ジョンソン首相のグローバル・ブリテン戦略:イギリスは世界に回帰する?
唐突であるが、私はイギリスのボリス・ジョンソン首相が好きだ。
このお茶目な動画を見るとほっこりするし、日本の政治家にもこういうユーモアがあっていいのではと思う。
岸田首相との初会談時、福島県産のかりんとうを手に握りしめていたところなんて、サービス精神満点だ。
いつも髪の毛ボサボサで、イギリスのエスタブリッシュメントらしからぬ気取らなさもいい。
本日の記事では、私自身の印象の変化とともに、ジョンソン首相のこれまでの足跡をたどってみたいと思う。ジョンソン首相に全く興味がない人も、この記事を読めばきっとジョンソンさんが好きになるだろう 笑
ジョンソン首相の足跡をたどる
嫌い
正直なところ、はじめはジョンソンさんが嫌いだった。イギリスのトランプと呼ばれ、過激な言動でイギリスのEU離脱(ブレグジット)を煽っていたころである。
国民投票でEU離脱が決まったあと、結局首相になったのはメイさんだった。ジョンソンさんは煽るだけ煽って、いざとなると面倒なことから逃げたと思っていた。メイさんは、もともとイギリスのEU離脱に反対であったが、国民投票でEU離脱が決まってしまってからはその実現に奔走していたと思う。
そのメイさんがブレグジットの実行段階において政権を維持することができなくなり、代わりに首相になったのがジョンソンさんである。
ジョンソンには無理だろう。
逃げたイメージが強かったため、はじめはそのように思っていた。しかし、メイ政権が倒れてしまったEU離脱という一大政治イシューを、あれよあれよという間に実現させてしまったころから、「あれあれ?ジョンソンって結構やる??」と思い始めた。
私のジョンソンに対する評価が定まったのは、イギリスにおける新型コロナ対策であった。
嫌い→好き
当初、ジョンソン首相は新型コロナに対して「集団免疫を達成する」というノーガード戦法でいった。
けれども、それは大失敗し、自身もコロナにかかって生死の境をさ迷った。
ジョンソンは失敗を改め、コロナ規制をはじめた。そして、ワクチンもいち早くイギリス国内に広め、コロナの弱毒化に伴い矢継ぎ早に規制を解除していった。
君子は豹変す、というが、失敗はあっても柔軟に方針を変えていく政治手法は見事だと思った。
好き
そして、ジョンソンに対する評価を決定づけたのは、ブレグジット実行後、「インド太平洋へ回帰する」という大戦略をすぐさまに定めたことだ。「グローバルブリテンの復活」とも言う。
EU離脱で不安に陥る国民には新しい希望が必要である。夢を見せるための大戦略である。
グローバル・ブリテン戦略を知ったとき、この男はまれにみる名政治家だと思った。具体的にはTPPへの加入申請、そしてインド太平洋地域への足掛かりとしての日英の準同盟化などである。
さらに、日本人はほぼ誰も注目していないが、私がめちゃくちゃ注目しているのは「新大西洋憲章」である。
新大西洋憲章を見る限り、ボリス・ジョンソンは、世界覇権国家としてのイギリスの地位を、本気で取り戻そうとしているかのように見える。
イギリス国内では悪い評判もあるようだが、外から見ている限りは、非常に優れた政治家なのではないかと思うし、今後も政権を維持することができたならば、もっともっと大政治家になっていくだろう。
ウクライナ戦争でイギリスの戦略は変化するか?
ウクライナ戦争においても、ジョンソン首相は目立った動きをしている。
英特殊部隊が早くからウクライナには入っていたとのことだし、先進国首脳としていちはやくキーウを訪れたのも、ジョンソン首相であった。
さて問題は、ウクライナ戦争がグローバル・ブリテン戦略に与える影響である。
英露は伝統的に敵対国であり、ロシアが欧州に牙をむいている間、イギリスはインド太平洋地区に注意を払う余裕がなくなるかもしれない。
21世紀の日本にとって最も重要な枠組みは、日米豪印のQUADであると思うが、それに次いで重要なのがイギリスである。
ユーラシア大陸の東西の端にある「シーパワー国家(海洋国家)」の連合は、自由を民主主義を世界に広げていくうえで重要な役割を果たすだろう。加えて、イギリスの情報力は半端ない。諜報力が極めて弱い日本にとって、イギリスの情報はめちゃくちゃ重要だ。
アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの機密情報ネットワーク「ファイブ・アイズ」に参加するためにも、良好な日英関係は必須である。
イギリスのインド太平洋地域への回帰は、日本の国益にもかなうのである。
しかし、ウクライナ戦争で手一杯になりつつあるイギリスは、インド太平洋への関与政策を見直すかもしれないとのことである。そうなれば、中国にとっては朗報であろう。
やむをえないが、日本としては注意を払うべき状況である。
それでも冴えるジョンソン首相の外交戦略
ただ、対露を考慮してインドに接近しているあたりは流石である。
対露を意識しても、対中を意識しても、要石となるのがインドである。
ここで、まずインドの基本的な立場をまず説明しておく。インドにとって本命の脅威は中国であり、パキスタンである。それらと戦うための武器の多くを、ロシアからの輸入に頼っている。従って、インドは武器の調達・メンテナンスという点から、ロシアとの関係を切ることができない。
つまり、インドは反中の裏返しとしての、親露なのである。
そこに「新たな防衛・安保協力」で切り込んでいくジョンソン首相のやり手たることよ・・・
将来、中国を抜く超大国になるであろうインドを、自由・民主主義陣営に引き留めておくことは、極めて重要である。インドをロシアから引っぺがすことができれば、西側陣営にとって、オセロの白黒が入れ替わるような重要な局面となるであろう。
そして、今回の岸田首相との日英首脳会談である。
「欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分」との認識で一致。
さすが、ジョンソン首相であると思う。ウクライナ戦争という目の前の危機だけにとらわれるのではなく、俯瞰で世界情勢が見えている。
シーパワー国家としてのイギリスの世界覇権奪回戦略は、イギリス単独の国力では無理である。しかし、シーパワー国家を中心とした、自由・民主主義諸国の大同盟によってなら、それは実現可能だ。QUAD、AUKUS、TPP、そして日英「再」同盟は、その重要なパズルのピースとなる。
日本はジョンソンさんとともに歩んで間違いないと思う。ジョンソンさんが、国内問題で早期失脚しないことを願っている。
激動の時代の道しるべに・・・
(画像は写真ACから引用しています)