アトハマカセタ
あとは任せた、って嫌な言葉。最後までやりきるのが大変なんだから。
洗濯物を干してる途中でテレビ見始めて、あとは任せた。
洗い物もフライパンだけ洗って、あとは任せた。
カレーを作ると意気込んで具材を切って、あとは任せたって言われた時は心底、腹が立ち肉じゃがを作ってやった。
食卓にフライパンに乗ったままの卵焼き、タッパーに入ったままの白ごはん、具無し味噌汁を並べた。
「ただいまー」
「おかえー」
渾身のおかえー。
「あれ追い焚きは?」
帰宅後にすぐに風呂に入るあいつの為に、いつも追い焚きをしてやるのだが、今日はしないよーん。
「ねえ。なんで追い焚きしてくれなかったの?」
パンツ一丁でリビングに歩いてくるあいつが食卓に目をやる。
「ん?まだ途中?」
ついにあの一言をあいつに言い放つ時が来た。
「あとは任せた」
今まで散々言われてきた言葉。私の嫌いな言葉。いつか言ってやりたいと思っていた言葉。
「え?いいの?」
そう言って彼は手際良く卵焼きを切り分け、白ごはんを茶碗に移し替え、味噌汁に豆腐とネギをさっと切って盛り付けた。
「最後の気持ちいい所だけやらせてくれてありがとう」
呆気に取られた私は黙り込んでしまった。私の嫌いな言葉が彼の優しさだったと知った。近いうちにありがた迷惑だったと、彼を傷つけないように伝えよう。
その夜のベッドは、かなり序盤で彼にあとを任せた。