『隠岐島にいったい何があるというんですか?』
村上春樹氏の『ラオスにいったい何があるというんですか?』という紀行文集を買った。きっかけは、ブックオフでのこと。
山羊さんから村上龍の『空港にて』という短編がおすすめだと聞き、ブックオフで探したところ奇跡的に『空港にて』が見つかり、その隣に『ラオスにいったい何があるというんですか?』を見つけた。
最近、友達がラオスに行ってて、『ラオス』という言葉に敏感になっていたのかもしれない。
手にとる。
ラオスの他にいろんな国のことが書かれている。実は私がいま1番行きたい国はフィンランド。少し期待して、フィンランドのことが書かれている章を探した。なんとあった!!即購入。
家に帰って別のページを開き、『ミコノス島』というギリシャの島のことが書かれている章を読む。なんとミコノス島は、ベストセラー小説『ノルウェイの森』を書き始めた場所。観光シーズンを終えた10月の半ば、寒くなり、曇りや雨の日が増える静かな時期に村上春樹氏は執筆をしたく、この場所を選んだそう。
この章も読み終え、私はモーーレツに旅に出たくなった。
とくに、『隠岐島(おきのしま)』へ旅に出たくなった。
なぜかというと、たった8ページのミコノス島の描写と、大好きな隠岐島の景色がけっこう重なったからだ。
海辺に広がる街並み。島民の接し方。季節によるの空気の流れ。調べてみると、ミコノス島と隠岐島の緯度は1度しか変わらない。だから空気の流れも似ていると思ったのか。
とにかく、私はどうもミコノス島が隠岐島を引き寄せてる気がして、Google マップを開いたり、インスタで隠岐島にあるゲストハウスをフォローしたりして、ふらふらとサーチしていた。
ついでにインスタのストーリーで、『ラオスにいったい何があるというんですか?』を撮影し、『モーーレツに島に行きたくなったわ〜』と文字を添えて投稿した。
すると、隠岐の島町にあるゲストハウス 『KUSUBURUHOUSE』の方から突然こんなDMが届いた。
そもそも内陸の国、ラオスに島があるの??????
が、率直な感想だったが、
いろいろと運命を感じ、
翌日にこのゲストハウスに遊びに行くことを決めた。
***
軽く隠岐島について説明。
隠岐島は隠岐群島とも呼ばれ、4つの島から構成されており、そのなかで、島前(どうぜん)と島後(どうご)に分けられている。
島前は「島前三島」と呼ばれる知夫里島(知夫村)、中ノ島(海士町)、西ノ島(西ノ島町)から構成される群島で、島後は1島(隠岐の島町)のみ。
私は島前には何度も足を運んでいるが、実は島後は行ったことがない。
『KUSUBURUHOUSE』は島後。なおさら運命を感じ、行きたいという衝動に駆られた。
***
そもそもなぜ島後に行ったことがなかったかというと、島前三島のほうが、見て周れる観光地が多いからだ。島後は面積が大きい割にこれといった場所がない。
『隠岐島(島後)にいったい何があるというんですか?』状態だった。
だけど村上春樹氏は言う。
私も、その何かを探すために、島後へ行くべきではないか。
***
島後に着いて軽くドライブし、港からたった2人しか乗客がいない静かなバスに乗り、不安になりながらもなんとか『KUSUBURUHOUSE』に到着。この日はたまたま関東から来られたアーティストがアコースティックライブを行ない、島民の方が10〜20人ほど集まっていた。島の子どもたちもいて終始賑やか。バーも開いており、しこたま酒が進む。
ライブが終わり、アーティストの方と、ヘルパーさん含めたKUSUBURUHOUSEの方と、30代くらいの近所の男性と、関西から移住された20代くらいのご夫婦と、私で、鍋パーティーを行なった。
お話しをしていくたびに、大学生だと思っていたヘルパーさんは高3の女の子と、高2の男の子だった。そして30代くらいだと思っていた近所の男性も実は高3だった。みんな、表情と喋り方があまりにも自然に大人の空気感に馴染んでいた。だけど仲良くなったころには『高校生だな〜』と思う表情が節々に見えて、ホッと胸を撫でた。
KUSUBURUHOUSEの方に、ラオスのことを聞いたり(本当にラオスに島があるらしい)、鍋パーティーが終わった後にみんなでゲームをしたり、同じ部屋で寝た高3のヘルパーの女の子と将来のこと、恋愛のことで、深夜に盛り上がったりした。
翌日、朝ご飯は美味しい豚汁を頂いたり、町内の祭りに行ったり、雑貨屋に行ったり、ゆっくりゆっくり散歩をしたりした。別れ際、お見送りしてくれたみんなとハグをして船に乗った。
この町は、のんびりした地方の中でもさらにのんびりしている。
日中は波の音が静かに響き、日が落ちるとしんと落ち着く。祭り会場の駐車場では、子どもたちがのびのびと走りまわり、男子高校生が自転車を二人乗りして駆け抜ける。
それらを見る大人のまなざしが優しい。
島民も、移住者も、私のような観光客も、全員がフラットに接する。
島前のような派手な観光地がないからこそ、島後は島民の暮らしがよく見える。不思議なことに、それらの景色がきらきらと心に濃く残っている。
『隠岐島(島後)にいったい何があるというんですか?』
村上春樹氏も、私も、明確な回答は出せていない。
だけど。
何もわからなかったこの町に私は心を震わされ、着実に好きになった。何度でも行きたいと思った。
ヘルパーの女の子が言っていた。
「あきひとさん(KUSUBURUHOUSEの方)が隠岐に移住して宿を開業した理由って、『ただ隠岐が好き』っていうシンプルな理由なんです。そんなシンプルさがとても好きで。」
確かにラオスにもフィンランドにもミコノス島にも行きたいが、島後にもまた行きたい。
何もなくても、ただ好きで、また行きたいというシンプルな理由だけで行くのも、旅のひとつではないだろうか。
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