他人の価値観ではなく自分の気持ちを大事にして

「やっぱり大企業の方が良かったのよな。就職する前は自分のやりたい分野の仕事だからって今の職場を選んだけど、将来の安定のことを考えたら大企業に入っていれば良かったな。せっかく新卒のときに大企業にも内定もらってたのにさ。」

「なんで?今の仕事内容って自分がやりたかったことなんでしょ?」

「そうだけどさ、給料も大企業とは全然違うし、介護だから転職先はいっぱいあるけど、生活の安定って意味では全然違う分野だけど大企業の方があるしさ。」

新卒のときは親に言われたから、大企業の求人にも挑戦した。その企業が考えている人材をひたすらイメージして、求めている人材像に関連することを過去から掘り下げて紐付ける。そんなことをひたすらやっていた。
面接に進むとどんな質問がきても良いように、事前の準備を人の何倍とした。
自分には自信がなかったからこそそうしないと受からないと思って必死にやった。
それが功を奏したのか、受けた大企業の中の1社から内定をもらった。

でも本当にやりたかった介護の仕事と天秤にかけた時に、僕は初めて両親の意向に逆らい、介護の仕事を選んだ。それはやりたいことを仕事にしたいとずっと思っていたから。

両親はすごく反対したけど、毎日両親と話し合う中で最後は根負けしたように僕の言う事を聞いてくれた。


でもそれがいざ5年経ち、10年経った今、給料と言う面でははっきり言って新卒の頃とほとんど変わらない。
安定という面ではいつ腰痛が悪化するかの不安を考えたら、大企業に行っている方がどれだけ良かったか、後悔している面が本音を言えばある。

「でも大企業に行ってもブラックだったってことも当然あるよ。前に話してくれた会社もよくよく調べればブラックだったじゃない。たぶん離職率も高いと思うよ。」

「確かに。」

「もしあの会社に行くことを選んでいたら、その1年後にはメンタル壊れていたかもしれない。確かに給料という面では一般的に考えて大企業の方が圧倒的に高いと思うけど、今でも介護の仕事が嫌いじゃないんでしょ?」

「うん、仕事内容自体は嫌いじゃないし、むしろやりがいを感じているよ。腰痛の面ではいつ自分も抱えてしまうかって不安もあるけど、ブラック企業のように自分を追い詰めるぐらいメンタルがやられるってことはないな。」

「まあ確かに生きていく上で給料とか経済的な余裕も必要だと思うけど、一番大事にして欲しいのは仕事をしての幸福度なんだよね。私も働いているから2人で働いていけばなんとかなるじゃない。」

「でもな・・・、どうも将来に対して不安なんだよな。」

彼女も同じ介護業界の人、結婚を考えているけど、彼女がいざ子供でも出来たら当分は僕1人の給料になるだろう。そうすると今のままで生きていけるか。まだ確定もしていない未来を想像しては不安になる。

「それはあなたが私との生活を真剣に考えてくれてるからだね。ありがとう。だったら2人で副業をしてみない?私去年ぐらいからしてみたかったの副業って。」

「副業か、でも何を元にしていけば良いんだろうか?僕は何も持ってないからな。」

「私ね、Youtubeで介護職夫婦のありふれた日常とかそんなチャンネル名で発信していけないかなって思ってるの。他の業界の人からしたら、身近に介護職の人がいないかもしれないし、なんか他の業界ってどうしているんだろうって気になったりするじゃない。」

「よしじゃあやってみるか。何もしないまま不安を感じているよりはずっと良い。もしかしたら伸びるかもしれないし。」

「まあ失敗しても誰も困らないんだから。それでダメだったらまた考えれば良いじゃない。何度だって挑戦すれば良いんだから。」

「そうだね。」

僕はこの人の前向きな姿勢を好きになって一緒になったんだ。この人と一緒ならやっていける。

いかがだったでしょうか。最初は他人の尺度に縛られていたところから、自分の生活をより楽しくする為にパートナーとともに一歩踏み出していくストーリー。気に入って頂けると幸いです。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
小説家の藪田建治でした。

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