スマホゲーム徴税強化? その4
これまで、税制調査会の資料から関連するアプリ関係の税金周りの話をしてきました。
今回は少し違う観点から税調資料を見てみたいと思います。
このうち、これまでみてきた消費課税①資料の中で、以下のページがあります。元は、法律事務所の方が作ったらしいですが、ここでちょっと注目したポイントがあります。
このうち、後半部分にあるこの箇所についてです。
消費税上の「免税事業者」の扱いを受ければ日本で消費税を納めなくて済むので、免税事業者の要件を満たすような会社を次々と作り消費税を納めないようにする、という方法です。
消費税は、売上等に伴って受け取る仮受消費税と、支払い等に伴って支払う仮払消費税があり、年度決算締めて、仮受と仮払を精算して、仮受が多ければ納税し、仮払が多ければ還付を受けます。(これはざっくりした説明で、細かいところは他にたくさんあるので、正確なことを知りたい方はこちらをみてください)
前述のように消費税には「免税事業者」という区分があります。
この免税事業者に該当すると、売上等に伴って受け取った消費税の方が多くても納付しなくても済みます。
わかりやすく図示すると、下図のようなイメージになります。
課税事業者は受け取った消費税10円は納付するため、手元に残るのは100円だけです。それに対して、免税事業者は、消費税10円は納付しなくて良いので、110円が手元に残ります。つまり10円分得するわけですね。
以上を踏まえて、免税事業者となる法人を次々と作る形を解説していきます。
免税事業者の要件
ここで、改めて消費税の免税事業者について確認してみましょう。(実務レベルでの解説ではなく、イメージが伝わりやすいように多々省略しての説明です)
そして、会社を新設した場合は課税期間に該当する前々年度がないため、原則として、設立1年目、2年目は免税事業者となります(特定期間の判定で、1年目の上期で売上高が1000万円超になる場合などは、2年目は課税になる可能性はあります)。しかし、新設であれば何でも免税となるかというとそうではなくて、いくつかの用件に該当すれば課税事業者となります。
今回、関係ありそうなポイントでいうと、「特定新規設立法人」に該当するかどうかです。これに該当すると、設立初年度であっても、免税事業者にはなりません。
ざっくり言うと、課税売上高が5億円を超える会社とある程度の関係性にあれば、課税事業者となりますよ、というところでしょう。
そして、その関係性について、こちらに詳細が記載されています。
詳細は上記2箇所の要件ですが、かなり細かくてわかりづらいので、ざっくり典型的なパターンを何点か説明します。
(内容がかなり複雑なので、実際の判定にあたっては、ご自身で関係条文を確認してください)
説明用のサンプルとして、A社とB社があるとします。
A社は既存の法人で売上も5億円超あります(何年も前から5億円超であると仮定します)。一方、B社は新しく設立された法人です。B社の資本金は1000万円未満とします。
この関係性から、B社が免税事業者になるケースを簡素化していくつか例示します。(実際の判定にあたっては、ご自身で関係条文を確認してください)
パターン1
B社がA社と何の関係もない場合。
B社は既存のA社とは何の関係もなく設立されました。
この場合は、他に関連する要件がなければ、免税事業者の要件を満たします。B社は少なくとも、設立初年度は免税事業者です。
パターン2
B社がA社の子会社(議決権の50%超保有)として設立された場合
A社が出資してB社を子会社として設立しました。
この場合は、特定新規設立法人に該当し、B社は最初から課税事業者になります。これは直感的に、まあそうだろうな、と納得するところです。
自社内で新規事業を立ち上げる場合と、法人として立ち上げる場合とでの公平性という観点かと思います。
パターン3
A社の株主taroがB社を設立した場合。taroはA社とB社の株式を保有しています。
この場合、いくつか条件があります。わかりやすいパターンだと、A社の株式をtaroが100%保有している場合、taroがB社の株式の過半数を保有していると、A社とB社が直接資本関係になくても、特定新規設立法人となり、B社は課税事業者になります。
パターン4
hanakoがB社を設立した場合。hanakoはA社の株主taroと親族関係にあります。
この場合もいくつか条件があります。わかりやすいパターンだとこうなります。
A社の株式をtaroが100%保有している場合で、B社の株式をhanakoが過半数保有しています。hanakoがtaroの妻であるなど、一定の条件を満たす親族の場合、A社とB社が直接資本関係になくても、特定新規設立法人となり、B社は課税事業者となります。
以上、いくつかサンプルを例示してみました。これ以外にもさまざまなパターンがあるのですが、詳細は先ほど掲載した国税庁の資料を参照ください。
では、これを踏まえて、税調の資料にあった、ゲームタイトルごとに法人を設立する場合がどうなるかをみてみます。
ゲームタイトルごとに法人設立
上記の免税要件を踏まえて、もう一度税調資料のポイントの場所をみてみます。
例えば、事業者A(資本金100万円)がゲームを制作・配信しています。
下図のようにゲームを複数リリースしています。
売上が1000万円超あれば課税事業者となり、消費税を納税する必要があります。各ゲームが売上が少なくても、A社は課税事業者なので、仮にゲームcの売上が100万円しかなくても、ゲームCの売上から受け取る消費税を納税する必要があります。
ゲームタイトルで会社を分ける
では、これをゲームタイトルごとに会社を新設するとどうなるでしょうか?
下図のように、ゲームbは事業者Bが、ゲームcは事業者Cが制作・配信しているとします。(B、Cは個別に免税要件を満たしている前提)
この場合、前項の免税事業者でいくつかパターンを挙げたように、基本的にA社とB、C社に何も資本関係がなければ、原則としてB社、C社は免税事業者になり、消費税を納税しなくても良いことになります。
しかし、B・C社がA社の子会社であった場合(パターン2)や、A社を100%保有する株主がBC社にも過半数を出資していたり(パターン3)や親族などが出資している場合(パターン4)は特定新規設立法人として、課税事業者になります。
ただ、日本の会社であれば、出資情報については登記情報、親族関係については戸籍や住民票などで確認できます。使用人等かの判定も、給与の支払い情報のチェックなども日本国内ではできます。
しかし、外国の場合はどうでしょうか。国ごとに制度が異なり、必要な情報を集めるのにも多くの困難がともなうケースもあるでしょうし、そもそもそういった情報が整備されていない場合もあるかもしません。また、日本国内とは異なり、日本の国税局が外国で自由に調査できるわけではありません。
そういった理由で、表面的に免税要件を満たしていると、本当に課税事業者に該当しないかどうかを十分に調査することができない場合もあるのでしょう。そういった理由で、免税事業者として認めざるを得ないケースがあるのだと推測されます。
消費税試算
では、そういった形で免税事業者になったとして、納税せずに済む金額はどれくらいなのでしょうか。
あくまでイメージなのですが、例えば、年間10億円ほど売上のあるゲームだとすると、初年度分の消費税1億円を納付せずに済みます。(2年目は、特定期間の条件で引っかかって課税になると思いますが)
初年度にいきなりそんなに売上立つの?という疑問もあるかと思います。
ただ、ゲーム分野に限って言えば、ヒットすれば年間売上100億円も珍しくはないです。(というかむしろピークは初年度にある、とも言える)
例えば、最近大きくヒットした『ウマ娘』のゲームは2021年2月にリリースされましたが、2021年だけで、約1000億円の売上を上げています。
売上が1000億円だとすると消費税は100億円にもなります。
とはいえ、流石に売上が大きい有名タイトルで、本当は課税事業者なのに、免税事業者を装うとすると、目をつけられやすいので、あまりやらないのかなとは思いますが。
法人新設による税逃れの実例
ところで、別にゲームでなくても、普通の事業会社でもこれやったら消費税の免税事業者となって、消費税納税せずに済むのでは?というアイデア思い浮かびます😅
実はそんな事例が存在します。(日本国内での事例です)
原文はちょっと長くて複雑なので、概要をわかりやすくデフォルメして説明します。
元々A社を営んでいたtaroは新規にB,C,D社を設立して、taroの親族であるjiro、tadashi、momokoをそれぞれの役員(代表者)にします。そして、A社の事業をこれらの会社に移し、B,C,D社を免税事業者の要件を満たす会社として、消費税を納税しませでした。
まあ実際はそう話はうまくいかず、のちに免税事業者にならないので、消費税を払え、と言われてしまうわけですが。詳細を知りたい方は元の税務訴訟資料を読み込んでください。
こういった過去のさまざまな経緯を踏まえて、税制改正を経て消費税の免税については現行のルールになっています。
まとめ
ちょっと長くなりましたが、以上、税制調査会の資料の記載をもとに、推測をしてみました。もちろん、これはあくまで推測なので、実際の事実はこれとは違う可能性もあり得ます。
この免税要件に形式上該当する場合には、これまで述べてきたように、アプリストア運営者に消費税を納めさせる方式をとっても、消費税を納税させることはできなくなります。
その点については、外国企業の場合、前述のように、出資関係や親族関係等の情報調査に関しては、日本国内だけでなく、諸外国との協力も必要になってくるので、将来的な対応施策を検討していく必要があるでしょう。
とりあえず、一旦今回のテーマでの記事はこれで終わりとしますが、また新たな動きがあれば内容を検討していきたいと思います。
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