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元滋賀医大生らの逆転無罪判決についての考察

元滋賀医大生らの逆転無罪判決についての考察

滋賀医科大学の男子学生2人が女子学生に性的暴行を加えたとして起訴された事件で、2024年12月18日、大阪高等裁判所(飯島健太郎裁判長) は一審の有罪判決を覆し、無罪を言い渡しました。

事件の概要
・発生時期と場所:2022年3月、大津市内の元男子学生の自宅で発生しました。
・被告人:元滋賀医科大学の男子学生3人が起訴され、そのうち2人が今回の控訴審の対象となりました。
・被害者:別の大学に通う女子学生が被害を訴えました。

上の事件に関して、以下のめるめる氏によるnote記事のコメント↓

滋賀医科大学の「性的暴行事件」に関する異常な判決について

https://note.com/merumeru99/n/ncb341d5442e0

女学性が隠していた虚偽の供述というものが何だったのか

というコメントについて詳しく深掘りしていきます。

弁護士ドットコムニュース・一宮俊介氏の記事から説明します。

2022年3月15日午後11時51分ごろにエレベーター内での口腔性交【1】(第一審にて事実認定済)がありました。

すでに刑が確定した男性をA男、控訴審で無罪とされた男性2人をそれぞれB男、C男、被害者とされる女性をX女、その友人女性をY女としています。

問題なのは、X女が当初、警察に口腔性交【1】について申告していなかったことについて、1審と2審で判断が大きく分かれていることです。

(第一審の事実認定:
口腔性交【1】…A男が被害者の頭部をつかんで行為に及ぶとともに、X女は「苦しい」と言うのに対して、A男が「苦しいのがいいんちゃう」と発言、C男は「苦しいって言われた方が男興奮するからな」と発言。C男はその様子を撮影。

・事件に至る過程(エレベーター内から)…午後11:44ごろエレベーター乗り込む。A男が「2人じゃないとしたことないの?」と発言、C男は「え、でも。それやったらもういいじゃん」等と発言、被害者は「やだー。」「ダメダメ。」等と発言。さらに、A男が「3人でしたことないんでしょ?」と発言、X女は「はい、今度今度今度。」と応答、A男がそれに対して「今度する?じゃ。」と発言、X女は「今度。いや。」と応答。また同人は「ダメダメダメ。」「やだやだやだ。」と発言。エレベーターを降りた後も、「今日はダメ、ほんとに。」「今日はちょっと」「体調が。」等発言。その後、順次A宅に入室。

・事件の申告に至る過程…翌日、X女はY女から警察に申告するよう勧められ、「強引めに性行為をされて」と申告した(その際、「性行為自体は(中略)自分で断れなかったのでもう(中略)いいんですけど、その動画が」等とも述べた)。警察の聴取が行われたが、X女は当初、口腔性交【1】について申告しなかった。また当初、口腔性交を強制してきたのは「3名」と申告(実際は2名でC男とは性行為していない)。)

1審は、X女の事件当時の記憶について、一部欠落しており、口腔性交【1】や口腔性交【2】が始まったきっかけについて覚えていなかったことを、
「それぞれ印象に残る場面であるはずなのに記憶しておらず」と指摘する一方、「相当量の飲酒をしていたことや時間の経過を踏まえると、記憶の欠落や混同があることは不自然ではない」と判断しました。

X女が被害後、性犯罪被害相談電話で「性行為自体は、警察呼ぶとか、自分で断れなかったのでもう、なんか、いいんですけど、その動画が」と話したり、X女が当初、警察に口腔性交【1】について申告していなかったことから、
B男とC男の弁護人は「X女が被害申告したのは動画拡散を阻止するためであり、そのために強制的な性交等であった旨誇張して供述をする動機や必要性がある」と主張しました。

これに対して、
1審は「性被害にあった者にとって、被害直後の段階では混乱や動揺から抜け出せず、被害を思い出すことにも苦痛が伴うであろうことは想像に難くないから、被害申告の段階では記憶を整理できず、何があったのかを十分に把握できていなくとも無理はない」などとして、X女の証言の信用性を認めました。

一方、
2審では、「X女が被害申告した当初の主たる目的は、性被害として処罰を求めることよりも、動画の拡散防止にあったことは明らか」としたうえで、X女が動画の拡散を防止するために「状況等を誇張し、自身の不利な行動を隠して矮小化して供述する明白な動機があり、実際に口腔性交【1】の事実等を隠す内容の虚偽供述をした事実もある」と指摘しました。
→X女の証言の信用性を認めませんでした。

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まとめると、
X女が当初、警察に口腔性交【1】について申告していなかったことについて、1審では、被害直後の段階による記憶の混乱・動揺や相当量の飲酒の影響から、X女の証言の信用性を認めました。
→虚偽供述した訳ではないと判断。

2審では、申告していなかったことについて、
動画拡散防止の目的で、X女は当初、無理やりの性行為だと信じてもらうため警察にあえて話さなかった行為があり、口腔性交【1】の事実等を隠す内容の虚偽供述をしたと判断しました。

B男・C男に実刑判決をくだした地裁判決でも、口腔性交【1】の暴行・脅迫は認めていない(つまり、ここの部分だけでみると犯罪不成立)ことから、口腔性交【1】の事実を申告する=自身の不利な行動を供述することになるため、あえて隠した可能性があると2審は判断したとみられます。

社会的反応

批判の声

  • 性暴力被害者支援団体や市民からは、「被害者の声が軽視されている」との批判が相次いでいる。

  • SNSでは裁判長への批判や誤解に基づく情報発言が多く見られる。

  • 支持する意見

  • 無罪推定の原則や証拠主義に基づき、慎重な判断を支持する声もある。

動画拡散の懸念と供述の信用性の関係

ここから私見になります。
個人的には、2審の判決が「動画の拡散を防止するために虚偽供述を行った可能性がある」として証言の信用性を否定し、それが無罪判決の根拠の一部となった点には、疑問が残ります。

第一に、動画撮影と同意の問題があります。性行為そのものへの同意と、その行為を動画に撮影することへの同意は別の問題です。

X女は被害後、性犯罪被害相談電話で「性行為自体は、警察呼ぶとか、自分で断れなかったのでもう、なんか、いいんですけど、その動画が」と話しています。

性行為において「撮影されること」に同意するかどうかは、性的自己決定権を考える上で極めて重要だといえるでしょう。
仮に、性行為への同意があったとしても、撮影への同意は別の問題であり、それ自体が非常に高いハードルを伴うものです。

性行為に同意していた場合でも、動画撮影に同意していないことはあり得ることです。
動画がどのように使用されるか、拡散される可能性があるかを被害者が認識していなければ、通常、それに同意することはできないはずです。
つまり、動画撮影に同意がなかった場合、撮影を伴う性行為の同意も疑わしいといえそうです。

次に、動画撮影の影響です。被害者が動画の拡散を懸念する理由は何でしょうか。
動画が不特定多数に拡散される可能性は、被害者にとって大きな心理的負担をもたらします。

そのため、「拡散を防止したい」という願いはごく自然な心理だといえます。X女の被害申告に動画の拡散防止という目的があるからといって、それが自身に不利な行動を隠し、虚偽供述をする動機になるとは限りません。

それ以前の問題として、
同意を得ずに撮影すること自体が、性行為の不同意を示す要素であるとも考えられるのではないでしょうか。

地裁の判断枠組み

地裁は「性的自己決定権」の観点から、自由な意思決定ができる状況でなければ同意が成立しないとしました。

「強制性交等罪の成立が妨げられる同意とは、強制性交等に応じるか否かについて、自由な意思決定に基づき真に同意することを要すると解されるところ、いつ誰とどのような態様で性交等をするかという性的自己決定権を行使できる状態にない場合には、真に同意していたとはいえない」という枠組みを提示して判断しました。

この枠組みからいえば、B・C男はそれぞれの性行為の動画撮影について、何の目的で撮影するのか、動画は誰がどのようにして管理するのか、その後拡散される可能性はあるのか等の確認をしないまま性行為※に及んでいる点で、「(X女は)真に同意していたとはいえない」と考えられるのではないでしょうか。

※性行為について、C男は除く。

高裁は「同意があった疑いを払拭できない」としましたが、撮影を含む状況全体を考慮すれば、「自由な意思決定」が妨げられていた可能性を十分に評価していないように見えます。

ただし、2審は、X女が当初警察に口腔性交【1】について申告していなかったことのみをもって証言の信用性を認めず、無罪判決をだしたわけではないので、注意が必要です。
高裁は、買い出しを終えてA男方に合流したY女に、X女がA男と口腔性交したことに関して伝えようとした様子が全くないことなどを挙げ、それぞれの性的行為について「X女が同意の上でした疑いを払拭できない」と認定しています。


参考サイト:

整理|報道記事から整理する、滋賀医大生事件控訴審の判旨
https://note.com/compact_1218/n/n49b59d561e7a


滋賀医大生・性暴力事件、大阪高裁はなぜ「無罪」と判断? 【判決詳報】


性暴力事件で医大生に無罪判決、「部屋に入ったら同意?」SNSで紛糾…裁判所はどう判断したのか


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