仏教福祉 各論 3.ケースワーク
1、ケースワークの意味
ケースワークは社会福祉の実践技術のひとつであり、正式には『ソーシャル・ケースワーク』というが略して『ケースワーク』と呼ばれることが多い。『個別処遇』とか『個別社会事業』などと訳されることが多い。
ケースワークは福祉事務所や児童相談所をはじめとする福祉機関で用いられており、ケースワークを行う人を『ケースワーカー』という。ケースワーカーは生活上の問題を解決するために援助を求めている人(クライエント)を対象としている。
ケースワークは、常識的には自分の社会的機能に関わる問題を独力で解決できないでいる人に対して、その問題解決を援助する方法であり、過程と捉えることができる。ケースワークの定義としてリッチモンドのものをあげておく。
・リッチモンドの定義(1922)
『ソーシャル・ケースワークは人びととその社会環境全体との間に、個別に意識的にもたらされた調整を通じて、人格の発達をはかる初過程からなっている』(杉本一義訳)
2、ケースワークの沿革
慈善事業による貧困者の救済は古くから行われていたが、のちにケースワークにつながって行く重要な契機になったのはイギリスの慈善組織組合(略してCOS)の活動とされている。COS以降のケースワークの沿革については大きく4つに分けられる。
⑴ケースワーク前史(1870〜1890)
最初のCOSは1869年ロンドンに設立された民間団体で、2つの大きな機能を持っていた。1つは地区ごとの調査委員にその地区内の調査を依頼し結果を登録すること。2つめは地区内の慈善事業活動の連絡調整をはかることである。このうち前者がケースワークに発展したと言われている。
⑵基礎確立の時期(1890〜1920頃)
慈善的、主観的態度から科学的、客観的処遇へと変容していく時にあたる。リッチモンドによって代表される当時のケースワークの傾向は、クライエントの問題原因の糾明を個人をめぐる社会的要因に求め、ケースワークの過程を個人が社会環境の中に結ぶ社会関係としてとらえようとするものである。
⑶発展の時期(1920〜1950頃)
1920年前後から精神分析学の影響を受けた。1930年以降には力動的精神医学とケースワークが結びつきを強め、フロイトの流れをくむ精神分析学を拠り所とする診断主義のケースワークが主流をなすようになった。
⑷統合期(1950以降)
①ケースワークの心理的、精神分析的偏向に対する反省と、社会環境条件の強化ということを忘れがちなケースワークに対する批判。
②診断主義ケースワークと機能主義ケースワークとを統合しようとする試み
③ケースワークの効果を科学的に測定しようとする試み。科学的な検討への試みである。
④家族診断ないしは家族中心のケースワークの台頭
⑤加えていわゆる『個人のニーズに合わせた処遇』をあげることができる。