『A Hard Day's Night』60年
今からちょうど60年前、1964年7月10日、ビートルズの3枚目のオリジナルアルバム『ア・ハード・デイズ・ナイト』がリリースされた。
このアルバムを取り上げるタイムトラベルシリーズの第三弾「The Beatles 『A Hard Day's Night』 60th Anniversary 聴き語りライブ」が東京・二子玉川の「ジェミニ・シアター」で行われた。
ブロードキャスターのピーター・バラカンさんとビートルズ研究家の藤本国彦さんがアルバムについて語るとともに、(株)エルㇷ゚のレーザーターンテーブルによって大音量で収録曲を聴いていった。
「ぼくは『Please Please Me』がリリースされた年に産声をあげましたが、各々が60年前に立ち返ってもらって、発売されたレコードを集まってホームゲームの雰囲気で楽しんでもらえたらと思ってこの企画を始めました」と(株)エルㇷ゚の竹内孝幸さんは話した。
レーザーターンテーブルとは針ではなくレーザーでレコードをかける音響システムだ。レコードに光を当てて再生していきます。レコードにはデジタルは何ら入っていないので、デジタル再生ではない。
大音量でライブの雰囲気を
さて第1部の幕開きだ。「基本的に聴き語りライブで、大音量でアルバムを聴いて、ライブの雰囲気を味わいます」と藤本さん。
そしてバラカンさんはリアルタイムで経験したビートルズについて語った。1963年初めに「Please Please Me」が出てから「一気にイギリスの音楽状況が変わりました。新人バンドなのにNME(ニューミュージカルエクスプレス)などの雑誌に毎週出るし、テレビにもずっと出るし、メディアも騒ぎ立てましたね」。
「でも次のアルバムが面白くなければ、それまでだったかもしれません。ジョンとポールの曲がよかったから持ったようなものです。ハンブルクであれだけの下積みをやったから、演奏力が身についていた」。
「立て続けにシングルを出しましたが、それがイギリスのやり方でしたね。全部買ってました。11歳でおこづかいなんてないに等しく、誕生日とかにお祝いにレコード券をもらっていて、それで買っていました。アルバムはほとんど買えなかった。子どもには無理ですね」。
ここでアルバムに行く前に、リリースの前に出ていたシングルなどを聴いた。まずは「I want to hold your hand(抱きしめたい)」。
聴き終わってバラカンさんは一言「ベースが過激だね」。すると藤本さんは「地方とかのマッサージチェアみたいにお尻の振動が」と返した。
次はB面収録の「This Boy(こいつ)」
「たわいもないラブソングだけどちょっとした工夫があるんですね。聞いたことのないような表現の仕方とか。「Please Please Me」だってあんな言葉の使い方なんて誰もしてないもの」とバラカンさん。
藤本さんは「メロディーだけでなく言葉もなんですね」と話した。
1964年初めにビートルズはパリ公演を行っていたが、その最中に米国で「I want to hold your hand」が1位になった報せが届いた。その前から米国上陸の準備を進めていたという話になった。
1963年11月23日にケネディ米大統領が暗殺されたが、「その翌日に(米テレビ番組「エド・サリバン・ショー」に)出演する予定だったけど、なくなって、翌64年2月に延期になったのです」とバラカンさん。
一週間に2度見た映画「ハード・デイズ・ナイト」
ここでEPから4曲を聴いていった。
「Long Tall Sally」。「リトル・リチャードのオリジナルって聞いたことがなかった」(バラカンさん)。「これってワンテイクだったんです」(藤本さん)。「ハンブルクでさんざんやってたからね」(バラカンさん)。
「I call your name」。「ビリー・J・クレーマー&ダコタスに(ビートルズが発表する)1年前に提供していて「Bad to me」のB面に収録されました」(藤本さん)。「当時、ビリー・J・クレーマーは結構人気があってラジオでよくかかっていましたよ」(バラカンさん)。
「Slow Down」。「ラリー・ウィリアムズってこの曲で初めて名前を知りました」(バラカンさん)。「日本では矢沢永吉のキャロルがレパートリーにしていました」(藤本さん)。
「Matchbox」。「この曲って始めはジョンが歌っていて、リンゴには本当に悪いんだけど、ジョンのほうがいいですね」(藤本さん)。「歌詞は昔のブルースによく出てくるようなものですね」(バラカンさん)。
当時イギリスでは『A Hard Day's Night』のアルバム発売のほうが同名映画より少し早かったのではないかとの話の後、バラカンさんは「13歳になるかならないかの頃でしたが、とにかく見たくて見たくてしょうがなくて、1回だけじゃないんです。一週間に2回見ました」と語った。
ここでアルバムのA面をすべて聴いた。
「A Hard Day's Night」「I should have known better(恋する二人)」「If I fell」「I'm happy just to dance with you(すてきなダンス)」「And I love her」「Tell me why」「Can't buy me love」。
藤本さんは「ビートルズのアルバムのA面、B面をばらして考えると、このA面は完璧ですよ」と話した。
バラカンさんは藤本さんに聞いた「この中で一番好きなのは?」。藤本さんの答えは「難しいですね、A Hard Day’s Night ですかね」。ピーターさんの答えは「If I fell」。ものすごくよく出来ています。メロディ、ハーモニー、コードの展開など見事です」と述べた。
「フォー・セール」につながるB面
次にB面を全曲聴いていった。
「Anytime at all」「I'll cry instead(ぼくが泣く)」「Things we said today(今日の誓い)」「When I get home(家に帰れば)」「You can't do that」「I'll be back」。
バラカンさんは「やっぱりA面に比べるとちょっと地味」という。
藤本さんは「次の『Beatles for Sale』につながるような感じがするんですよね。渋いっていうか影があるっていうか」と話した。
ここで休憩を挟んで第2部がスタートした。
ここからはあの時代にショートライブをビートルズがもし行ったらという仮定で選曲したナンバーを聴いていった。
まず「Roll Over Beethoven(ベートーベンをぶっとばせ)」。「チャック・ベリーってロックンロールを始めた人たちの中で作詩が一番すごいですね。「10セント玉があるだけで音楽が止まらない」って情景が浮かぶね、ジュークボックスの」とバラカンさんは絶賛した。続いては「I saw her standing there」。
ここで聴き比べとして日本盤ステレオで「A Hard Day's Night」。次に英国EPで「All my loving」。アメリカ盤サントラで「If I fell」。
2030年まで続くこの企画
ここでアメリカでのアルバム収録曲数についてバラカンさんは「アメリカは1枚のアルバムにつき11曲分しか(出版印刷の権利金を)払わないって。13曲入っていても11曲分しか払わないということが当時あったようです。ケチなんですよ」と話した。
次に聴いたのは「From me to you」。
「シンプルだけどいい。よく考えるとこの曲の頃は若かったし、彼らも若かった。60年後に聞いているなんて想像もしなかった」とバラカンさん。
そして「You really got a hold on me」「She loves you」を聴いた。
竹内さんは「ここ数日間、世界で一番「A Hard Day's Night」を聴いたのはぼくです。最初はチェックするだけのつもりだったのが、しみじみと聞いてしまったり、他の盤と聞き比べたりしてしまいました」という。
「当時4人が一生懸命に仕上げて作ったレコードは素晴らしい出来ですし、各国盤もそれぞれ特色があるので大切な文化財産なんです」。
この企画が終了する「2030年まで身体を大切にして頑張っていきましょう」と竹内さんが全体をまとめた。
最後に「はじけちゃおうよ」との竹内さんの呼びかけの後、「Twist and Shout」がかかってオールスタンディングの中、イベントは終了した。
次回は今年の12月4日(水)。『Beatles for Sale』の英国発売からちょうど60年目となる日に行われる予定だ。
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