【怒る人】
ぼくの人生でもこんなに怒って、こんなに魅力的な人に出会ったのは初めてだ。
その人とは埼玉の銭湯で出会った。
仕事を辞めて、東京の銭湯を回ろうという事で、回っていたところ、ある東京の銭湯で素敵な番頭さんとの出会いから始まった。
いつものように風呂に入って、僕も銭湯やりたいんですよと番頭さんに話すと、ぼくもやりたいんです。大学休学して銭湯修行してるんです。
突然の出会いだった。
その人は東京の有名な銭湯コミュニティに所属していて、魅力的な話をたくさんしてくれた。銭湯でぶち抜きたいと盛り上がって、次の日に、ある銭湯の番頭さんと知り合いなので飲みましょうということになった。
ぼくはその日のうちに帰る予定だったけど、変更して一泊して行くことにした。
次の日、目的の銭湯に着くと、彼はいなかったが、その番頭さんに出会えた。
よし、掃除するぞ!となり、掃除を教えてくれた。
大学の時に友人とカフェの仕込みをしていた時を思い出す。
好きな音楽をかけて、好きな人と話をしながら盛り上がる。
掃除に甘いところがあれば叱る。しっかり教える。
もうとにかく一瞬でこの空間が大好きになった。
その後、銭湯の裏でぼくの想いなども話しながら3時間くらい経った。
その人はその間とにかく怒ってた。
煽り運転事件、毎日の痴漢事件について、銭湯業界について…
とにかく怒りを力に変えていた。
怒っては吠え、こう変えてやる。と力強く訴えていた。
その時に、お前メシは食ったか?と聞かれ咄嗟にハイ!食べました!と返すと、
お前会社でパワハラ受けただろ?
と聞かれた。
嘘だ。なんで。どこでわかったんだ。
お前の返事の仕方でわかったよ。反応が速すぎる。
おれはそういう奴をぶっ飛ばすために鍛えてるんだよ。
そいつは下を潰して成長させない。抜かれるのをびびってる。おれは成長をやめない。絶対ぶち抜いてやる。
信頼した。ぼくはこの人を勝手に目標にした。
こんなに文面では怖い人なのに、周りのアルバイトの人たちは、この怒る人をいじって笑わせている。
目の前の光景が衝撃的だったけど、ぼくもつい最近までこの立場だった。
先輩だけど、いじられて笑いをとって、みんながぼくに質問にきていた。
忘れていた事を全て思い出させてくれた。
力強い言葉とパワーで性格が変わってしまったぼくを、より強い力で引き上げてくれた。
ぼくにはこんな怒る力はないけれど、みんなが働きやすい環境で、そこに人がたくさん集まってくる銭湯をやっぱり作りたいと思った。
いつか自分の銭湯をもって、もしかしたら銭湯という形じゃないかもしれないけれど、自分の空間で、自分の力でより多くの人の笑顔を作り出せたら、この怒る人にも恩返しをしたい。
死んでいたぼくを怒りでぶっ飛ばしてくれた。この怒る人が大好きだ。