菌糸ビンの菌種と樹種の使い分けについて
こんにちは!Stag Beetleです。
今回はクワガタ(主にオオクワ・ヒラタ)の幼虫飼育をしていて感じた、菌糸ビンの特性と使い分けについて考察を書いていこうと思います。
私自身のブリード経験に基づいた、個人的な考察等を踏まえた内容になりますので、参考程度にご覧いただけると幸いです。
~この記事はこんな方におススメ~
菌種ごとの特徴
ここではオオヒラタケ・ヒラタケ・カンタケについて、それぞれの特徴を述べます。
オオヒラタケ
比較的高温(25℃程度)に強い。
20℃付近で温度差が生じるとキノコが生える。
3種類の中では一番オガを腐朽する作用が強いため、幼虫にとっては食しやすいが劣化も早い。
急激に幼虫が肥大化するが老けるのも早く、成熟期間が短期で蛹化するためか、やや羽化・蛹化不全が多い印象。
3か月を過ぎると見た目でも菌糸の劣化が確認できる。
ヒラタケ
オオヒラタケとカンタケの中間的な特徴を有する。
メーカーにもよるが、25℃を超えると劣化や菌のダウンが生じることがある。
18~20℃付近で温度差が生じるとキノコが生えるが、オオヒラタケほどシビアではない。
オガの腐朽作用はオオヒラタケより弱いため、菌糸ビンの劣化は遅いが幼虫の成長も遅く、初2令幼虫は半年以上成長しないケースもある。
死亡率は低いが、消化吸収能力が弱い個体は幼虫期間が長いにも関わらず小さく羽化する。
一方で、消化吸収能力の高い個体は3令初期以降に急成長し、オオヒラタケの様な急な老け込みが無いため、蛹化に向けてじっくりと成熟期間を設けることが出来る。
高温にならなければ3~4ヶ月経過しても劣化は少ない。
カンタケ
低温で温度差が生じるとキノコが生えるらしいが、筆者が使用した限りでは18~25℃の環境ではキノコは生えなかった。
高温に弱いため25℃を超えると劣化や菌のダウン、青カビが発生することがある。
オガの腐朽は遅いので、消化吸収能力の弱い個体(種)や初2令幼虫はヒラタケ以上に成長しないか、死亡する個体も見られた。
一方で、3令期以降の幼虫はじっくりと成長し、急激な老け込みがない。
高温にならなければ半年経ってもあまり劣化しないため、羽化ビンやに適していると思われる。
オガの種類による違い(使用感)
オガはメーカーによって様々な樹種が使用されているほか、生オガと廃オガ、異なる樹種のミックス等多岐にわたるため、それぞれの特性を把握するには色々と検証していく必要があります。
以下は筆者が使用したことのある樹種で、いずれもオオヒラタケ菌糸での使用感です。
ブナ(生オガ)
腐朽されやすいためか、幼虫にとって消化吸収が良いようで体重が乗りやすい。
初令幼虫が順調に成長するが、他の樹種と比べると劣化が早い。
スマトラのように1本目から体重を乗せた方が大型化する種や、食性が弱い種に向いていそう。
クヌギ(生オガ)
ブナよりも腐朽が遅いためか、菌糸ビンの持ちが良い分、幼虫の成長は緩やか。
幼虫が死亡しやすいという訳ではないが、ブナ菌糸から移行すると拒食する個体もいる。
ヒラタやアンテのように2度食いし、幼虫期間が長い種と相性が良さそう。
エノキ(生オガ)
菌糸ビンの持ちが良く、クヌギに近い印象。
エノキに関しては既製品ボトルを使用したが、4か月経過しても見た目の劣化はほとんど見られなかった。
ブナから移行すると拒食する個体もいる。
1度しか使用していないので適切に評価できないが、どちらかと言えばヒラタやアンテの様な2度食い系に合いそう。
幼虫が成長しない・成長が遅い 成長不良対策
クワガタにも個体差がありますので、同じように飼育していても成長(加令)しない個体や成長の遅い個体が出てきます。
そう言った場合の解決方法や、成長不良を未然に防ぐ方法について、私の経験から有効であったものをご紹介します。
その前に、どうして成長不良になるのか原因を整理してみましょう。
成長不良の主な原因
まず、成長不良の原因として考えられるのは、だいたい下記の3つに当てはまるかなと思います。
このうち遺伝疾患や病気については手の施しようが有りませんが、エサの問題と温度の問題ならブリーダーの手で解決できますね。
エサが合っていない場合
エサが合わなくて成長不良に陥る場合、だいたいの原因はオガの腐朽が浅く消化吸収できないといったところに行きつくと感じております。
したがって、この場合の対策としてはオガが腐朽したエサを選択することで成長を促すという事になります。
具体的には、発酵マットやブナオガのオオヒラタケ菌糸を与えます。
消化吸収能力が低い個体は、孵化から4か月以上経過しても初令や2令初期のまま成長が止まっているので、そのような場合は発酵マットやブナオガのオオヒラタケ菌糸を詰めたカップに投入し、数週間から2か月程度様子を見ます。
このときの容量は400㏄のプリンカップで十分です。ここで3令初期まで成長させます。
3令初期まで育つと消化期間が成熟するのか、安定して成長し始めるので、このようになればヒラタケやカンタケの菌糸ビンも食せるようになります。
また、ヒラタケやカンタケを使用する場合、詰めてから1ヶ月くらい経過したものを使用するのも、幼虫の消化吸収の手助けになるのではないかと考えております。
温度が合わない(低い)場合
温度が原因で成長しない場合は、管理温度が低いことが原因と考えられます。
そのような場合は産卵温度(23~25℃)と同じ温度まで加温すると成長が促進されることがあります。
初令から低温管理し、じっくりと成長させた方が大型化すると言う説も聞きますが、私自身の経験上、初2令期を低温管理したことによる優位性はハッキリと確認できておりません。
実際、ヒラタやアンテ、グランディス、国産オオクワでは23~25℃くらいが最も幼虫の活性度が高い温度帯と感じており、安定して成長し、初2令期の死亡率も低いように感じています。
この温度帯で2令~3令初期まで成長すれば、幼虫の消化器官も成熟しているはずなので低温帯に移しても死亡する可能性は低くなり、3令期を長くとって大型化させることも出来ます。
菌糸ビンの選び方(応用編)
ここまで、クワガタの種類だけでなく幼虫の成長ステージによってもエサの向き不向きがあることをお伝えしてきましたが、ここではそれを踏まえた応用活用法をご紹介します。
いずれも筆者が実践した方法ではありますが、菌糸ビンのメーカーや血統等によっては同様に飼育できないことも考えられますので参考程度にしてください。
ケース1 スマトラオオヒラタ104㎜作出時の菌糸ビン使用例
このケースは初夏に幼虫を割出したものの、夏場に低温管理できなかったため、敢えて1本目にヒラタケ菌糸を使用し、成長を遅らせた方法です。
2本目投入時は48gしかありませんでしたが、吸収の良いオオヒラタケに入れたおかげで急激に成長し、104㎜で羽化してくれました。
ケース2 スマトラオオヒラタ 早期羽化時の菌糸ビン使用例
本ケースはケース1の104㎜と兄弟の個体になります。
夏場の高温時にオオヒラタケを食わせた影響で、幼虫が一気に成熟してしまい、体長を伸ばすことが出来ませんでした。
ケース3 グランディスオオクワガタ 89㎜作出時の菌糸ビン使用例
初令期の消化吸収能力が低い我が家のグランディスで、最も安定してサイズが出る菌糸ビン使用例です。
なお、2本目以降のオガは粗めを含んだ方がサイズが伸びる印象があります。
ちなみに、この方法でメスで55mmという特大サイズも羽化しています。
ケース4 グランディスオオクワガタ
本ケースは我が家のグランディスで幼虫体重および蛹体重のMAXを記録した菌糸ビン使用例で、20℃前後の低温飼育の事例です。
ただ、消化吸収能力が低い個体は3本目で70㎜にも満たないサイズで羽化してしまうなど、個体差が激しく安定性に欠けるのが欠点です。
ポテンシャルの高い個体は2本目交換後に急激に成長するので、大きめのビンを使用していますが、食せない個体だとビンのサイズを持て余すことになるので頭幅や食痕を手掛かりに素質を見極められないと、博打的要素が高くなってしまうのが難点です。
以上、菌糸ビンの特性と使い分けについての考察でした。
皆様の飼育のお役に立てますと幸いです。
それではまた。