの大きさの頭幅に届く個体というのは居ません。あとは、他の細部を観察すれば、ほぼ同定は確実となるでしょう、3令限定ならばね。
頭幅二倍化の法則
持ち帰って自宅でゆっくり観察するのとは大違いで、現場は野外で、しかも足場が悪かったり、寒かったりしたりする環境では誤認を誘発する条件が重なったりするのですよね。ノギスなんて、生体を傷つけるリスクが高いのでぴっちり当てて計測なんてできませんしね。わたしの場合は、確認用にルーペを携帯しているのですが、それでも幼虫は動くので確認は難しいです。
初令はですね、これについてはブリーダーさんたちも飼育で毎年夏になれば見慣れていると思われますが、3令と真逆です。クワガタ幼虫のヘッド・カプセルは脱皮・加齢によって、そのサイズがほぼ二倍化します。ヘッド・カプセルと顎以外の体は、食餌による栄養摂取で発育・成長するのですが、ヘッド・カプセルと顎に限っては脱皮時にしか成長しません。従って、仮にサンプルとして、約12mmの頭幅の♂3令個体ならば、逆算すると、その幼虫の2令時は約6mm、初令時の頭幅は約3mmだったと想定できるわけです。これは、コクワガタとアカアシクワガタにも同様に言えるので、これらの初令幼虫を実際に比較目視すれば一目瞭然で、コクワガタの初令幼虫なんて、オオクワガタに比べたら小さいのなんのって。なので、初令の同定判断も然程難しくはないんです。
鬼門も希望も2令個体にあり
同定が最も困難なのが、オオクワガタ♂2令とコクワガタ♂3令になろうかと思います。サイズが近似値で、見た目もこの二者は非常にそっくりだたからです。これらがそれぞれ単体で出てきたら、かなり混乱させられること必至です。
頭幅サイズで数値データ的に比較すると(あくまで大凡です)、オオクワガタ♂2令の場合、約5 - 7mmの範囲にあると言えます。一方、コクワガタ♂3令の場合、約6 - 8mmの範囲になります。はい、見事に両者で重なる範囲がありますよね。約6 - 7mmがそのグレーゾーンと言えるわけでして、小数点以下の1/10mm単位が正確には計測できない現場判定時には、このグレーゾーン該当個体が実に多い事例となるわけです。
上の画像は、たまたま正に近似値のオオクワガタ♂2令とコクワガタ♂3令を採取できたときに撮影したもので、こうして実際に並べて比較すると、経験豊富な採集者ならば一目瞭然ではあるのですが、ところが、これを個別に別けて見たときの印象となるとまったく違うのですよ、これが。手練れ採集者でさえも迷わされてしまうものなのです。
まあ、頭幅のサイズ値だけではなくてですね、詳細なディテールにも違いはあるにはあるのですが、現場での目視確認では条件的に困難を伴うので、判断を誤り易いものであるということをわたしは言いたいわけです。これはもう、いわゆる「経験者アルアル」というやつです。
ということで、オオクワガタ♂2令とコクワガタ♂3令の外見の特徴の差異を、見極めポイント的にざっと下に挙げさせてもらいます(あくまでわたしの私見によります)。*太字がオオクワガタ
● ヘッド・カプセル
色: オレンジで不透明 ー 黄土色で半濁透明感あり
外郭形状: 歪な半円弧 ー スムースな半円弧
顎長: ストレートで長い ー ストレートで短い
口唇上部扇状点刻: 明確で二重 ー 薄く一重
● 体躯
色: 透明感ある白色 ー 不透明なクリーム色
末端部より3節目までの特徴: 前方他節と均等的 ー 前方他節より膨張感あり
座りタコ: 小さい ー 大きい
尾毛: 薄少 ー 濃多
同定には、上記の特徴も考慮した合わせ技判定が有効です。
その他、気門形状など、特徴の似通った部分については言及を割愛しています。
初令時のサイズに最後まで依存
聞く話によると、自身のブリード累代飼育個体のホペイの3令幼虫で頭幅16mmの個体が居ると豪語されている方がいらっしゃるらしいのですが、もしもそれが事実なのなら、それはもう、交雑種と自ら公言しているのに等しいと思うのですよね。中国産ホペイの亜種と言われる日本の国産オオクワガタで、14mmを超える頭幅の3令幼虫は居ないとわたしは思いますし、累代ホペイについても同様だと思うのです。これはあくまで、何れもが純血種であれば、の話です。
わたし個人の採集経験では12mmを越す個体には未だに野外採集で遭遇したことがありません。なので、京都市産個体は頭幅については小さめという認識でおります(今のところ)。
頭幅サイズ計測値については、幾らノギスを使用しても、生体を傷つけてしまうリスクを回避しての厳格ではない計測値なので、1/10mm単位の正確な数値は出せません。ですから、どうしても1mm単位で四捨五入的な大雑把なサイズ感になってしまわざるを得ないのですが、それでも大凡の指標としては有効かなとわたしは考えています。
もう一つ、上述してもいますように、幼虫のヘッド・カプセルと顎のサイズについては、脱皮加齢時以外は成長(増長)はしないということがあります。つまり、次回の脱皮時までは脱皮直後のサイズ固定ということです。なので残念ながら、ヘッド・カプセルだけは幾ら我々飼育者が餌材を工夫しようとて、飼育では大きくはできないのです。要するに、幼虫のヘッド・カプセルの形質サイズの表現型可塑性に関しては遺伝的要因がほぼ100%であるということです。
採集2令は何故かよく育つ
今年、我が家にも昨年の2023年10月に採集したワイルド・オオクワガタ2令幼虫が1頭居ります。この個体が居たのはヒラタケ腐朽のクヌギ材でした。採集後はオリジナル200cc菌糸Cupにて飼育管理中で、最近、やっと活動が活発化してきて食痕が現れだしてきたところです。まだ加齢脱皮の兆候は見られません。我が家の常温飼育環境では、例年、大体梅雨時期以降頃に3令化します。遅めですよね。なので、いつも「ひょっとして、コクワガタだったか?」と、最後の最後にどんでん返しされてしまうのではないかと、つい疑心暗鬼になってしまうのですが、ちゃんと加齢脱皮してオオクワガタの3令の姿を見せてくれていますので、わたしの同定判定の確度はそれなりに高いということでしょうか。
それでですね、2令で野外材採集した幼虫というのは、何故か比較的大きく成り易いんです。ウチでは歴代、最大サイズを取ってます。その要因は、自然下の腐朽材よりも富栄養と言われる人工餌材であるところの菌糸瓶で長期間育てているからではないのか、となりますよね。じゃあ、採集初令個体はどうなんだって言うと、これが案外、結果は個体差が出てバラつくんです。でも、2令で採集した個体については何故か確実にデカくなる。その原因は未だに謎。数少ない積み上げではありますが、これがウチのデータから読み取れる、今のところ揺るぎのない「採集2令はよく育つ説」なのです。なので、2令で採集した幼虫は毎年、我が家では自動的に期待の次期ホープになるので、VIP飼育待遇なんですよね。
で、しかも、今回の個体は頭幅がこれまでで最大値なのです。なんと、約6.5mm以上はあるんですよ。7mm取れなくもないんですが、これも、やはり1/10mm単位は正確には計測不可能なので大雑把判定ではあります。脱皮加齢後に3令頭幅13mm超ってのは、もしもこれを実際に見ると、ちょっと驚きのサイズ感になると思います。当然ながら、自ずとその後の期待感も高まってしまいますよね。
DISCLAIMER
しかし、頭幅二倍化法則はあくまで観察によるもので、実用上も一つの指標的なものであって、数値上もきっちり正確に倍化するというものではなく、また、科学的根拠に基づくものでもありませんので、そこらへんはくれぐれもご理解のほど、よろしくお願いします。