異存のある見出し語
今日電子辞書を引いてびっくりしたんだけど、「いぞん」と引いても「依存」が見出し語としてはでてこないんだな。「いそん」と引いて「依存」のページにいけば、「いぞんとも読む」という趣旨のことは書いてあるんだけど、「いぞん」と引いても「依存」のページが案内されない。これにはちょいとばかしおったまげてしまった。
これが明鏡国語辞典のみの現象ならば、何も驚くことはない。
明鏡国語辞典というやつは、語義界隈の保守本流といった輩で、たとえば「怒り心頭に発する」という語を引くと、
とご丁寧によくある「誤用」に対して注意喚起までしてくれるし、うっかり「怒り心頭に達する」と引いてしまった場合でも、
と正しい用法に誘導してくれるという風紀委員のようなやつなのである。
だから、明鏡国語辞典に「いぞん」=「依存」という見出し語が存在しないのは特筆すべき事項ではない。ところが俺の電子辞書は高級品で、日国も広辞苑も新明解も収録されている(もちろん広辞苑は第七版、新明解は第八版と最新だ)。そんな辞書たちが揃いも揃って、「いぞん」=「依存」という見出し語は認めず、「いそん」=「依存」しか載せていないのだ。
ちなみに慣用読みが定着した典型例である、「重複」や「固執」などについては、きちんと見出し語が用意されている。
どう考えても「固執」よりは「依存」の方がより人口に膾炙した読み方だと思うのだが、なぜか「依存」は国語辞典には載っていない。現実世界で「いそん」などという発音で空気を震わせているやつはトキよりも絶滅危惧種だろうし、漢字の読み方のテストで生徒が「いそん」と書いたら✕をつける善良な教師で小中学校は溢れているだろうに、「依存が辞書に載っていないというのは違和感がすごい。もしかして電子辞書だけの不具合なのだろうか。
俺は紙の辞書なんてもうかれこれ二十年近くまともに引いておらずあいにく持ち合わせがないから、未だに紙の辞書を愛用している変態たちはぜひ「いぞん」と引いて結果を教えてほしい。
傑作なのが、和英辞書だとむしろ「依存」を引くためには「いぞん」と入力しなくちゃダメで、「いそん」と引いたって「依存」が出てこないものの方が多いということだ。何も意識しなくても使える母語の意味に格別の関心をもつという好事家が愛用する国語辞典なんかよりも、グローバル社会の実用に資する和英辞典の方が普通の日本人の健全な言語感覚を反映しているのかもしれない。
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