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GWの岸田首相の外交攻勢から、世界情勢を分かりやすく読み解いてみる
まるで外交に関心がないかのように思えた岸田首相だが、夢から目が覚めたかのように、急に外交において活発になっている。
4月18日 日・スイス首脳会談
4月21日 日・ニュージーランド首脳会談
4月24日 韓国代表団表敬面談
4月28日 日独首脳会談
4月29日~ 東南アジア・欧州5か国歴訪へ、岸防衛大臣は訪米・林外務大臣は中央アジア歴訪
世界の大きな流れを分かりやすくまとめながら、それぞれの狙いを考察していきたいと思う。
まずこれまでの世界情勢を分かりやすく、ザックリまとめてみる
大まかな世界情勢の流れが分からなければ、これら外交の真の狙いも分からないので、まずは私が理解しているところの世界の潮流をごく簡潔にまとめてみる。
まずはウクライナ戦争以前の状況をおさらいしてみよう。
①米中新冷戦が進行中。
②日本は日米豪印(クアッド)を軸に、自由で開かれたインド太平洋構想を推進中。
これは、今までの記事においても何度も取り上げてきた通りである。この流れを土台にしなければ、世界の動きはなかなか分からない。
米中新冷戦の枠組みの中で、アメリカチーム(民主主義陣営:青組)と、中国チーム(権威主義陣営:赤組)が様々な領域において、陣取り合戦をしていたということである。
ここに、大きなかく乱要因が現れた。
それが、③ロシアによるウクライナ侵攻である。
この①②③をしっかり理解したうえで、岸田首相のそれぞれの外交日程を順に見ていこう。
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4月18日 日・スイス首脳会談
一連の日程のなかで、最も目的が分かりにくい首脳会談である。
「ウクライナ情勢で連携を確認するため」
というのはそうなのだが、それならば電話会談でも良いわけで、なぜわざわざスイス大統領が日本にまでやってきたか、ということを考察しないと、世界情勢の本当のところはなかなか分からない。
スイスは永世中立国で、対露制裁に参加しているとはいえ紛争の当事者ではないから、③はあくまで建前であることは明らかだ。
その本当の目的は何か・・・と思ってネット情報を調べてみても、さっぱり分からない。報道各社って外務省の公式発表を伝えるだけで、独自取材ってしないんだな~と暗澹たる気持ちになっていたら、ありました。
カシス大統領が訪日、科学と研究での関係強化に期待(ジェトロ)
カシス大統領は20日には、在大阪スイス領事館内で開催されたスイスネックスのオープニングセレモニーに出席した。スイスネックスはスイス連邦外務省と連邦教育研究イノベーション庁を母体とする公的機関で、イノベーション、教育、研究の分野でスイスと各国を結ぶネットワークとして機能している。これまでサンフランシスコ、ボストン、上海、バンガロール、リオデジャネイロに拠点があり、各国への進出を目指すスイスのスタートアップを支援してきた。今回、日本初の拠点が在大阪スイス領事館内に設立された。これにより、スタートアップの日本進出支援体制が強化されることとなる。
カシス大統領は2025年に開催予定の大阪・関西万博主催者とも面会した。スイスは同万博にライフサイエンス、環境保護、人工知能をテーマとしたパビリオンを出展する予定だ。また、2月に大阪で開催された国際スタートアップアワードでは、ゼロエミッションの水中翼船を開発するスイスのモビリティースタートアップ社が大阪・関西万博/ジェトロ大阪本部賞を受賞しており、同オープニングセレモニーでも紹介された。
おお・・・こういう記事もあった。
日・スイス国間の貿易額は年間約120億フラン(約1兆6千億円)に上り、スイスにとって日本はアジアで中国に次ぐ第2の貿易相手国(貴金属を除く)だ。2009年から自由貿易協定(FTA)を結んでいる。カシス氏はスイスの立場からFTAの近代化が望ましいとの主張を繰り返した。
研究協力を巡っても日本はスイスの重要なパートナー国だ。共に2023~24年の国連安全保障理事会の非常任理事国に立候補している。
カシス氏は大阪や京都も訪問する。大阪はスイスの教育、研究、革新のネットワークとして機能するスイスネックスが拠点を置き、2025年の大阪万国博覧会にはスイスも出展予定だ。京都では科学協力に重点を置く。財界・科学界の代表団も同行している。
これらが本命の狙いである。特に興味深いのは2点。
・大阪にスイスの教育・研究・イノベーションのネットワーク組織があり、スイスからのビジネスの窓口にしようという動きがある。
・2023年~24年の国連安全保障理事会の非常任理事国に、スイス、日本ともに立候補している。
特に下の方が重要である。日本は今、国連常任理事国入りも目指して、国連改革を目指している(はず)。そのあたりの連携を、スイスとともに行いたかったのではないだろうか。国連改革は米中新冷戦におけるチーム分けとも大きく関連している。
4月21日 日・ニュージーランド首脳会談
スイス大統領に次いで、岸田さんはニュージーランド首相と会談を行った。この首脳会談の目的は、スイスよりもずっと分かりやすい。
自由で開かれたインド太平洋構想の推進において、太平洋諸国の当事者でもあるニュージーランドとの連携を深めるとともに、ファイブ・アイズ(アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドからなる機密情報共有ネットワーク)入りを目指しての動きでもあるといえるだろう。
対ロシアで連携とかの記事ばかりで、こういったことに触れている記事は少なかったが、日テレニュースで取り扱われていた。
”情報保護協定”交渉開始で合意。
これが重要。こういうことを報じるマスコミが少ないのは本当に問題・・・というか、マスコミにも世界情勢の大きな潮流が見えている人が少ないのだろう・・・
4月24日 韓国代表団表敬面談
韓国の次期大統領、尹錫悦(ユン・ソンニョル)さんの特使と岸田首相が面会したという「問題の外交」である。
ユンさんはまだ大統領ではないし、その特使というと現時点では政府関係者でも何でもない「一般人」である。それにわざわざ総理大臣が面会するというのは如何なものか。
ただ、善意に解釈すれば、対中を意識して、大統領が変わったタイミングでがっちりと韓国を「青組」に入れたいという戦略的な動きだったのかも知れないが(買い被りすぎかもしれないが・・・)、それにしても大統領就任後に日本においでくださいと使者を通して伝えるだけで良い気もする。
一連の外交日程のなかで、失敗の部類に入る。
4月28日 日独首脳会談
これはけっこう大きな意義のある会談である。
メルケルさんは明確に中国びいきだった。そのドイツが中国と距離を置くという、大きなメッセージ性を秘めたものである。
ショルツ首相は21年12月の就任後、初めてのアジアの訪問先に日本を選んだ。
2+2の開催も決まり、日独の連携は今後深まっていくだろう。ドイツは日本に次ぐGDP4位の経済大国であり、EUの実質上の盟主であることから、日本とドイツの連携は大きな意義を持つこととなる。まして、ドイツは2022年G7の議長国である。
ここまでどうだろうか?③ロシアによるウクライナ侵攻に対する連携は当然するのだけれども、根っこのところでは
①米中新冷戦が進行中
②日本は日米豪印(クアッド)を軸に、自由で開かれたインド太平洋構想を推進中
という流れがうっすらとあることがご確認いただけるのではないかと思う。ここから続いて、岸田首相のGWの外遊先を見ていこう。
ASEAN諸国の地政学的重要性
岸田首相の今回の外遊先を見ていく前に、ASEAN諸国の地政学的重要性というものについて、簡単にまとめておきたい。
①東南アジアは次の時代の成長センターである(市場が拡大していく)
②東南アジアは、日本のシーレーン(石油を輸入する経路)において重要である
①の理由から、世界が地味に注目している地域であり、②の理由から日本にとっては特に重要な地域である。だから、日本は自由で開かれたインド太平洋構想を推進し、TPPも推し進めているのである。
一方で、中国にとって東南アジアは裏庭であり、やはり無視しえない重要な地域である。
これらの要因から、東南アジアは日本VS中国の陣取り合戦のさ中にあるのである。米中新冷戦におけるアジア予選のようなものが、まさに外交戦として繰り広げられているのである(と筆者は勝手に理解している)。
岸田総理の外遊先:インドネシア、ベトナム、タイ、イタリア、イギリス
ここまでの流れを理解したうえで、岸田さんの外遊先を見てみると、「おっ、岸田案外やるじゃん」という印象になるのではないだろうか。
インドネシアは東南アジアで最も人口が多く、日本ーオーストラリアの中間に位置することから、鍵になる国であるが、親日と親中の間で揺れ動く不安定な国である。
インドネシアを青組に引き入れることができれば、東南アジア陣取り合戦は大きく一歩リードすることになるが、インドネシアもどうして、日本の新幹線受注を反故にしたり油断のならない国である。
それでも、岸田さんが訪れてジョコ大統領と対面で話すことには意味がある。特に、インドネシアは今年のG20議長国でもある。
そして、ベトナム、タイは、それぞれ色々問題はあれどどちらかと言えば「青組」に属する方であるため連携を確認するには良い訪問だと思う。
今回の外遊の最後にイギリスが予定されているが、イギリスは21世紀の日本が繁栄を目指すうえで極めて重要な国だと思っているので、イギリスについてはまた後日取り上げたいと思う。
ということで、頼りなくて一体何がやりたいのか分からなかった岸田さん、安倍・菅で継承してきた「自由で開かれたインド太平洋構想」という言葉も最近まであまり口にすることがなく、大いに不安がある総理大臣だった。
しかし、今回、自由で開かれたインド太平洋構想を推進するという意図が明確に現れた外遊日程を見るにあたり、少し安心したというのが正直なところである。評価するべきは評価しておきたい。
「同盟のある国は栄え、同盟のない国は亡びる」
戦史研究家でもあるアメリカのマティス元国防長官の言葉である。これを念頭においた外交の継続を、期待したい。
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(画像は写真ACから引用しています)