元旦の主要紙社説を読む
元旦の新聞社説というのはこれからの一年あたってその社がどのような姿勢で臨むのかを示すといわれて注目される。
2025年1月1日の各紙社説を読み比べてみよう。
「不確実さ」あるいは「不確実性」というキーワードを冒頭にひいて論を展開していったのが朝日と日経である。
朝日は、権力機構である「国家」と市民が成す「社会」が拮抗して成長することが必要と説く、昨年ノーベル経済学賞を受賞した経済学者ダロン・アセモグル氏の論考を引用している。
悪い例としてロシア、そして良い例としてバングラデシュを挙げた。
日本については政治について凝視すべきだという。
「一見して不安定にみえる少数与党が、日本を変える好機にもなりうる」といい、「今年は与野党間の政策形成の過程がより可視化されるように、潮目を変えていきたい」と。
日経は同じように「不確実性」というキーワードで社説を始めたが、「危機は変革の生みの親」であり「次世代に希望をつなぐ道筋をつけたい」と主張する。
海外情勢の分析の後で、こう述べる「ピンチをチャンスにいかに変えるかという、しなやかな発想と知恵こそが問われている」。
そして「物価や金利が上がる環境は経済の生産性を高め、賃上げにもつながる改革の呼び水となる」というのだ。
(編者より:現在の経済状況下、貧困などに苦しむ庶民に対するまなざしがないように思えた)
地球温暖化、自由貿易への障壁、内向きになることが懸念されるトランプ米新政権などを挙げて、日本が成すべきこととして「欧州やアジアの友好国と手を携え、国際秩序の維持に外交的な努力を尽くすべきである」とした。
せっかちさを戒める東京新聞社説
ユニークな社説は東京だ。まず自然災害への備えを説き、その後で「一番、怖いのは、やはり戦争」だと述べた。そしてこの戦後体制を続けていくのに一番大切なのは「民主主義の政治体制」だと強調する。
民主主義の政策決定プロセスには時間がかかるが、「人間というものは生来、せっかちにできている」という。
日本の政治は少数与党となったが「もし民意がそれを、タイパ(タイムパフォーマンス)が悪い、「決められない政治」だと見限って、選挙で政治地図を塗り替えるなら、もちろんそれも民主主義」だとする。
そして「とにかくタイパを求めるなら、一番は独裁制でしょうね」とし「結局、私たちに必要なのは、タイパの悪さを辛抱し、まどろっこしさを受け入れる雅量なのだと思います。逆にせっかちに結果を求め、性急に判断する傾向を強めていったら、社会はどんどん権威主義に近寄っていってしまうでしょうから」と述べた。
戦後80年の節目に当たって
2025年は戦後80年の節目の年である。これをサブ見出しにとった社説は毎日である。読売や産経もこの節目を強調している。
まず毎日だが、「80年を経て眼前に広がるのは暗たんたる状況だ」との現状認識を示している。
ロシアのウクライナ侵攻やガザでの戦火などをあげて、「国家による暴力の犠牲になっているのは市民だ」と強調。
そして「いま、日本に求められているのは、「自国第一」が幅を利かせる世界を「人道第一」へと軌道修正する外交努力である」とした。
さらに民主主義の後退を食い止める努力も必要だという。
「人々の不満や怒りがSNSで増幅され、社会の分断が進む。注目したいのは市民の活動だ」。
毎日は最後に「他者への共感で暴力と憎悪の連鎖を断ち切り、対話を通じて争いを解決する。そんな「人間らしい社会」を再構築できるか。人類に突き付けられた重い問いである」と述べた。
(編者より:国際情勢の多くを割くものの、国内における差別やヘイトなどの問題への言及がなく、解決策に関しても抽象論に映ったのだが)
読売は戦後80年、「日本の平和と繁栄は安定した国際秩序の賜物でもあった。その秩序が崩れようとしている。日本はもはや、国際秩序の受益者のままではいられない」とし、「国際平和のための新しい秩序作りに向けて、日本こそがその先頭に立たなければならない」と勇ましい。
「世界がむき出しの力の対決の時代になろうとしている時だからなおのこと、理念に力をよみがえらせなければならない」。
「その大きな使命を果たすだけの力量が日本にあるかどうか。その自己点検から、新しい年の一歩を踏み出さなければならない」と述べた。
そして民主主義について、「民主主義は、健全な判断力を持った公衆が選挙によって代表を選び、政治の意思決定を行うシステムである。その公衆の判断が、個人の気ままな情報発信で狂わされたら、民主主義は危機に陥る」「謝った情報によって自由な意思形成が妨げられるということは、「自由の危機」といわなければならない」とした。
(編者より:情報の発信者の問題についてのみ指摘している一方で、受け手の側の情報リテラシーについての言及がない。これは言論の自由とも関係する重要な論点だと思うのだが)
産経は大東亜戦争観についての持論を展開
産経は戦後80年にフォーカス。「今年は、日本の未来と過去を守らなければならない年になるだろう」と冒頭に記した。
「大東亜戦争(太平洋戦争)・・・について・・・史実を踏まえない誹謗は増すだろう。気概を持って反論しなければ国民精神は縮こまり、日本の歴史や当時懸命に生きた日本人の名誉は守れない」とした。
自衛隊制服組トップの言葉を紹介した後に「最近の日本の政治が危機感を十分共有しているとは思えない」と政治への不満を吐露。
「昨年の日本は、政治とカネの問題で騒動が続くなど専ら内向きだった」とし、外へ目を向けるべきだと説いた。
最後に産経節が展開される。
「戦後80年について2点指摘したい。一つ目は、大東亜戦争をめぐり、当時の日本には祖国防衛の思いに加え、人種平等の実現や欧米植民地支配打破の理想があった点を、戦後の日本人はほとんど知らされてこなかったという点だ。二つ目は史実を踏まえた議論の大切さである」。