泣ける話 普通じゃない自分を呪っていた1
普通じゃない。僕は普通じゃないんだ。
僕は他の人と同じように普通にすることが出来ないんだ。
こう思うには理由があった。今朝も上司から怒られた。他人と違う行動をするから、僕のことを信用出来ないと。
「あのさ、こうするのが普通だろ。それが分かんないの?ずっと思ってたんだけどさ、お前って普通じゃないよな?普通にすることが出来ないの?簡単なことじゃん。何も特別なことをしろって言っているんじゃないんだそ。ただ他の人と同じようにしろって言ってるんだ。ただそれだけだぞ、こんなことも出来ないんだったら、お前に何を任せたら良いんだよ。」
そんなことを延々と言われた。僕は恥ずかしくて下を向くことしか出来なかった。みんなの前で言われて、みんながこちらを向いてクスクス笑っているのを堪えることしか出来なかった。
僕はこの場から逃げ出したかった。独りになりたかった。
その時につくづく思った。僕は普通じゃないんだ、他の人と同じように普通にすることが出来ないんだ。
みっともない自分・・・、その自分に誰も声を掛けることはなかった。
その日の夕方、僕はその会社を辞めることを告げた。
僕はもうこの会社にはいられない、いや・・・いてはいけない人間なんだと思ったから。
僕の将来の不安はあったけど、それ以上にここにいてはみんなに迷惑がかかる、みんなもここにはいて欲しくないと思ったから。
「そうか、分かった。」
そう上司は言っただけ、でもその目はものすごく喜んでいたのは僕ですら分かった。
今はもう帰宅の最中。空を見上げれば夕日が沈んでいくところ。
まるで夕日が僕を慰めてくれるように暖かくも明るく照らしてくれる。
でも本心までは届かないんだ。
これで良かったのかな。それが僕の本音。
辞めたことは良いけど、これからどうする。そう繰り返し考えている。
何も持ってない自分に、誰がこっちへ来いよって誘ってくれるんだ。
このままどこか遠くへ行ってしまいたいな。誰もいない場所、誰も僕を攻撃してこない場所で過ごしたい。
でもどこに行ってもそんな場所に辿り着けそうもない。
公園にベンチがある。あそこで少し休もうか。
もう歩くことにも考えることにも疲れた。
ベンチで休んでいるといつの間にか犬が横に座っている。
「なんだ、お前も独りなのか?」
犬は何も答えず、尻尾を振っている。
「俺も独りなんだ。みんなと同じように出来ない。だからどこに行っても追い出されるんだ。あっち行けって追い出されるんだ。」
帰ったらなんて言おう。両親は夕食を作って待っているんだろうな。
また明日も仕事だと思っているだろうな。
そんな両親に俺はなんて言えば良いんだろう。なんも言葉が思い浮かばないや。
犬がこっちを見ている。
「どうした?」
そうやって聞いてみると、犬は僕のほっぺをペロペロと舐めだした。