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万博開幕まで2カ月!!公式スタッフは絶賛研修中「お辞儀、お辞儀、やっぱりお辞儀…」お辞儀で感動体験を

いよいよ大阪・関西万博が開催される2025年になりました。かねてから建設の遅れが懸念されていた海外パビリオンでも、外装工事を終えて内装や展示に進んでいる国が出てきています。公式HPに先駆けて、様々な国のパビリオンを紹介してきましたが、今後も詳しい展示内容などを更新していく予定です。

万博会場は、甲子園球場40個分の広さ。参加する国・地域は約160に上ります。そして、多い日には1日22万人超、近隣にある人気テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」の4倍!の来場者が想定されています。

どうやったらお目当てのパビリオンまでたどり着けるのか。「迷子になってしまったらどうしよう…」。このnoteでは、パビリオン情報に加え、アクセスなどのお役立ち情報を取り上げてきますが、きょう、ご紹介するのはそんな心配をしているあなたを案内する公式スタッフ「ゲストサービスアテンダント」です。

アテンダントは時給1850円という好待遇もあり、応募倍率は28倍を超えました。「☆国のパビリオンに行きたい」や「●◎を食べられる店舗はあるか」から、「熱中症気味で気分が悪い」「子どもとはぐれた」まで、大勢の来場者のさまざまな要望に応えるため、1000人の内定者が開幕に向けて研修中です。

■ 研修スタート!

昨年11月のとある日、大阪市内の会議室には、内定者のうち約130人が集まっていました。人の熱気に加えて最初に感じたのは、研修の講師が現れたときに、「ぴりっ」とした空気となって伝わる内定者の緊張感。10月に内定式が開かれてから取材時までの1カ月足らずの研修期間でも、接客のイロハを厳しく教え込まれていることが推察されます。

それでは、研修の様子をご紹介します。

「接客十大用語」とは

内定式から万博開幕までに課される最大20回もの研修で、毎回最初に必ずおこなう行うのが「接客十大用語」の復唱です。読者の皆さんは、10個すべて言えますか?

①おはようございます
②こんにちは
③はい、かしこまりました
④恐れ入りますが
⑤少々お待ちください
⑥お待たせいたしました
⑦失礼いたします
⑧申し訳ございません
⑨ありがとうございました
⑩また、お越しくださいませ

ゲストサービスアテンダントが活動するのは、世界各国、多種多様な人が一堂に集う万博です。日本語に加えて、英語と手話でも同じ挨拶を復唱します。さらには、お互いに向き合って身だしなみのチェック。服装や髪の乱れは御法度です。

内定者の中には、サービス業に従事した経験がある方もいますが、まったくの未経験者も数多く含まれています。取材した日は研修期間の前半ということで、多くの時間を十大用語を徹底に割いていました。ただ、言葉として用語を覚えれば満点、というわけではありません。表情やアイコンタクトできているかといったことも、お互いに確認し合います。グループごとのチェックが終われば、全員の前に出ての実演も求められます。

3つの角度

講師からの注意や内定者同士での指摘の中でも、多くの内定者が苦労していたのがお辞儀です。十大用語を口にする際は、言葉に応じて角度15度、30度、45度のお辞儀が必要となります。一例を上げると、以下のようなルールです。

内定者は数人でグループを作って一列に並び、それぞれが思っているお辞儀の角度を他の内定者のお辞儀の角度と比べることで、1000人のゲストサービスアテンダント全員が同じ角度で、同じタイミングでお辞儀をすることを目指します。

「お辞儀で感動させるんですよ!」

研修講師が飛ばした檄に、ゲストサービスアテンダントが目指す理想像が集約されていると感じました。

お辞儀の他にも、ゲストサービスアテンダントの一人称は「わたくし」であったり、椅子に座る前には「失礼します」と言ってからなど、接客マナーとして覚えることはたくさんあります。それに加えて、今回の万博の基本的な知識なども頭に入っていなければ、案内役は務まりません。内定者は開幕に向けて、案内業務で使うタブレットの操作方法に慣れたり、3月には万博会場に場所を移してより本番を想定した研修をしたりします。

■ ベルボーイ

取材では、内定者にインタビューすることができました。

鬼丸広大さん(21)は、SNSを通じてゲストサービスアテンダントの応募を締切1週間前に知り、1分後には申し込んだそうです ホテルでのいわゆる「ベルボーイ」の経験があり、接客業に興味あったという鬼丸さんは「大阪周辺の観光地案内など、ベルボーイではできない仕事もこなし、万博来場者に大阪や日本の魅力を伝えたい」と話します。

「大阪の道頓堀、和歌山の熊野古道、四国の八十八カ所巡りなど、案内先のアイデアはたくさんあります!」と鬼丸さん(中央)

ベルボーイの経験があっても研修には苦労しているとも明かし「クレーム対応などの際に焦ってしまい、敬語が崩れてしまうことがある。研修を通じてあらためて学び直しています」と話しています。

■ 祖父と母親は「居合道」で

浦華奈子さん(46)は、USJでのアトラクションクルーの経験があります。応募へのより強い動機は、ご家族と万博との縁でした。1970年大阪万博で、浦さんの祖父と母親が、居合道を披露したことがあるそうです。万博のニュースが流れると「1970年万博のお祭り広場に立ったんだ」と教えてくれたそうで、「私も同じ万博の舞台に立ちたい」と思った浦さんが、ゲストサービスアテンダントに応募したのは自然な流れでした。万博開催の意義や、税金も投入される経費の高騰など、今回の万博には少なからず逆風も吹いています。浦さんは「アテンダントと来場者が一体となることで、1日1日笑顔を共有したい」と意気込んでいます。

真ん中の女性が浦さん

「万博で居合道?」
と思った方もいるかもしれないので、少々脱線して解説します。世界各国の文化を知り、日本の文化を世界に発信する機会となる万博では、居合道に限らず、さまざまな各国文化が披露されます。全日本剣道連盟のHPには、2005年愛知万博で披露した剣道関連の催しの様子が記録されています。

今回の万博でも、日替わりで設定される参加国の「ナショナルデー」で、各国が威信をかけた催し物を準備しています。日本側も、「書道」「相撲」「和太鼓」など、多様なイベントを用意しています。

2019年のラグビーワールドカップ日本大会で、試合開始時にスタジアムに響く和太鼓が外国からお訪れた観客に大好評でした。

今回の万博で実施予定のイベントのスケジュールは、日本国際博覧会協会(万博協会)のホームページで公表されています。今回の万博は原則、来場日や観覧希望イベントが事前予約制なので、体験したいイベントが見つかれば早めに予定を確保するのがおすすめです。

■ 感謝や謝罪を形に

研修の話に戻りましょう。
最後に取り上げるのは、ゲストサービスアテンダントの基礎研修コーディネータで、万博協会から来場者サービスの計画・運営を受託している東京都のイベント管理会社TSP太陽の横田郁子さんです。1992年のセビリア万博以降、国内外の博覧会でアテンダントの研修などに携わってきた万博に欠かすことのできない存在です。

横田さんが指南する日本流のきめ細やかな接客は、過去の万博でも好評だったそうです。あえて3種類のお辞儀の角度を設けてより複雑なオペレーションとしたことも、日本人の謙虚さは世界に魅力として通用するという自負からで、「ゲストサービスアテンダントが発する言葉と、そのときの感謝や謝罪などの心情を、来場者に形としてしっかりと伝えるため」とその理由を明かします。

ゲストサービスアテンダントは、10代から60代まで、性別も国籍もさまざまです。横田さんは「年齢も経験も職種も関係ない。0から万博のチームを作っていきたい」と意気込みます。「内定者からは、万博で働きたいという熱意が伝わってくる」と歓迎する横田さん自身からも、講師として全力でそれに応えようとする熱量が伝わってきました。

万博では、ゲストサービスアテンダント以外にも、各パビリオンなどで独自にスタッフを雇用し、来場者をもてなすことになっています。現時点でも、万博関連スタッフの募集は続いています。

お辞儀で感動する体験も、お辞儀で感動させる体験も、人生で何度も体験するものではありません。万博協会幹部も、デジタル化の時代だからこそ、人と人との対面の重要性が増していると強調しています。接客において「カスタマーハラスメント(カスハラ)」のようなマイナス面もクローズアップされる現代だからこそ、日本流のきめ細やかなプロのおもてなしが、万博会場となる夢洲から世界に発信されることを期待します。(丸)