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⁅力まずに読んでください】『スモーカー』One Minute Literature 第十二号

 お久しぶりです。いろいろあって、文芸活動できないでいました。
 ちょっと、力が湧いたので、書いてみました。
 大したことないので、そんなに期待しないでくださいね。
 それではどうぞ。

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 彼はプレゼンの前に煙でモクモクする喫煙所で、自分も煙草を黙々とさせながら、モクモクと吸っていた。どれくらいそこにいただろうか。周りの人はスパスパと吸っては部屋から出て行き、また仕事に戻っていく。この喫煙所は、なぜか暗かった。壁際にベンチがあって、その下に蛍光灯があった。その光の色はぬぼーっとのっぺらぼうな感じだった。照らされている側としては、眩しいわけではなく、ただぬぼーっと部屋がほの暗く照らされているような感じである。人の影は認識できるが、人の顔までははっきりくっきり認識することはできない。部屋の真ん中にはゴーゴーと空気清浄機となっている。テーブルみたいに寄りかかっていて話し込む人もいる。彼はずっと煙草を吸いながら空気清浄機に寄りかかっている。
 今日のプレゼンに、三ヶ月時間をせっせと費やした。夏のギンギンに照らす炎天下の中、わざわざ相手の会社に何回も訪問し折衝をしたし、自社で打ち合わせを何回も行っていた。その最終的な結果がデンと出るのが今日なのだ。それなのに、彼はモクモクのぬぼーっと喫煙所にいる。
 怖じ気づいていた。
 失敗するのが怖かった。
 彼の足はガクガクと震えていたし、煙草を持つ手も尋常じゃなくぶるぶるしていた。精神安定のための煙草が役に立っていない。それでも気持ちをほっとさせようして吸っている。
 彼はオメガの腕時計を見る。そろそろ会社を出る時間だった。彼はふと思った。この時計もそろそろオーバーホールだな、と。彼が入社して五年してローンで買った時計だった。彼は気に入っている。時々。動いているかどうか耳に時計を当てる。秒針のチチチチチという音が安心させるし、心地よい気持ちになる。
 彼は煙草の箱から煙草を一本取り出す。
──最後の一本。
 ここに来て何本吸っただろうか。ただ、最後の一本を吸っている彼は違った。覚悟を決めている様子だった。キリッとした顔で、自信が漲っていているようだった。煙草を吸い終わり、灰皿に捨てて、彼は部屋に出て行く。喫煙所のドアを開けると、逆光と煙で彼の影がうっすら見えた。彼はサラリーマンという戦士肩書きを持つ職業だった。彼はこれから戦地に向かうのだった。

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11月23日に文学フリマ東京にて、新刊『彼女たちの幸せのために』という作品を頒布します。その書影についてはまた近く披露したいと思います。

それでは、また。

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