【安斎響市 短編集】転職エージェント佐々木の旅立ち
私の名は、佐々木。
32歳男性、独身(彼女募集中)。
大手転職エージェント「ヴァンパイアエージェント」に新卒入社して、もうかれこれ10年になる。
佐々木。ただの佐々木。
昨年は社内MVPを受賞した。
とは言っても、弊社のMVPは年間200人以上いるので、大した意味はない。
Twitterでは、「あの会社には、そこら中に社内MVPがいる」と噂されている。そりゃそうさ。MVPなんて、単なる名前なんだから。
そもそも言ったもん勝ちだから、実際にはMVPになってない奴まで「俺MVP」と言い出す始末。今では、「元リクルート事業責任者」「元キーエンスのトップ営業」などと並んで、胡散臭い経歴の代表格を占めている。
人材業界で生きる私たちだからこそ、強く強く認識しているのさ。
「何を言うか」よりも、「誰が言うか」だってこと。ビジネスの瀬戸際では、派手にハッタリかました奴が勝つってこと。
ある意味、賢いのさ。SNSで経歴をモリモリに盛って信者を集める奴らの、振り切った姿勢は。
リクルートと何の関係もないくせに「元リクルート」って嘘を言ってる奴も実際に結構いるし、Amazonの末端営業の使い捨ての兵隊として働いてるだけで「GAFAの真実」とか語ってみたり、トヨタの地方工場で6か月だけ組み立て工程の作業員やってただけなのに「大手勤務」とか言ってみたり…… なんて、SNSでは日常茶飯事だからな。
それが正しいとは思わない。それが良いことだとは思わないが、現実は往々にして醜くて汚い。それが、私たちが生きる世界だ。
頂戴したチップで「餃子とビール」を購入させていただき、今後の執筆活動に役立てたいと思います。安斎に一杯おごりたい方は、ぜひチップをお願いいたします。