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貧困ジャーナリズム大賞
2025年2月15日(土)、「貧困ジャーナリズム大賞2024」の授賞式が文京シビックセンターで行われて、大賞に2作品ー「労組と弾圧ー関西生コン事件を考える」(毎日放送「映像’24『労組と弾圧』制作班)とドキュメンタリー「いのちのとりで」(鹿児島テレビ「生活保護」取材班)が選ばれて表彰された。
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のべ11人もの無罪確定者を出した労組弾圧事件「関西生コン事件」はその異様さや規模にもかかわらず、マスメディアは沈黙を続けてきた。そうした中で、同作品は地上波で初めて、しかも渦中の関西地域で制作・放映されたことが高く評価された。
「いのちのとりで」についても、一般社団法人「反貧困ネットワーク」は、「なぜ生活保護費が一律に最大1割も引き下げられたのか。受給する側の生活を映しながら引き下げの是非を問いかける・・・生活保護史を通観するスケール感あふれるドキュメンタリーを世に送り出したことに深く敬意を表する」とした。
毎日放送の伊佐治整さんは「関西で報道をやっていると”関生って反社なんでしょ”というような刷り込みがなされていました。しかし、基本的人権である労働権が侵されていることに気づいて報道したわけです」と述べた。
さらに「マスメディアとして敵対する側の当時者である経営側、警察側にも声を取りに行かなければいけないと思い、そこをご評価いただいたことは私たちは背中を押されたという気がしています」と語った。
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鹿児島テレビの領家卓裕さんは今回の作品は自分たちでエントリーしたわけでなく、取材をした方が応募して下さったという。生活保護の「利用者の方はなかなか取材に応じるのが難しいところがあって壁にぶつかりましたが、それでも拾えた声を集めて作った作品です」。
「生活保護の制度そのものが複雑すぎて、私たちも勉強しながら、苦しみながらやりました。利用者にとって分からない制度だと改めて思いました。そういう人たちの立場にたつ大切さを改めて思いました」。
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貧困ジャーナリズム大賞特別賞には書籍「ルポ低賃金」(毎日新聞記者 東海林智。地平社)とドラマ「むこう岸」(ランプ株式会社/石井智久・古川久岳、NHKエンタープライズ/西村崇、NHK/齋藤圭介)が輝いた。
毎日新聞の東海林記者は「働いているのに貧困っておかしくないかと思い貧困問題の取材を始めました・・・この国に何が分断をもたらしたのか明らかにしないといけない。労働者の分断が決定的に始まったのは95年の非正規労働の導入で、そこを明らかにしようと書かせていただいた」という。
貧困に立たされている人であれ、それを知っている人であれ、声を上げなければいけないと東海林記者。「「沈黙することは共犯者になること」で、メディアに関わる自分も共犯者だと思い、書いていこうと思いました」。
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子どもたちを取り巻く様々な困難を取り上げたドラマ「むこう岸」の受賞者・ランプ株式会社等からは「取材がなかなか難しい。伝えたいことが伝えられない。それをフィクションにすれば伝えられるという意義があります。ドラマは基本的にエンターテイメントだと思っていますが、エンターテイメントでも出来るんだなと思いました」とコメントがあった。
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これらの賞は会社に授与されるものではなく、あくまでもジャーナリスト個人とチームに対してのものだと反貧困ネットワークから説明があった。
続けて貧困ジャーナリズム賞10作品を表彰した。
新聞連載「貧困連鎖からの脱出ー伴走型支援の挑戦」(共同通信社編集委員 池谷孝司)。今回取材をしたのは埼玉県のアスポートで、「2010年から貧困問題に気づいて無料で学習支援を続けてきた団体だ」と池谷さん。
「特徴は家庭訪問で、家庭がまず苦しいので訪問して、こういう方法があると伝えて一緒にやっていくというところです」。
池谷さんは「とても素晴らしい活動だと思って取材をして、一年間で60回の連載をしたが、取材先に対しては深く感謝している」と述べた。
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新聞連載「希望って何ですか 続・貧困の中の子ども」(下野新聞社編集局子どもの希望取材班)からは伊藤慧記者が挨拶に立ち「10年前に子どもの貧困問題の輪郭を取り上げた、その続編です。子どもの貧困対策法が出来た年で、それから何が変わって、何が変わらなかったか、そういう視点で取材を進めました」と話した。
そして「新聞で取り上げるだけでなく、実践が必要だということで昨年5月、我々メンバーで子ども食堂を始めました」。
「子どもの貧困問題、子どもを取り巻く環境を伝え続けることが我々の責務だと感じています」。
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KNBふるさとスペシャル「半透明のわたし 生きる権利もとめて」の北日本放送(株)報道局の吉田颯人記者は入社して5年目。「司法担当をしていてそのなかで一番衝撃を受けたのが生活保護の裁判だった」と話す。
「富山県は生活保護の受給率が一番低いほうだが、こんなに苦しんで貧困にあえいでいる人たちがいるのにも関わらず目にしにくい、半透明になってしまっているのではないか」と問題意識を持った。
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岐阜新聞社の山田俊介ほか取材班も貧困ジャーナリズム賞を新聞連載「ホームレスはどこへ行った―岐阜の現場からー」で受賞した。岐阜市における生活保護の水際作戦を告発した。
山田記者はいう「窓口で追い返される。ただそういうところだけに問題は留まっていないと、炊き出しに行ったり、車上生活をしている人たちと対話を重ねたりして、社会にそんな苦しみがあるということを発信していくなかで、だんだんと記事に共感してくれる仲間が増えて、行政も巻き込みながら、どうやって解決していくのかという伴走型報道になっています」。
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書籍「ルポ『ふつう』という檻~発達障害から見える日本の実像」(岩波書店)で受賞した信濃毎日新聞社取材班から鈴木宏尚記者が挨拶に立って「発達障害にさせられる実態があると思います。自閉症など特性があって所属している集団の中で生きづらい時、お医者さんがそう診断するのです」。
学校で生きづらいから学校に行けなくなり、社会的に困窮することになってしまう人たちがいるのです、と鈴木記者は述べた。
「間違いなく、生産性を要求する社会的要請の中で生きづらい若い人たちなどが増えている。そこには資本主義(の問題)があると思います。目を凝らして社会の本質を見ていく必要があると思っています」。
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貧困ジャーナリズム賞受賞作のあと5作品は次の通り。
〇ETV特集「あなたの隣人になりたいー”難民”の人々と歩むー」((株)テムジン/房満満)〇新聞連載「砂上の安全網」、「続・砂上の安全網」(東京新聞 小松田健一)〇書籍「なぜ日本は原発を止められないのか?(文春新書)」(ジャーナリスト青木美希)〇新聞連載「高齢単身女性の貧困をめぐる一連の報道」(朝日新聞東京社会部)〇書籍「黴の生えた病棟で ルポ神出病院虐待事件(毎日新聞出版)」(神戸新聞取材班)