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たいせつな人

 デートの帰り道は寂しい。目を閉じるとスライドショーのように夕実の笑顔が浮かぶ。

 夕実が見たがっていた映画を見た。隣で綺麗な涙を流す姿を見て、この人をずっと大切にしたい、と思った。
 「これ感想言い合うの野暮だね」
 ふふっと僕に笑いかける。
 「この映画をなぞるだけになっちゃいそうだもんね」
 しばらくあった沈黙はお互いが映画を回想していたから。

 一緒に食べたパスタがすごく美味しかった。カッコつけて外国のビール飲んだ。もう銘柄も覚えていない。
 「夕実がクリーム系にするなら僕はオイル系にするよ」
 「シェアを前提とした注文という訳だね」
 僕たちはいわゆる一口ちょうだい、がお決まりになっている。夕実が頼んだパスタの方が美味しかった。いつも夕実の選ぶものの方が美味しい。

 「じゃあね」
 「ううん。またね、って言って」
 「ごめんごめん。またね」
 帰りは決まっておこなわれるこのやりとりが好きだ。改札を抜け、階段を上る僕をいつまでも見送ってくれた。
 
 僕は紫の革ジャンを脱ぎ、ピンクのタンクトップの中央にプリントされた〈THANK YOU〉のロゴを指さしながら、投げキッスを五回した。

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