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【模型】暴走族のバイクを作るのは思ったよりも奥が深かった ~アオシマ 1/12 ホークⅡ族仕様~
プラモデルを作るのは楽しい作業だが、ジャンルが違うと楽しみ方も違うもので、例えば戦車模型を作る人ならばかなり史実を調べ上げ、考証に間違いがないことを担保することにかなりの労力を使うようだ。
そのために、インターネットが調べごとに便利に使えるようになるまでは資料を入手することに使う金額が肝心のキット代を上回るというような時代もあったと聞く。
また艦船模型も同様で、だいたいが実物が存在するかかつて存在したものが模型の対象である以上、可能な限りこれを再現することが模型の目的となり、艦船の場合だと昭和XX年大改装時とかいうようにどの時点を再現したものかということも厳密には問われるようだ。
ごくまれに、私の友人の場合戦艦大和を武装解除して日本郵船仕様で塗装しようなんていう人もいて、これは「鉄砲や大砲が付いたもの」が家の中にあることに我慢がならない奥様向けのやむを得ない対応だそうで、武装がないのでこれは民間のフネだというエクスキューズなのだそうだが、まあ日本国内で数名いるかどうかだと思う。
そのようにスケールモデルは実物の再現ということが本義のひとつであるので、あまり自由に色を塗るとかいうことは一般的ではないといえる。
一方でガンプラなどのアニメモデルもテレビ放送での色指定に合わせるとかいろいろあるらしいので、案外自由ではないようだ。
色の指定が分からなければ色が塗れない。
色が塗れない以上は何とかして調べなければならない。
なのでプラモを作るという作業が全然進まない。
俺がやりたい模型という趣味はそうじゃないんだ、俺は模型が「つくりたい」んだ。
というようにもっと模型に対してフリーダムになれるジャンルはないものかとおもっていたらあった。
最近ではとんと見かけなくなったが、このキットを作った2008年当時はまだ模型屋の棚の奥深くに埃をかぶってそれらはひっそりと残っていたのだ。
※以下2008年9月13日のmixiより転載加筆を行ったもの
最近は珍走団とも称するらしいということをほんの先日知ったのだが、要するに暴走族である。
もっともわが郷土福井県の場合、同じイナカでもチバラギ県のようにキアイの入ったビッとした土地ではないのでマルソウの連中も穏やかなのか、私自身あまりキアイの入った暴走行為を見かけたことはなく、むしろ蛇行運転などで徐行して走るのがほとんどであったので、暴走という名称はあまり似つかわしくないと思っていた。
さて、世間では暴走族といえば極道を目指す青少年の第一過程のようなものだと認識されていて、事実そうであろう。
大体において頭の悪い連中であるという見方もまちがってはいないであろう
しかし、世間では時に暴走族上がりであることが人生にプラスになっている人がいるということもどうやら事実であるようで、ドラマ「ドラゴン桜」を引き合いに出すまでもなく、世間の目はゾク上がりであることに対して9割は履歴の汚点とみなしながらも、すくなくとも1割は何がしかの評価を与える目があることは否定できない。
ではゾクの連中とはどういう奴らなのだろうか。
この手の世界については少年マガジンなどのマンガではピカレスク(悪漢賛美)的作品が豊富であるから参考資料には事欠かないが、あくまで中立的スタンスから暴走族の本質についてその長所を挙げるならば、ヘタな野球部などよりもはるかに厳しい体育会系的世界であること、内容はどうであれ自主的に決められた規則を自主的に遵守していること、バカバカしいくらい単純であるがゆえに義侠心なるものがすくなくとも一般的通念としてその世界で通用していることが挙げられよう。
無論その存在の反社会性については否定のしようがないのだが、さりとて、「XXを美化するのはいかん」というPTA的発想は人間の思索をひどく制限するのであり、どんなものであれ参考に値する価値というものは認めなくてはならない。
やろうと思えば中国共産党やしんぶん赤旗からだって、人生の糧をわずかではあるが得ることはできるのであり、他山の石というのはそういうことである。
さて、旧車会というものの存在も最近はじめて知った。
旧車というのは古い車のことではない。
要するに、ゾクの改造バイクといった、「そういう」スタイルのバイクを愛好する大人の団体のことである。
なんでも、バイクやそのスタイルはズバリ暴走族そのものだが、暴走行為は一切行なわず、わけのわからんナリをしているバイクも実は車検が通るものであり、つまり「何かを愛好する」という大人の団体である点は日本野鳥の会などとおなじであり、暴走族とは一線を劃している存在というべきか。
40にもなったおやじがこういうバイクに乗るのは傍から見てどうかといえばどうかだが、一定の人口がこれに参与している以上、何らかの価値と魅力をもったものであることは認めざるを得ないだろう。
要するに、かつて暴走族であったひとびとのOB会みたいなものであるが、一定の分別を(多分)持った大人が敢えて行なう以上、その世界観は分かる人にとっては魅力を含んだものであるに違いなく、これは上述の無理矢理搾り取るようにして抽出した暴走族の長所と無関係ではあるまいと思う。
まあ、昔は暴走族上がりがヤンチャな大人になったものだが、最近ではヤンチャな大人が暴走族になるというわけで、どうも順番が逆転しているのかもしれない。
ともかくも今回ゾクのバイクを作ることによって、そういうことをいろいろと考えさせられた。
なにも35歳にもなってデビューしようなどとフラチなことをたくらんでいるわけではない。
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盆に帰国した際、例によっていろいろプラモを仕入れてきたのだが、なじみのオーカワ模型に訪れたとき、どういうわけか無性にゾクのバイクが作りたくなった。
なぜだかよくわからんが、そういう衝動に駆られたのだから仕方ない。
多分、矢沢栄吉が突然聞きたくなるような衝動とたぶん同種のものであるに違いない。
そういうわけでオーカワ模型のおばさんに「暴走族のバイクんたなのないですか」と聞くと、なんでもゾクバイクのキットは確かに昔からアオシマなどから出ているのだが、最近はゾクバイクのキットを置いておくと嫌がるお客さんがいるとのことで、あまり置かないようにしているのだとのことだ。
そういいながら奥の物置から引っ張り出してきてくれたのがこいつであった。
そんなわけで暴走族のバイクを作るわけだが、私はこう見えても不良であった時期がないので具体的なゾクの世界観がよく分からない。
また、キットも業界一アバウトなアオシマ製であるので、説明書だけでは分からない部分がきっとあるに違いない。
そういうわけであるので参考資料が必要だ。
なおイマドキのスケールモデルは資料を揃えることがごく当たり前のことになっているので、たとえワークがゾクバイクであってもこれは必要だ。
そういうわけで市内の勝木書店で買ってきたのが「チャンプロード」である。
出版元は笠倉出版社、聞いたことがない出版社だ。
いわゆる実話系週刊誌が「ニュートン」だとすれば、こいつはさしずめ「子供の科学」といったところか。
こいつを片手に模型に着手していたのだが、その合間合間に読みふけるにつれ、その独特の世界観に実に目が覚める思いがした。
断っておくが、なにもヤンキーの世界に目覚めたわけではない。
いうなれば、高校生の頃にSMスナイパーを立ち読みして、これまでまったく知ることがなかった世界の存在に大いに驚いたのとおなじようなものだ。
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まず模型の資料として有効なのが、豊富なゾクパーツの広告だろう。
ドイツ軍の戦車をキアイ入れて作る人などは大日本絵画の「ジャーマン・タンクス」など数千円もする高価な資料を買ってきては不鮮明な白黒写真などから模型の資料的なものを読み取るようだが、チャンプロードの場合鮮明なカラー写真であるだけでなくその名称や単価までがでており、資料的価値は実に高い。
さらに値段はたったの530円であるのでコストパフォーマンスにもたいへん優れているといえよう。
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さらに参考になるのがこれら読者のバイクのグラビヤである。
前述のパーツ群が実際にどのように使用されているか、またその位置やカラーなど、実に資料製が高い。
なおここに出ているのは暴走族ではなく旧車会の方々で、いい年こいたおっさんが臆面もなく突拍子もない愛車にまたがって写真に写っているのだが、別に顔に目線を入れるわけでもなく、堂々としたものだ。
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チャンプロードというのは改造バイクの雑誌であるが、その本質はヤンキーのコミュニティ誌のようなものだ。
どの世界にもいわゆるカリスマ的存在という人がいるもので、チャンプロードを読んでいると「岩橋健一郎」というひとがやたらに出てくる。
そのプロフィールも興味深いもので、なんでもヤンキー界の重鎮であるとのこと、この重鎮をもじって「獣珍JU-CHIN」なるブランドを持っているというから世の中にはいろんな世界があるものだと感心させられる。
氏は暴走族を20年にわたって追い続けているジャーナリストで、いわばヤンキー界の吉祥寺怪人みたいなものか。
丸い頭がどことなくユーモラスでかわいらしい。
えらくコワモテだが、一緒にめしを食ったら結構たのしいのではないかとなんとなく思った。
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チャンプロードには現役の暴走族の幹部クラスや少年院上がりの元ヤンキーなどへの対談記事がけっこう多いのだが、普通の対談記事ともっともことなるのが「インタビューする奴のほうが態度がでかい」ということだ。
なるほど上下関係がひどく厳しい世界であることがよくわかる。
なんせインタビュワーの口の利き方が完全に目上から目下に対する物言いである。
これはちょっと新鮮だ。
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読者のページというものはあらゆるジャンルの雑誌にもれなくついているもので、モデル・グラフィックスにだってちゃんとあるのだが、チャンプロードといえども読者のためのページが実に豊富だ。
ただ、ここに寄せられる読者の声というのがなかなかに目を覚めさせるようなものが多いだけに実に興味深い。
男女の痴話喧嘩などの相談が寄せられるあたりは「くらしの手帳」などと同じで、単にチャンプロードの場合は投稿者の女性が顔面ボコボコになるくらい相手の男に殴られるといった程度の違いがあるくらいだ。
ほかにも「ママ友達がほしい」などの子育てに関する相談が意外にも多く、やっぱり「くらしの手帳」のヤンキー版といったところだ。
なお私が感心したのは、同じく寄せられた相談の中に「障害者自立支援法」(投稿者は知的障害者)に関したものがあり、長文の投稿をちゃんと掲載しているだけでなく、これに対して同じく障害児をもつ編集者がきちんと、かつキレイごと抜きで回答しているという部分があったことだ。
ヤンキーとはどうやらうわべだけのキレイごとを言わない世界であるようで、これについては私もまったくの同感、この部分があったせいで私のヤンキーに対するイメージがひどく変わってしまった。
他にも、街の刺青師の紹介や(なお読者投稿欄に自分の刺青の写真を送る場合はちゃんと彫師の許可を得てからという編集部の断わりがあるあたりもさすがだ)現役暴走族を実名で記事にしているなど反社会性が高い記事も実に豊富である。
また、この種の雑誌にはつきものともいえる包茎手術やわけのわからん開運アイテムの広告などは、どうもほかの雑誌に見られる同種の広告よりもボルテージが高いような気がする。
ともかくも、世間とは別にこういう世界もあるのかということで、あらゆる意味で刺激的な雑誌だ。
530円にしては大変に盛りだくさんな内容で、ヘタなマンガなぞよりはるかに濃厚である。
別にヤンキーでなくとも「娯楽」として楽しむ分には十分に楽しい雑誌であり、少なくとも道徳の教科書やしんぶん赤旗なんぞよりは人生にとって糧になる部分が多いような気がするのである。
そういうものを読みふけりながらこの2週間あまりゾクのバイクを作っていたのだ。
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そんなわけで完成したものがこちら
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どっからみてもカタギのバイクではない。
なんというか、机の上に飾っておいたらヘタな御札よりも魔よけ効果が高いかもしれない。
以下、ゾクバイクとしてこだわった部分を紹介したい。
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よく街道筋からパヒラパヒラ!と聞こえてくるのはこいつである。
この高級バージョンには5連のものもあり、5連になると曲ができる。
よく「チャラリラリラリラレロレラー」などとゴッドファーザーのテーマのなりそこないのように聞こえてくるのはこいつの高級バージョンである。
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どういうわけでロケットカウルという名前なのかは分からないが、とにかくロケットカウルである。
ゾクパーツの名称には語源不明なものや直截的すぎて笑いが止まらんネーミングのものが多い。
なおロケットカウル側面についている四角いウィンカーはローレルウィンカーという。
語源は、もと日産のローレルについていたからで、なんでもロケットカウルには必需品だとチャンプロードの広告にはかかれていた。
またライトのひさしの部分はピヨピヨバイザーというそうで、こうなると語源がなんだか気にするのもあほらしくなる。
ちなみに原付用のこいつの小さい奴はミニピヨというんだそうだ。
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エンジンから排出される排気ガスは通常であれば排気管の先についているマフラーで有毒成分を一部取り除き、騒音を軽減してから外に出るようになっているが、こいつはそのマフラーの部分がない。
ゾクのバイクがやかましいのはこのせいである。
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模型コミュではいろんな人のアドバイスを頂いたが、その中でももっとも新鮮だったのが「つり革をつけよ」というものだった。
何じゃッてか?てなもんだが、ずばり電車やバスについているつり革である。
なんでもこいつを使ってかなりムチャな姿勢でバイクに乗るんだそうで、ほんとけやと思って参考資料を精査したら、読者のバイクにもちゃんとこれがついていたのでなるほどと思った。
このパーツはキットにはなかったのでエポキシパテで自作したが、なかなかいい感じで再現でき、個人的には一番気に入っている。
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背もたれが直立したシートもゾクバイクならではの記号のひとつである。
おもいっきりフン反りかえったら走行中にバキっと折れたりしないのかと心配になってしまうが、実際のところはどうなのだろう。
ともかく後ろから足を回してまたぐことができないので、足が短いとバイクにまたがるのもなかなか大変そうだ。
後ろに貼ってあるステッカーは上述の旧車会のもので、暴走族ではありませんよというところにアオシマ(キットのメーカー)の逃げが垣間見える。
デカールの自作ができないので今回はキットのデカールをそのまま使ったが、もし自作できるなら「広東狂走連合」みたいなステッカーを作って張っていただろう。
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チャンプロードの広告を眺めていたら、ゾクパーツの中にジャンケンミラーというふざけたパーツがあるのを見つけた。
キットのミラーパーツは通常の丸いものだったので、さっそくエポキシパテで改造してみた。
おかげでなんとも大バカなフォルムになったものだ。
なお、こいつの足の裏バージョンで「あんよミラー」というのもあるそうだが、なかなかゾクの世界もいろんな意味でクリエイティヴなものだと感心させられる。
というわけで、ゾクのバイクができた
たまにはこういうものを手がけてみるのも悪くない
やはり自分の承知の世界だけではものの見方が狭くなるというもので、時には突拍子もなく未知の分野を除いてみるのもいいものだ
ことわっておくが、35歳にもなって旧車会デビューしようというわけではない
2023年3月3日加筆
ほんの先日私はちょうど50歳になったのだが、これを作ったのが35歳の時ということは今から15年も前であることにちょっと驚きを感じる。
昔でいう不良のバイクという奴はある意味徹底的にフリーダムで、それこそ自分の好きなように作り好きな色で塗ればいいのだけれども、それでもその世界における法則や流行というものはあるもので、そういう世界を知らないで適当に作ったものはしょせん「暴走族風のバイク」であって「暴走族のバイク」ではない。
幸いというか、当時mixiの模型のコミュニティでこれの製作をリアルタイムで投稿していてなかなかの反応があり、やけに詳しい方々から恐ろしく正確なアドバイスなどを頂き、完成に至った次第だ。
世の中はいろんな色をしているもんだとつくづく思い知ったのだが、自由に作るといってもでたらめに作るということとは違う。
模型というものは本来現物があるものを一定の縮尺で縮めた造形物をさすが、リアルであるかどうかはそういうことをちゃんと踏まえているかどうかが重要だと思っている。
それでも族のバイクを作るのは自由度が高くて実に楽しかった。
なお参考資料のチャンプロードは現在残念ながら廃刊となってしまい、現役及びOBヤンキーのみならず警察や一部の社会学者から一定数の購買量があったとされる伝説の雑誌も今は存在しない。
これはヤンキーという人種が間もなく絶滅するということなんだろうか。
そういえば「不良」という言葉はよくない品質を表現する以外に聞かなくなったが、世の中はどんどん変わっていって、諸行無常ということを一層考えさせられる。