映画「トノバン」を観た
フォーク・クルセダーズやサディスティック・ミカ・バンドを率いるなど長年にわたって音楽界で独特の存在感を誇った加藤和彦。
彼について多くの関係者の証言を集めた映画「トノバン 音楽家加藤和彦とその時代」を2024年6月6日(木)、アップリンク吉祥寺で観た。
トノバンこと加藤和彦という人はミュージシャンとしても、一人の人間としても全体像をつかみにくい、あるいは変わらない一つの像がないのではないかと、数々の証言を聞くうちに思った。
「予定がない人生」「あまりにも変貌が激しすぎる」「一つのところに留まらず次から次へと常に動いてゆく」などの証言もあった。
盟友きたやまおさむは加藤和彦のことを「ミュータント」と呼んだ。「ミュータント」とは「突然変異体」のことだ。
そして「加藤和彦みたいな人とは会ったことがない」と話した。
確かに彼は「ワンアンドオンリー」な存在だったのだろう。
それは音楽に限らなかった。彼は何でも一流の最高のものを求めた。
料理家の三國清三にいわせると、料理というのは「食材」も大切だがそれ以上に「組み合わせ」で、加藤和彦はいつも的確にそれを指摘したという。
映画にはないものの「加藤和彦ラスト・メッセージ」(文藝春秋)というインタビュー本によれば、ワインの知識も尋常でなかったという。
そして映画は音楽家加藤和彦の多くのミュージシャンとの交流も描き出す。例えば、竹内まりやのデビューにまつわる話。
今は亡き高橋幸宏がこの映画の発案者だ。その幸宏や坂本龍一が加藤和彦と仕事を密にしてきたことも分かり、彼らのコメントも出てくる。
もちろん、ファッショナブルなカップルとして世間に知られた安井かずみとの生活ぶりを映画は取り上げている。
2009年10月16日、加藤和彦は軽井沢のホテルで自死した。
映画は最初は証言を積み重ねるかたちでフォークル時代やサディスティック・ミカ・バンドの活動を振り返ってゆく。
ミカさんのボーカルが冴えて、若き高中正義のギターや幸宏さんのドラムを聞くことが出来る貴重なビデオを見ることができる。
その後、「ヨーロッパ三部作」などでも知られるソロ活動にも触れられていくが、1982年からあとは突然、彼の死へと場面が飛んでしまう。
27年間がすっ飛んでしまっているのだ。
その間にも加藤和彦は「だいじょうぶ マイ・フレンド」や「探偵物語」「幕末青春グラフィティ RONIN 坂本竜馬」「ハワイアン・ドリーム」といった映画音楽の制作に力を入れるなど旺盛に活動していた。
しかし、映画では触れられていない。
また、フォークル再結成やサディスティック・ミカ・バンドの再結成という大切な事柄も全く取り上げられていなかった。
いい映画だけに、その点が残念だったし、不思議だ。
きたやまおさむ、松山猛、朝妻一郎、高中正義、新田和長、つのだ☆ひろ、林立夫、泉谷しげる、小原礼、クリス・トーマスなど多くの関係者の貴重な証言が聞くことが出来ることはいいと思った。
映画の最後は加藤和彦の代表作の一つ「あの素晴らしい愛を」の2024年バージョンを坂本龍一の娘・美雨や、きたやまおさむ、坂崎幸之助らが唄う。その締めくくりはなかなかに感動的だった。
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