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生成AI(AIシステム)と特許法

(一体型文具03, 04について異なる画像をアップしていたため、修正しました。「感情共有デバイス」に関するChatGPT共有へのリンクに誤りがあったため更新しました。11/6)

内閣府知的財産戦略推進事務局 御中
AI時代における知的財産権に関する意見

提出する意見は所属組織、研究会や団体と無関係な個人の意見です。
この意見では、事例としてChatGPTを使用しております(事例1から3)。
意見の本文については、ChatGPT等の生成AIは使用しておりません。

Ⅱ. AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について

① AIによる自律的な発明の取扱いの在り方について、どのように考えるか。

【意見】1 発明の過程ではなく、技術開示の責任を人間が負い、説明責任を果たしているか否かを重視すべきである。


【理由・根拠事実】1 生成AIは未完成の発明を完成しているかのような見た目で出力できる。発明者は「作ることができ、使うことができる」技術の開示をしなければならない。未完成発明である疑義がある場合、審査において積極的に動作例の説明を求めるべきである。
 例えば、ChatGPT-4に「ハサミとホチキスを一体化した文房具」を考えてもらっても、機構としてどのように動作するか不明瞭な画像や文章が出力される(事例1)。
 しかし、文章の構成や文法は一定水準以上で、動作するという確信に満ちた文章が出力されるため、技術的な検証の負荷が高い。
 そのような未完成の発明に特許を与えても実施できないから良いのではという意見も考えられるが、第1に、技術の公開の代償として特許権が付与されるのであり、技術を公開したと言えず、第2に、充分な研究をして完成させる他者が、あるべき権利を取得できなくなってしまい技術を開発し、開示をするインセンティブを低下させてしまう。

【意見】2 特許出願として技術内容が開示されていれば、生成AIの利用の程度を問うこと無く、発明であると取り扱うことが現実的であるが、要素(物)に分解したとき、その物の本来の機能を果たすのみの場合、公知文献が存在しなくとも発明に該当しない(特許適格性がない)とすべきである。

【理由・根拠事実】2
生成AIは、技術を列挙し、文章として整合的であるかのような出力をすることができる。課題、産業分野、技術分野、そして技術の組み合わせを自動的に生成できるため、先行文献の存在しない技術の組み合わせの出願がなされる可能性がある。先行文献が存在しなければ拒絶査定できないが、特許請求の範囲に記載された物について、それぞれの物の本来の機能のみが記載されている場合、文献を示すことなく、発明ではないという拒絶理由を通知することが考えられる。
事例1のハサミとホチキス、事例3のドローンと他の部分など、生成AIは新しい融合をさせず「物の本来の機能」を単に提案することが散見される。物の本来の機能のみが開示されていたり、クレームされている場合に、文献を示すことなく特許適格性がないとして特許しない解釈を積極的に検討すべきである。

物の本来の機能論については、例えば、参考「特許適格性要件の機能と意義に関する一考察」田村善之編『知財とパブリック・ドメイン第1巻:特許法篇』(2023年・勁草書房)57~104頁

【意見3】生成AIによる新技術の出力について、ことさらに独占権を付与する必要はない。

【理由・根拠事実】3
 不正競争防止法第2条1項3号の新商品の3年間の保護等で充分である。生成AIの場合、同時多発的に新技術が出力されることが想定され、特許権による独占のインセンティブを与えなくても、充分に新技術の開発がなされる。
 生成AI出力も利用した新製品について、従前と同様の保護で充分であり、生成AIは、2023年現在、新しい創作という点でまだ人間と共同発明できる水準にはない。数年後の再考が望まれる。

② AI利活用拡大を見据えた進歩性等の特許審査実務上の課題について、どのように考えるか。

【意見】4 長期的な視野で、創作物アプローチではなく、パブリックドメインアプローチを採用すべきである。


【理由・根拠事実】4
 AIの進歩は、技術の順列組み合わせや、用途の総当たりや、効果のリストアップを容易とした。パラメータ発明、用途発明、有利な効果の主張などが当業者にとって極めて容易となる。特許法が本来的に想定している存続期間や進歩性審査による特許権間のパブリックドメインの領域が侵食されてしまい、特許権の重なり合いが時間的・技術的に複雑に絡み合い、新製品の販売を開始する際の侵害リスクが高まってしまう。
 AI生成出力の高度化にともなって、独占権と独占権の間のパブリックドメインの領域をより広くしていく産業政策を採用すべきである。

パブリックドメインアプローチについて、例えば、「特許制度における創作物アプローチとパブリック・ドメイン・アプローチの相剋」田村善之編『知財とパブリック・ドメイン第1巻:特許法篇』(2023年・勁草書房)3~53頁

【意見】5 発明特定事項の物について、特に市場または自然から入手しやす場合、それぞれの物の本来の機能しか開示されていない場合、新規性を否定する文献が存在しなくとも、発明ではないとして特許適格性を否定すべきである。


【理由・根拠事実】
上述意見2と同じ

【意見】6 進歩性の判断において、有利な効果が存在する場合、物の本来の機能の組み合わせを脱した技術的思想であることを示唆するが、しかしながら、試すことが自明(容易)な場合、その試すことが容易な組み合わせによる有利な効果は参酌しないこととすべきである。


【理由・根拠事実】6
 生成AIが進化すると、当業者の能力が向上する。特に、網羅的な総当たりをするコストが格段に低下する。ある組み合わせについて、思いつく限りの有利な効果を文章でリストアップさせることも、表計算ソフトで数値変更後に再計算する程度に容易である。従って、試すことが自明(容易)な領域が格段に広がった。試すことには、要素の順列組み合わせの他、パラメーター、数値限定、用途の探索などが含まれる。
試すことが自明であることを示唆する文献があれば、効果そのものが記載されている文献を発見できなくても、進歩性がないと判断すべきである。これにより、独占権の間のパブリックドメインを確保し、製品化に際して、他社の特許権を尊重しつつ製品化をする自由度が高まり、産業政策に合致する。
 事例1、事例2、事例3の文章部分ように、ChatGPTなど生成AIは、課題の一覧、構成の一覧、文脈に応じた効果の一覧などを簡易に出力する。一見最もらしく、技術的、社会的に本当に意味がある文章なのかを検証することには一定以上の負荷がかかる。特に、有利な効果が羅列されていると、その有利な効果は先行文献に記載されていない可能性が高い。
 特許審査の観点では、有利な効果を参酌せずに進歩性がないと論理付けることができるルートを設ける必要がある。その一つの基準なり境界としては、「試すことが容易」であることを論証できるかどうかが考えられる。
 審査にて、試すことが容易であると論証できれば、有利な効果を参酌しないのである。

 前掲「特許制度における創作物アプローチとパブリック・ドメイン・アプローチの相剋」が参考となる。

Ⅲ. その他

【意見】 日本企業の製品・サービスを文章化、画像化して生成AIの学習データとする

 ChatGPT等の生成AIに、日本企業が製造できる製品や提供しているサービスに関して、それらを説明する文章や画像を生成AIに学習させることで、ChatGPT等を使用して製品開発するユーザーに、日本の製品が勧められる可能性が高まる。
 日本の特に中小企業の製品・サービスについてのデータセットを日本語及び英語で構築し、学習可能なデータとして公開すべきである。
 このデータセットは、一定期間で更新していくことが望ましい。

【理由・根拠事実】
 事例3にて、ハードウエアの部品の購入先を提案してもらったところ、実在の企業が提案された。英語文献を中心に学習していると想定できるため、英語で情報発信している企業が中心になると思われる。
 学習されなければ出力されないため、製品開発や研究でのChatGPT等の利用が普及する前に、中小企業支援策としても、日本企業の製品・サービスについての文章と画像のデータセットを公開できると良い。

【情報提供】1 ChatGPTを使いながら発明を試みた事例を公開したので必要に応じてご参照ください。

生成AIの出力画像は、note.comの記事にて公開しました。

事例1 ハサミとホチキスを一体にした文房具の開発

事例2 皮膚に優しいアパレル開発
https://chat.openai.com/share/3dccdc9b-9f63-4060-97d7-96516914353a

事例3 社会課題のリストアップから感情共有デバイスへ

正しいリンク
https://chat.openai.com/share/e1191b39-28e4-4125-b289-e427fd683bff

誤ったリンク
https://chat.openai.com/share/a246e3da-67d3-4044-bb62-24ecd472dfab

事例1 ハサミとホチキスを一体にした文房具の開発

"ChatGPT:" の部分が、ChatGPT -4で、DALL・E 3を併用した際のChatGPTの出力。
"問:" は報告者が入力した文章
---
問:ハサミとホチキスを一体化した新しい文房具を開発したいです。手伝ってもらえますか?

ChatGPT: もちろん、お手伝いいたします!ハサミとホチキスを一体化した文房具のコンセプトを考える際に、以下のような点を考慮すると良いでしょう。

機能性: どちらの機能も妥協しないようにデザインすることが重要です。例えば、ハサミの部分はしっかりと切れること、ホチキス部分はしっかりと紙を留めることができることなど。

安全性: ハサミの刃とホチキスの針が近接していると、使う際に怪我のリスクが上がる可能性があるので、安全性を確保するデザインが求められます。

収納性: 一体化された文房具は、単体のハサミやホチキスよりも大きくなる可能性があるので、コンパクトに収納できるようなデザインが良いでしょう。

使いやすさ: 一体化することで、どちらかの機能を使用する際に手間が増えないようにすることが重要です。例えば、ハサミを使いたい時にホチキスの部分が邪魔にならないようなデザインや、ホチキスを使いたい時にハサミの部分が邪魔にならないようなデザインが求められます。

これらの点を考慮して、ハサミとホチキスを一体化した文房具のイメージを生成してみますね。少々お待ちください。

一体型文具01, ChatGPT-4, DALL・E3出力
一体型文具02, ChatGPT-4, DALL・E3出力

問:ハサミの上に、ホチキスを乗せるように一体化させた文房具を考えます。針を止めるためにホチキスが回転する方向で、ハサミの持ち手も動くようにします。同時には使わず、一方のみを使います。イラスト案をお願いします。

一体型文具03, ChatGPT-4, DALL・E3出力
一体型文具04, ChatGPT-4, DALL・E3出力
一体型文具05, ChatGPT-4, DALL・E3出力
一体型文具06, ChatGPT-4, DALL・E3出力

それぞれChatGPTが生成したプロンプト
一体文具03  illustration of a unique stationary tool where the stapler is mounted on top of scissors. The stapler can rotate to allow for stapling, while the scissor handles also have a mechanism to move. The design ensures that only one function (either cutting or stapling) can be used at a time for safety.

一体文具04 illustration of a hybrid office tool with a stapler positioned above the scissors. The stapler has a rotating mechanism to align with the paper, and the scissors have flexible handles to ensure ease of cutting. The design is ergonomic and ensures that users can't use both functions simultaneously.

一体文具05 illustration of a creative stationary concept where the stapler is integrated on top of scissors. The stapler can swivel for stapling, and the scissors' handles are adjustable for cutting. The tool is designed to ensure that only one function is active at a time.

一体文具06 illustration of an innovative office tool combining a rotating stapler on top of scissors. The design emphasizes safety by ensuring that when the stapler is in use, the scissors are locked and vice versa. The handles of the scissors are designed to be flexible for comfortable cutting.

事例2 皮膚に優しいアパレル開発

事例2は、文章のみであり、こちらのリンクから参照いただけます。
https://chat.openai.com/share/3dccdc9b-9f63-4060-97d7-96516914353a

つま先とかかとを違う種類の履物の形状を合成することは、DALL 3・E 3は得意としないようで、文字で表現される画像は出力されなかった。
ChatGPT DALL・E3の出力事例

PureStep01, ChatGPT-4, DALL・E3出力


PureStep02, ChatGPT-4, DALL・E3出力
PureStep03, ChatGPT-4, DALL・E3出力

事例3 社会課題のリストアップから感情共有デバイスへ

事例3のChatGPTとのやりとりはChatGPTの共有機能を用いた。下記URLより参照いただけます。

ChatGPTのDall・E 3の出力はChatGPTの機能で共有できないため、別途の対話で生成できた画像をいくつか示す。この事例3は、文章で対話した内容に近いイラスト例も出力された。

まず、カメラがついていないタイプ

感情共有デバイス01, ChatGPT-4, DALL・E3出力


感情共有デバイス02, ChatGPT-4, DALL・E3出力

デバイスに見えるため、なにか近い製品が存在する可能性がある。

そして、カメラをつけるためにドローンの機構を参照することにしたが、ジンバル機構ではなく、ドローンが接続されてしまった。イラストでもそうだが、コラージュ、モンタージュ、パロディ風になりがちである。

感情共有デバイス03, ChatGPT-4, DALL・E3出力
感情共有デバイス04, ChatGPT-4, DALL・E3出力

以上

意見提出後の追記(2023年11月5日)

以下は、意見として提出していない。文献の引用と、その引用部分を前提とした私見である。

参考文献の追記
[1] 田村善之「特許適格対象の画定における物の本来の機能論の意義」(パテント74巻11号別冊パテント26号)には、経済活動を主眼とするために発明に該当しない考え方(アイデア)に、自然法則を利用している物を組み合わせても、物の本来の機能を発揮しているだけであるから、発明に転化することはない、と説示されている。

 田村教授は、いきなりステーキ事件では、特許庁はこの物の本来の機能論の立場で特許適格性を否定したが、一転、ソフトウエア関連発明ではビジネス方法にハードウエア資源を加えたのみでビジネス方法を発明に転換してしまっている、つまり、物の本来の機能論を採用していない、と指摘している。

 本意見での「物の本来の機能論」は、経済活動を主眼としない組み合わせの考え方(アイデア)についても、物の本来の機能が組み合わさっているのみであれば、特許適格性がないとする整理である。未完成発明かどうかを吟味することなく、新規性を否定するための文献を集めることなく、29条1項柱書の発明該当性の審査にて文献を示さずに特許適格性を否定しようとする意見である。
 例えば、ホチキスとハサミの組み合わせ(事例1)、電極付きデバイスとドローンのカメラの組み合わせ(事例2)など、組み合わせのを生成することが容易なAIシステムの出現に対して、物の発明にみえても、発明特定事項(構成要件)がそれぞれ物の本来の機能を発揮しているのみであれば、特許適格性を否定できるとする意見である。

[2] 田村善之編著『知財とパブリック・ドメイン第1巻:特許法篇』(勁草書房, 2023.1)

[2-1] 田村善之著「特許適格性要件の機能と意義に関する一考察」第57以下では、物の本来の機能論がさらに展開されている。第73頁から第75頁では電柱広告方法の判決が物の本来の機能論の淵源であるとし、第79頁以下ではいきなりステーキ事件について物の本来の機能論により特許適格性が否定した事例と位置づけている。

 さらに、田村教授は、ソフトウエア関連発明について、物の本来の機能論は「特許適格性がない抽象的な方法に新規とはいえないハードウエアが付加されたとしても、特許適格性があるものに変容することはないという法理である」と説示した(同第82頁)。

 物の本来の機能論は「観察可能性、予測可能性、判断容易性のいずれの観点からも推奨される優れた運用を実現できる法理であるように思われる」(第101)とし、引用文献なしに特許性を否定できる点に物の本来の機能論の意義があるとする。

 この物の本来の機能論を突破して特許適格性を得るには「物の構成または物の変化に、解決すべき課題とその解決手段が宿っている」ことであり、自然法則の利用というのは、物の構成または物の変化をもたらしているという理解である(同101頁)。クレームドラフティングとしては、発明特定事項として新しい物の構成の創作であることや、物の変化をもたらす創作であることが明らか(同第92頁)に記述できれば、特許適格性を得る。
 物の変化は、物理的、化学的、生物学的変化を包含する(同注83等)。


 田村教授は、特許適格性のない抽象的な方法に、本来の機能を発揮するだけの物を組み合わせても、特許適格性のある発明に転化することはない、と説示する。

 本意見書では、追加された物の組み合わせだけとりだしても、やはり、特許適格性がないから、物の本来の機能論に、骨格となる経済活動を主眼とするアイデアやビジネスモデルはなくても法理として有効なのではないかという立場を採っている。

 発明特定事項の組み合わせが物の本来の機能論を突破するのは、組み合わされた際の動き(作用)であり、有利な効果の有無である。有利な効果がないのであれば、物の本来の機能を発揮しているにすぎない。
 もちろん、本来の機能を持つ物どうしの接続部分の構成は、自然法則を利用しており、新規な発明の骨格となりえる。

 パラメーターについても、パブリック・ドメインアプローチであれば、物の本来の機能として予測できる範囲であれば、文献を引用せずに特許適格性の審査として発明に該当しないと判断できる仕組みを研究していくべきだろう。

 本意見書では、生成AIの進化との関係で、物の本来の機能論を拡大していくことの有用性を主張した。

 私見では、鉛筆と消しゴムを一体化しただけでは発明ではないというのは、物の本来の機能論で説明できる。一方、鉛筆と消しゴムを接続する機構として、鉛筆と消しゴムに外接する円筒を想定した際の断面円の直径を同一の長さにし、鉛筆の長手方向の終端と消しゴムを金属薄膜で保持し、当該金属薄膜を鉛筆及び消しゴムに固着したのであれば、金属薄膜が(自然法則を利用した)「物の構成」である。
 鉛筆と消しゴムが繋がっているように見えるようなイラストや、ホチキスとハサミが一体化したかのようなイラストを生成AIが出力するのは容易であり、これを拒絶しようとして文献を探しても見つけきれないことが想定される。まず、物の本来の機能のみが表示されている場合について、発明に該当しないとして文献なしで拒絶査定できると良い。

[2-2] 田村善之著「特許制度における創作物アプローチとパブリック・ドメイン・アプローチの相剋」第11頁は、進歩性判断における顕著な効果の参酌について、独立要件説と二次的考慮説が結論に影響する事案類型として、「試すことが自明(obvious to try)」が吟味されている(第11頁から14頁)。

 「顕著な効果に関する二次的考慮説の下では、構成が容易想到であることが示されれば、それで進歩性は否定されることになり、かりに当該構成は顕著な効果があったとしても進歩性が肯定されることはないから、公衆が利用可能となる寸前の技術に特許が与えられることはない。簡単にいえば、試すことさえ自明であれば、試された結果、導かれる効果が自明でなくとも進歩性は否定されるというのが二次的考慮説の帰結である。本稿の分類ではパブリック・ドメインアプローチに位置づけられる」(同第13頁)。

 対して、独立要件説では、効果を開示したことによる報奨として、またはその効果が発明の一部であるとして「試すことが自明であっても効果が自明出ない場合には、進歩性が否定されることはない」(同)。


 本意見では、生成AIは効果の記載を大量に自動生成できるから、その効果の開示(記載)を参酌しない事例を増やすべく、「試すことが自明」であれば効果を参酌しない、という提案をしており、これは、二次的考慮説によるパブリック・ドメンアプローチである。

 物の発明の機能論との組み合わせでは、発明特定事項のそれぞれはよく知られた部品や部材である場合に、先行文献がなくとも、物の本来の機能をそれぞれ発揮しているにすぎないと論証できれば、技術的思想ではないとして特許適格性を否定できることとしつつ、有利な効果が存在すれば、物の本来の機能の組み合わせを脱している。しかし、組み合わせについて「試すことが自明」であれば、有利な効果の参酌も否定する。

 生成AIの利用によるハルシネーションのような特許出願が増加した場合、このような運用により対応することも一案である。

 中山一郎「AIと進歩性-若干の問題提起」(同書第175以下)には、日本の公的検討の経緯、米国の先行研究の紹介のなかで「AIの利用を、自明性の根拠の一つである「試みるのが自明」(obvious to try)基準において考慮することを提案する見解」が紹介されている(同第198頁)。

 成功が期待されるような場合、組み合わせは試みるのが自明として、その組み合わせを自明とする。「AIの利用は「試みるのが自明」(obvious to try)といえる範囲を拡大させる結果、自明と判断される範囲も拡大することとなる」という(同)。


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