卵の味(10/11追記)【蜷局グルメ録①】
鶏卵の味の違いというのがさっぱりわからん。
世の中の多くの人間は鶏卵というものが大好きなようで、白飯に生卵をぶっかけて醤油をぶん回しただけの貧相な食事にTKGなどという仰々しい呼称までつけてこちらの共感性羞恥を煽ってくるのだ。
ラーメンでもトッピングは味玉が人気であるらしく、どのラーメン屋でもトッピング全盛りの特製以外にデフォルトで用意されているのは味玉ラーメンである。最近では卵かけ麺などという食事と書いてインスタグラムと読む連中しか相手にしていないような破廉恥な稼ぎ方をしている店も増えてきた。
ハンバーグにしても温玉なり目玉焼きなり半熟の卵を割ってとろ~り黄身に絡めて食べることが至上の喜びであるかのように認識されて久しいが、松屋で売られている人間の味覚と尊厳を破壊し大蒜と食塩の奴隷にせしめんとするうまトマに乗っている温玉ならともかく、多少なりとも肉質にこだわったハンバーグに卵の黄身などを絡めてわざわざ味を曖昧にするのは愚の骨頂といふもおろかなる事態である。
何より気に食わないのが卵の黄身の色が赤ければ赤いほど味が濃くて栄養も豊富であると信じて疑わない無垢な大衆の存在であって、そんなに赤い黄身が好きならばその主たる原因であろうパプリカなんぞを丸かじりしておけばよいのに、その色をあろうことか新鮮さの証左であるかのように珍重する連中を見ていると憐憫の情を禁じ得ないし、赤い黄身の卵それ自体に対しても、つけまつ毛をバシバシ張って目を見開いているがゆえに上から見れば瞼にタランチュラの足が乗っかってるようにしか見えない古のギャルを横目で見るような痛々しさすら感じてしまう。
卵の味の細かい違いがわからないのは単に俺の味覚の鈍感さによるものではあるが、卵の味の細かい違いがわかるくらいに鋭敏な味覚の持ち主であるはずの卵フリークどもがどいつもこいつも五歳児でも旨さの理解できる甘辛い味付けばかりを好んでいるようなのはグルメ界にとって残念至極というより他にないのではないか。
無論、理由付けはどうあれ鶏卵などという必須かつ大衆的な栄養食を好んで食べてそこにささやかなこだわりを見出しているグルメ凡夫と、「こちら昆布森産の塩水ウニです」と大将に言われてから必死に昆布の風味をウニの生殖器の中に探し求めて訳知り顔でしきりに頷いて見せる俺のようなグルメ気取りとを比べれば、どちらが社会の中で善良な民であるかは言うまでもないのであって、だから今日も赤い黄身を箸の先っぽで割るだけの動画にたくさんの評価がつけられているのだろう。
赤い黄身が持て囃されているというのは、あるいは社会が平和な証拠であるやもしれぬ。
平和な社会を尻目に俺は色の薄い安い卵でオムレツを焼こう。
【10/11追記】
NON STYLEが俺の言いたいことをほぼ言ってる漫才があった。
久々に見たけど、やっぱり井上のツッコミは小気味良いものがあるな。