令和の人間失格3〜初めての飲食店〜

恥の多い生涯を送って来ました。

私は初めての飲食店にひとりで入ることができません。
正確に言えば、入ることはできるのですが、何も事を起こさずに店から出てこれたことがありません。
緊張して毎回何らかの失敗をしてしまうので、ひとりで入ることはなるべく避けるようにしています。

もともとひとりで店に入ることは苦手でしたが、それを決定づけたのは牛丼のチェーン店「松屋」での出来事でした。
当時大学生だった私は松屋に入り、席に座りました。
すると、店員がやってきてこう言いました。
「食券システムになっていますので、食券をお買い求めください」

そのとき、周りに他の客がいたかは覚えていません。
しかし、私はそのとき、確かに強烈な羞恥心を覚え、牛丼を食べているときもそれは止むことなく、味わうどころではなかったことを覚えています。

初めての飲食店では、恥をかくタイミングが無数に存在します。
ご飯おかわり自由の店で、炊飯器のフタの開け方が分からず、苦戦しているとき。
そもそもどうやって頼んだらいいか分からないラーメン屋でのまごつき。
店員呼び出しボタンがない店で、「すみませ〜ん」と手を挙げて店員を呼ぶも、誰も気づいてくれないときの脱力した手。
自意識過剰であることは分かっているのです。
しかし、そういう小さな失敗が積み重なり、私は初めての飲食店に近づかなくなりました。

飲食店は誰かと行くに限ります。
その方が食事も楽しいです。
ここでいう「楽しい」は、会話が楽しいとは少し違います。
自分の恥ずかしい気持ちを他人に共有して紛らわすことができるため、食事に集中できる、ということです。

世の中には、ひとりでふらっと初めてのバーに入ることのできる大人もいるようです。
にわかには信じられません。
ひとりでふらっと入れる場所など、自宅のトイレくらいです。
私が行きつけのトイレに行くのと同じ感情で初めてのバーに入っていくのです。
本当に尊敬します。

いつの日か、ひとりでオシャレな飲食店に入れる日は来るのでしょうか。
期待に胸を膨らませつつ、今日もカップラーメンのお湯を沸かすのです。

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