「最近のジャンプ」【10月1日(火)】
21世紀史上最も過大評価された漫画である『鬼滅の刃』が惜しまれつつも連載終了の日を迎え、時を超える最終回発情期という古典に古典を掛け合わせた画期的な演出で賛否両論の渦を巻き起こしてから早四年。
21世紀史上二番目に過大評価された漫画である『呪術廻戦』も連載終了の日を迎えた。最終回は発情期でもなければ夢オチでも異世界転生でもなく、大団円といった風でまとめられていたが、最終局面に入ってからのこの一年くらいの評価は概してズタボロで、強キャラ人気キャラを簡単に退場させては色キャラ薄味キャラを異端に活躍させるという捻くれた展開に、読者は感嘆の声ではなく慨嘆の悲鳴を漏らし続けていた。魅力ある最強キャラの扱いに困るのはあらゆる創作において共通する悩みであろうが、そのキャラ故に現在の地位を築いたにも関わらず、「もう五条悟とかどーでもよくない」と心の叫びを当人を介してぶちまけられても困惑してしまうというのが善良なる読者の感想であろう。
本当は引き算で魅せる物語を作りたかったであろうに予定と違った売れ方をしたから足し算を重ねるしかなかった、という苦しみは端々から感じられるところなので次回は客ウケを考慮せず好きなものを好きなだけ書いてもらえればよいと思う。腿の太い健康的な女の子をいっぱい描いてくれ。
21世紀に最も過大評価された漫画と二番目に過大評価された漫画の間に、極めて全うな評価のもとジャンプの準看板(青春であるゆとり前後世代が一気に死滅するウイルスで蔓延しない限りジャンプの看板がワンピースから移行することはないからジャンプの準看板とは実質上の最高評価である)を務めきった偉大な漫画、『僕のヒーローアカデミア』は、万雷の喝采に包まれてその幕を閉じていた。
圧倒的な画力で足し算の漫画を貫いた同作は、細かい部分でのダレはともかくとして、やりたいことを存分にやり切った大作といって問題なかろう。当時あれだけ意味不明だと叩かれた「頑張れって感じのデクだ!」にこれ以上ないほどの説得力をもたせたクライマックスのシーンは、透明な眼で目の前のヒーローの活躍に心躍らされる少年たちと、濁った瞳で評論家ぶって粗探しをする中年どもの両方に、「こういうのでいいんだよ」と、エンターテイメントにおける最大最高の賛辞の言葉を発せしめたであろう。
『ヒロアカ』の十年で磨き上げた画力と構成力をもってすれば、過去打ち切りの憂き目を見た『逢魔ヶ刻動物園』も『戦星のバルジ』もより輝きを放って描き直せるだろう。いや、やっぱりバルジはいいや、動物園だけまた描いてくれ。
さて、『ヒロアカ』『鬼滅』『呪術』と令和の少年ジャンプを支えた巨人の連載が終了し、いよいよ『(隔)週刊中年ワンピース』の様相を呈してきたお先真っ暗なジャンプだが、明るい話題もあるにはある。そう、『HUNTER×HUNTER』の連載再開である。いや、ますます中年ジャンプじゃねえか。
まあ仕方ないよな、最近の中高生と喋っていても、個人の趣味として漫画を読んでいるやつしかいなくて、「世代の共有文化」として漫画を嗜むという時代は終わったんだろう。『アンデッドアンラック』であの売上と掲載順になってしまうのなら、もうバトル物や冒険活劇で若者の心を掴むのは無理なんじゃないか。
だったらもう、本当に中年ジャンプに舵を切って、岸本に『BORUTO』を作画させて、久保帯人に『BLEACH』の地獄篇を連載させて、澤井の正気をもう一度捨てさせて『ボボボーボ・ボーボボ』を復活させるしかないんじゃなかろうか。
面白い漫画もゲームもいっぱいあるけど、あるだけにしか感じられない。巨頭のそびえない多様化の世界に、楽しい未来がまっているのか。こうした憂慮が、俺の感性が老化し鈍磨したゆえの杞憂であることを切に願うばかりである。