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安倍晋三元首相の国葬の外交的成果について、地球儀を俯瞰して解説してみる

少し前の記事の中で、安倍氏国葬を通して、非情にも誰が真の友人であったか明らかになるだろう、ということを述べた。さて、蓋をあけてみたところ、「誰が来て、誰が来なかったのか」。この国葬はトータルで見て「国益となったのか、ならなかったのか」、いつもながらに世界情勢の大きな流れを意識しながらザックリと解説してみる。

僭越ながらたいそうなタイトルをつけてみたものの、当方、単なる素人の政治経済ウォッチャーですw

アメリカ合衆国

アメリカからの参列者は、ハリス副大統領、ハガティ前駐日大使、ケネディ元駐日大使らが参加し、事前に噂があったオバマ元大統領やトランプ前大統領は参加しなかった。

国家元首でなく、現職ですらない元首相の葬儀に、さすがにバイデン大統領は参加しないだろうことを考慮すれば、アメリカの現No.2 ハリスと、歴代駐日大使を弔問団として派遣したということは、アメリカなりのかなりの敬意の現れだろうと思う。弔問外交として、あえて点数をつけるとすれば、85点ぐらい。

オバマが来れば95点だったが、結局のところ、オバマは真の友人だったとはいえなかったということだと思う。個人的には、次期大統領の可能性が少しあるトランプに来て欲しかったが、現在選挙戦で米民主党政権を批判しまくっている立場から、民主党中心の弔問団には入りにくかったか。トランプは安倍のいる日本は評価していたが、安倍のいない日本は評価しないかも知れない。そういう意味では、もしトランプが大統領に返り咲いたあかつきには、日米関係が思いやられる。

なお、トランプ前大統領は国葬に際して声明を発表している。曰く、「メラニア(夫人)と私は、真の偉大な人物であり、日本の首相であった安倍晋三氏に対して、深い敬意と哀悼を表す。率直に言って、彼のような人物はいない。国を愛し、一生懸命闘ったことで日本は自由と安全を保った。私たちは非常に親しい友になった。晋三ほど平和に大きな情熱を傾けた人はいない」

この弔問団の中で最も重要だと思うのは、ケネディ元駐日大使(現豪州大使)である。米民主党系の人材の中では屈指の親日家で、父の威光もあり今後も要職につく機会はあるだろう。また、ケネディには息子さんもおり、もしも政界入りした場合には米民主党のプリンスとして将来を嘱望されることになると思う。ケネディ一家との友情関係の継続は、日本にとって大きな国益となる。

アメリカの知日派のドン的なアーミテージ元国務副長官が来日したのも、実務的には意義深い。

総括すれば、「理想的メンバー」ではなかったが、「現実的なライン」としてはかなり良い弔問団だったのではないかと思う。もとい、エマニュエル現駐日大使とアーミテージ元国務副長官が、安倍国葬の意義について述べているので、最後に引用しておきたい。

エマニュエル大使は、「安倍氏ほど、日米関係に重要な影響を与えた人物はいない」などと指摘し、国内で賛否が分かれている国葬について、「安倍氏を認めないことは、それは損失になる」と述べた。
(中略)
「アメリカが、過去これほど日本に注目したことはなかった」とハリス氏が国葬に参列することの意義を強調した。

上記記事より引用

アーミテージ氏は数十年にわたり、日本の歴代政権に安全保障政策を助言してきた。その中でも安倍氏は「最高の戦略家だった」と述べた。特に安倍氏が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」について、「中国との関係を相互に、公平なものにしようとした」と分析した。
(中略)
安倍氏の国際社会に対する功績について、「(米国の)トランプ(前)政権は民主的価値観を擁護するリーダー役を務めることに関心がなかった。その時、安倍氏が自由世界のリーダーとして立ち上がった」と強調した。
(中略)
アーミテージ氏らが発表した提言で「日本は二流国になることに甘んじるのか」と懸念を示していたのに対し、安倍氏は「日本は今も、これからも、二流国家にはなりません」と壇上からきっぱり答えたという。

上記記事より引用

イギリス

イギリスは、21世紀の日本の国益のため、友好関係を深めていくべき「最重要国群」の一つであると、私は思っている。そういう意味では、今回の国葬参列者も重視していた。

トラス新首相が来てくれれば、完璧であったが、流石に着任直後かつエリザベス女王の葬儀直後というタイミングでは難しかったか。国連総会では岸田さんとしっかり会談していたようなので、致し方なし・・・ただ、日英同盟へ向けての象徴的イベントとしては、来て欲しかったよ・・・

トラス氏のツイッター投稿はあり

主要参列者はメイ元首相とクレバリー外務大臣である。メイさんは、21世紀の日英同盟に言及したことがある。クレバリー外相は組閣直後の現役大臣ということを考慮すれば、イギリスとしても最大限の敬意を示したというところか。これもあえて点数をつけるとすれば、80点ぐらい。

インド

インドもまた21世紀の日本の国益のため、友好関係を深めていくべき「最重要国群」の一つであると、私は思っている。現在GDPはイギリスを抜き世界5位、人口もまもなく中国を抜く。経済発展すれば、アメリカ・中国と並ぶ超大国となるだろう。

そして、生前の安倍さんが最も重視していたのがインドである。そのモディ首相が来日したというのは、真の友人の証だと思う。特に、元植民地ー宗主国という関係からイギリスに対して複雑な思いもあり、エリザベス女王の葬儀には参列しなかったモディさんが日本に来たということも、極めて重大な意味を持つ。弔問外交としては、100点である。

モディ首相と安倍元首相の友誼については、下記記事にまとめているので、併せてご覧いただきたい。

オーストラリア

オーストラリアもまた、イギリス・インドと並び、友好関係を深めていくべき「最重要国群」の一つであると、私は思っている。そして、オーストラリアからの参列者は凄い・・・

現職のアルバニージー首相をはじめとし、ハワード、アボット、ターンブルと歴代首相が並ぶ。今回の参列国の中では、オーストラリアが最も首脳級を集めたというところで、弔問外交としても文句なしの100点である。

これは、インドと同じく、QUADの枠組みで安倍さんがオーストラリア重視してきたことが結実した形である。特に、親日というよりは親中と思われるターンブル、アルバニージーが弔意を示しに来るというのは、まさに安倍さんの外交努力の賜物である。

QUADのインド・オーストラリアが弔問団で日本に最大限の敬意を示すのは、安倍さんが推進してきた「自由で開かれたインド太平洋戦略」の成果を示す象徴的なことであり、それが示せただけでも今回の国葬は意味があったと思う。

EU

今後、NATOの太平洋地域への拡大が見込まれるなか、日本とEU諸国の関係性も徐々に重要度を増しているが、EU諸国からは誰が来て、誰が来なかったのだろうか。

まず、ミシェルEU大統領が訪問した。実質的な権力はあまりないポストだと思うが、象徴的な意味は大きい。ミシェルさんは広島にも来たし、比較的日本を重視してくれているように思うので、いつもありがとうでござる。

他方、EU主要国はどうだろうか。

フランス・・・マクロン大統領来ず、この人、安倍さんと働いていたころからそれほど日本を重視しているようには見えなかったので、まあ、こんなもんだろうと思う。(なんだかんだでフランスって自分が一番と思っている節がある・・)そして、代理で来るのがサルコジ!?う、うーん。。微妙・・・。親日家・シラク元大統領が生きていれば、文句なしにシラクさんだっただろうけど、決して親日的とは言えなかったサルコジ氏かーい。まあ、もと元首級を派遣してくれるだけで感謝しよう。あえて点数つけるなら60点ぐらい。

ドイツ・・・現首相来ず、メルケル元首相も来ず。これ、日本人は良く覚えておくべきことだと思う。メルケルさんは在任期間も長く、安倍さんとも長く共に仕事をしてきたわけであるが、在任中から中国重視・日本軽視が目立っていた。メルケルさんが来ないというのは、まあ、そういうことなのだろう。ドイツは現時点で真の友人たりえず。さらに、ショルツ現首相は近く訪中を予定しているという話もある。訪問は、ヴルフ元大統領。ヴルフさんは親日家らしいのでありがたい話であるが、ドイツって大統領にあまり権限ないのよね・・・。まあ、ドイツとしては最低限の義理を果たしたというところか。ただ、インド太平洋への関与を謳いはじめたショルツ現首相は来ても良かったのでは。あえて点数つけるとすれば40点くらい。

ASEAN

自由で開かれたインド太平洋戦略におけるメインのバトルフィールドたる東南アジア諸国を見ていこう。東南アジア諸国のどれだけを「日本寄り」とできるかが、自由で開かれたインド太平洋戦略の成否を決する。まず、東南アジア諸国における親日国の牙城、ベトナムからはフック国家主席。続いてシンガポールからリー・シェンロン首相、カンボジアからフン・セン首相が来た。

副元首級では、フィリピンのサラ・ドゥテルテ副大統領、インドネシアのアミン副大統領、ラオスのソーンサイ副首相、タイのドーン副首相など。そしてマレーシアはアズミン・アリ国際貿易産業大臣という感じ。

日本に近い国も、そうでもない国もまずまずの人選をしているのではないかと思う。各論を言えば、ベトナムは絶対に「日本寄り」にしておかないといけない国であり、フィリピン、タイなども比較的日本寄りのはずである。人口が最も多いインドネシアが成長センターとしてのASEANの中核であり、汚職など問題も多い国で付き合い方が難しいが、できれば「日本寄り」にしたい。そしてかつてルックイースト政策(日本を参考にしなさい)を掲げたマレーシアが意外と塩対応なのは、今後の課題といったところだろうか。

その他

さて、問題のカナダ・トルドー首相である。ドタキャンは事前欠席よりもイメージが悪いというのは社会人の一般常識だと思うが、それをやった。ハリケーンも大変だとは思うが、「安倍さんの国葬をキャンセルしてハリケーン対策しました」という国内イメージアップに、ある意味では安倍国葬カードを使ったという形である。結果として、岸田首相と日本国民はかえって恥をかかされたということになる。

ただ冷徹に考えれば、日本の世界戦略にとってカナダの重要性はそこまで高くない。トルドー首相が来なくても、戦略的に何か痛手があるかというと、それほどないのもまた事実である。トルドー首相の参列は、G7唯一の現職首脳として安倍国葬に参加した、という象徴的意味合いの方が強い。

そして同時に、これはトルドー首相の判断ミスだとも思う。G7唯一の現職首脳として日本に来たという事実を作ることで、岸田さんにすごく大きな貸しを作るチャンスでもあったが、そのチャンスをふいにするどころか岸田さんの顔に泥を塗ることになったわけだ。こういった判断は巡り巡っていつかカナダに帰ってゆくのではないかと思う。(まあ、それだけ日本が軽視されているということだが・・・)

あとは、中国と台湾の弔問団双方が来たのが興味深かった。いろいろと問題のロシアも、文化交流担当を大統領特別代表として招いたのも良かったのではないか。密かにポイントはあとスリランカのウィクラマシンハ大統領かな。債務のワナで国家破綻し、日本が救済の手を差し伸べているところ、岸田氏とどのような話をしたかがポイントだと思う。伝統的親日国のトルコは現職外務大臣を派遣、安倍氏が中東で力を入れていたはずのイスラエルからは参列なし、という感じ。あと、地味にアメリカの不倶戴天の敵イランから石油大臣が来てるのが凄い。ここにも安倍外交の残渣がある。

総括

安倍元首相が最も力を注いだのが「自由で開かれたインド太平洋」であり、その中核がQUADである。QUAD構成国のアメリカ、オーストラリア、インドが極めて手厚い対応をしてくれたという点では、安倍外交を引き継ぐための弔問外交としては成功だったと思う。加えて、アジア太平洋地域に回帰しようとしているイギリスの対応も良かった。

「自由で開かれたインド太平洋」関連諸国以外の国々との友好関係構築については、まあ今後の課題ということで、収穫と課題の両方があった国葬儀と言えるのではないだろうか。

誰が来たのかリスト

日本の野党について

最後に、日本の野党・・・これだけ各国から要人が来るのだから、人脈を作るための努力はしたのだろうか。将来、政権を担う覚悟があるのならば、千載一遇の好機である。いくつかの国の弔問団と会談を行い、人脈作りをする努力は当然するべきだったと思うが、如何だろうか。

もしもこのような動きをしている野党があったならば、それは極めて高く評価する。批判と反対に明け暮れるばかりでは、到底、政権を担う覚悟があるとは思えない。

(画像は写真ACから引用しています)

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